岐阜県の地場産業にデザインの力で光を当てるプロジェクト「CASA GIFU」は、3回目の参加。今年は商品化を意識した展示を行った。
地場産業の実力を知らしめ、ビジネスチャンスを広げたいと考える地方自治体も、感度の高い人々が集まるミラノサローネに注目している。岐阜県は今年で3回目の参加となるが、今年はデザイン関連の店舗が多く集まる情報発信エリアであるブレラ地区を拠点とした。
「毎年30万人以上が訪れる世界最大級のデザインの祭典だと聞いていましたが、想像以上でした。街全体が盛り上がっており、ここに参加できるというだけでも光栄です。世界中のクリエイターが集まって、新しい表現やイノベーションを発表するという“現場の熱量”には圧倒される思いです」と、岐阜県知事の古田肇は語る。
岐阜県知事の古田肇。
岐阜県の展示会「CASA GIFU」の今年のテーマは「olfactory ceramics」。1300年の歴史をもつ美濃焼を紹介しているが、今回もプロデュースを行うのは、スイスを本拠地に世界中で活躍しているデザイン会社、アトリエ・オイである。
「ミラノ市内の展示会場も視察しましたが、あらためてアトリエ・オイの凄さを実感しました。とあるラグジュアリーブランドでは、展示の大半が彼らの作品でしたからね。世界的に実力が認められているアトリエ・オイと1000年以上の歴史をもつ岐阜県の伝統の力が融合するとどうなるのか? それがCASA GIFUの面白いところです。
アトリエ・オイは、美濃焼を単なるプロダクトとして見るだけでなく、美濃の地で培われた産地独自のノウハウや継承されている文化まで観察し、どうやって欧州の文化と交差させるか、そういった視線で美濃焼の新しい魅せ方を提案してくれました」
一昨年は美濃和紙や飛騨の家具、昨年は関の刀剣や刃物をテーマにしたが、どちらもプロトタイプの展示が中心であり、まずは関心を持ってもらうことが目的だった。しかし今回は企画段階から商品化を意識したため、展示会場はブレラ地区のメインストリートに面した場所を確保し、空間構成もインテリアショップ風にしている。いくら魅力的な地場産業であっても、アイテムや見せ方を工夫しなければ、目の肥えた人々が集まるミラノサローネで特別な存在にはなれないのだ。
今回の展示の中心となるのは、3つの美濃焼工房で作られたアロマディフューザー。それぞれの工房の特性を生かした作品には、Tajimi(多治見)、Mizunami(瑞浪)、Toki(土岐)と、地名を冠した名称をつけた。さらに使用するアロマオイルは、岐阜県と長野県との県境に位置する加子母(かしも)地域の東濃ひのきから抽出したもの。伊勢神宮の式年遷宮御用材にも使われるほどの高品質素材から生まれた香り高いオイルも、世界に伝えたい岐阜ブランドの一つである。
(左)人間国宝加藤卓男を輩出した多治見市の幸兵衛窯が製作する「Tajimi-oï」は、3つのオブジェの天面にアロマオイルを垂らして香りを広げる。右端のオブジェは内部が空洞になっており、オイルの収納場所になる。(右)オリジナルの粘土まで製造している土岐市の芳泉窯による「Toki-oï」。3つに分割するオブジェの内部にアロマオイルを垂らして使う。
(左)鋳込み成形技術を得意とする瑞浪市の陶磁器製造会社深山が製造した「Mizunami-oï」は器の中に水とアロマオイルを入れ、傾きに合わせて回転する木製の水車で香りを広げる仕組み。(右)会場には若い世代も訪れ、興味深そうに写真を撮っていた。これもブレラ地区で開催した目的のひとつ。
「3年連続でミラノサローネに参加し、本県が誇る地場産業をほぼカバーする形で世界に発信してきました。私たちの足元にあるものが、世界の中でどう輝くか。そういったチャレンジの場でもあったわけですが、毎年、そのデザインのみならず、使いやすさや品質面でも評価いただき、“岐阜ブランド”が、確実に世界に浸透し、価値づけられたと思います。
どれだけ優れたモノ作りをしていても、地方でじっとしていてはダメ。だから岐阜県は地場産業の力を信じて打って出る。ミラノサローネの経験を今後に生かし、地場産業の在り方について、もっと深い提案をしたいですね」
美濃焼の工房の人々にとっても、個人の力だけでは実現できない、“海外の有名デザイナーとの共作”や“ミラノサローネ出展”というチャレンジを通して、大きな意識改革があったと聞く。地場産業を発展させるためには、外へと視野を広げればよい。岐阜県はミラノサローネを媒介にして、伝統や歴史、技術などを世界に発信してきた。あとはその実りを、刈り取っていくばかりである。