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「祖国を追われ難民となってしまった人でも、新しい挑戦ができる環境をつくりたい。起業家としてイノベーションの担い手となってもらいたい」

2018年1月、NPO法人ETIC.とJ.P.モルガンが主宰するプログラム「Impact Lab」で、難民の起業支援に取り組む英国の社会的企業「TERN(The Entrepreneurial Refugee Network)」を訪問する機会がありました。

共同創業者のチャーリー・フレーザーは、難民として見知らぬ国に逃れた結果、そこで最低レベルの生活を強いられがちな人たちこそ、起業という選択肢をもって然るべきだ、と私たちに熱心に説明してくれました。

難民にあまり馴染みのない日本人にとっては、難民支援と聞くと生活支援や一般的な就労支援などが最初に思い浮かんでしまうと思います。私自身も「難民の起業を支援する」というTERNのアイデアを最初に聞いたときは、なぜそれが必要なのか、疑問を感じずにはいられませんでした。

公的機関が取り組む「支援」であれば、私たちが最初に考えるような「最低ラインの生活の確保を目指すアプローチ」をとることは正しいでしょう。しかし、社会的企業として、難民のもつポテンシャルを社会のなかで最大限に引き出すためには、本来どのような「事業」が必要となるのか。固定観念を捨て、ゼロから考え抜いたチャーリーたちの辿り着いたアイデアは「起業支援」でした。

「難民のなかには、『大学で専門性の高い学位まで取ったわたしが、カフェテリアでコーヒーをいれる仕事やスーパーでレジ打ちをする仕事しか選ぶことができないのは、なぜなのか』という怒りと諦めの感情を抱えている人たちが、たくさんいる」とチャーリーは言います。

TERNが社会的企業である以上、また、難民のなかに自分らしい生き方ができずにもどかしさを抱える人が多く存在する以上、「必要最低限度の支援」に活動を限定する必要はまったくない、というのがTERNの発想です。

ボスニア難民のエディン・バシックは、英国に来た当初は資金も人脈もなく、皿洗いから仕事を始めた難民の一人。

彼が01年に創業したピザチェーン「Firezza」は、2016年には同業大手の「Pizza Express」が500万ポンドで買収、現在はロンドンを中心に17店舗を展開しています。これは「難民起業」の成功例のひとつで、TERNはまさに「次のエディン」を輩出することを目指しているのです。

個人的な思いになりますが、私はTERNの取り組みが単なる「支援」を超えた、新しいタイプのイノベーション創出に向けた取り組みになるのではないかと期待しています。

科学哲学者のトーマス・クーンや近年のイノベーション研究は「パラダイムシフト/イノベーションを担うのは、既存のパラダイムにとっての新参者である」と指摘していますが、TERNの活動こそ、難民というその社会にとって異質な存在を新たなイノベーションの原動力としていく取り組みにほかならないと考えるからです。

まだまだ創業から日の浅いTERNですが、難民と一緒に創出するイノベーションを、大いに期待したいところです。


森本真輔◎ソシエテ創業者。東京大学教養学部卒業後、野村総合研究所、ローランド・ベルガー、サラヤ・イースト・アフリカ、キズキを経て、2018年にソシエテを創業し、現在に至る。

文=森本真輔

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