ビジネス

2018.04.27

「悔しくないのか」 堕ちた家業を変えるまで

スノーピーク 山井太社長(左)とミツフジ 三寺歩社長


──面と向かってファンから言われるのは、きついですね。

山井:実は、それまで我々はユーザーが値段に納得して製品を買ってくれているものと思っていました。たしかに他社が1万円や2万円といった値段でテントを売っているところを、我々は8万円という値段を付けていました。しかし、他社製品がすぐに雨漏りしたりする一方で、我々の製品は作りをしっかりさせていて決してそんなことは起こさない。

年に何十回と使えて、さらに10年もつ耐久性がある。これはむしろ値段としては安いだろうと思っていました。ところが、実際はちがった。面と向かってユーザーから「高い」と言われるのはきつかったですね。

そこで何をしたかというと、製品の流通を見直しました。それまで問屋さんを介して商品を販売していたところ、そのワンレイヤーを抜く決断をしたのです。その結果、問屋のマージン分の価格を抑えることができ、約8万円だったテントを当時5万9800円で売ることができるようになりました。


スノーピーク 山井太社長

価格が3割下がりユーザーの手に届きやすくなったことで、会社の売り上げを10年続けて伸ばすことができました。問屋さんをはじめ、お取引先との摩擦はありましたが、ユーザーの「声」を聞いて流通を見直したことが、ターニングポイントだったと思います。

──小さい企業だからこそできるメリットがあれば教えていただけますか。

山井:損得軸ではなく、「好き嫌い軸」で考えて商売ができる。それが小さい会社の最大の強みではないでしょうか。

小さい企業はたとえ商売がうまくいかなくなっても、損害自体は大きくなくて済む。失うものはない。一方で、大企業は「損得軸」で考えて商売をやらなければならないように思います。同じ業界内で横並びを意識したりと、縛りがある。小さい会社は、ブルーオーシャンが目の前にあり、それが自分の好きな領域であれば、ビジネスを企てて起業できます。

──「好き嫌い軸」というお話が出ましたが、ミツフジの「軸」は何だと思われますか?

三寺:会社の軸というよりは個人の軸になるんですが、ものすごく「悔しい」という思い。人生で何度かあったんです、「こんなんでいいのか」と思う瞬間が。それが「軸」かもしれません。

私どもがお取引先の企業を回っていると、実はスノーピークさんのお名前をよく聞くんです。というのも、スノーピークさんを妬んでいる会社がいっぱいあって(笑)。それは皆さん、羨ましがっているんですよね。「うちはああいう風になれない」って。


ミツフジ 三寺歩社長

我々も、実は「ミツフジはいいよね」って言われることがあります。「投資を受けたり、ちゃらちゃら金を集めて」って。全然、ちゃらちゃらしてないんですけどね(笑)。

なんでこの人たちこうなんだろう、と悔しくなるんですよね。

私が会社に戻ったときもそうでした。工場がなくなって、事務所もなくなって、本当に何もないんです。私の父といとこが当時は会社を経営していたのですが、もう彼らにも悔しさはなくなっているんです。「堕ちていくだけだからもうしょうがないし、誰もわかってくれない」って。

私はもう、無限の悔しさが溢れてくるんですよね。「なんなんだこれは」と。「こんなんでいいのか」、と。

既成の事実に対してみんながあきらめているところを、「こんなんでいいのか」と思って取り組んでいます。それが、ミツフジの「軸」かもしれないですね。


三寺歩◎1977年2月京都生まれ。立命館大学経営学部卒。在学中の2001年に海外在住者向けネット書店「ねっとほんや」を起ち上げる。01年、松下電器産業に入社。その後、シスコシステムズ、SAPジャパンなどIT企業で営業職を経て、14年に実家の三ツ冨士繊維工業に入り、社長に就任。15年に「ミツフジ株式会社」に社名を変更した。

山井太◎スノーピーク代表取締役社長。1959年新潟県生まれ。明治大学卒業後、外資系商社を経て、1986年ヤマコウ(現・スノーピーク)に入社。キャンプ事業を立ち上げて革新的な製品を開発し、事業を急成長させた。1996年代表取締役社長に就任。自身も熱心なアウトドア愛好家で、年間30〜60泊以上をキャンプで過ごす。新潟県三条市の本社は5万坪のキャンプ場の中にある。

文=加藤智朗 写真=岩沢蘭

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