ビジネス

2018.03.20

世界の知性を担う米名門大のグローバル戦略

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「やあ、お久しぶり。元気だったかい?」
 
2017年12月、コンラッド東京の特別ラウンジで、ドレスをまとった女性にそう声をかけたのは、ニューヨーク大学(NYU)の学長、アンドリュー・ハミルトンだ。向かいのボールルームには200人ほどの男女が集まっている。日本在住のNYUの卒業生を招いた“寄付金集め”のパーティーが開かれたのである。
 
世界の大学間で競争が激化している。英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の「世界大学ランキング2018」によると、オックスフォード大学を筆頭に英米が上位を独占。その2カ国間で熾烈な争いが起きている。
 
ハミルトンは言う。

「生き残るためには、世界の優秀な頭脳を確保しなければなりません。その源泉となるのが資金力です。優位な給与と奨学金は、優れた研究者と学生をひき付ける。いまの時代、両者はよりよい条件を求めて容易に国境を超え、グローバルに移動するのです」
 
イギリスで生まれ、ケンブリッジ大学で化学の博士号を取得したハミルトンは、アメリカへ渡り、イェール大学時代に資金調達の手腕が買われ学長に抜擢された。その後、オックスフォード大学に戻り、“米国流”を取り入れて資金源の拡充に成功。16年からNYU学長となり、翌年にはオックスフォード大学時代を凌ぐ6億ドルの寄付金を集めた。
 
アメリカの大学に巨額の寄付金が流れ込んでいる。16年の総額は過去最高の410億ドルを記録。首位はハーバード大学の12億ドルで、上位1%の大学が総額の3割を占め、大学間の格差が広がっているのだ。
 
では、大学はどうすれば寄付金を増やすことができるのであろうか。ハミルトンによるとそれは、「グローバルなビジネスシーンで活躍する学生を、いかに“多く”輩出するか」だという。実際、NYUは海外展開に積極的で、マンハッタンのほか、上海とアブダビにキャンパスがあり、欧州主要都市やテルアビブ、アクラ、ブエノスアイレスなど世界11カ所に海外拠点を構える。

「『最高レベルの教育』を施した学生は、その後、『最高レベルの寄付金』を拠出する卒業生となる。いま、そんな正のスパイラルが地球規模で回り始めています」


アンドリュー・ハミルトン◎1952年イギリス生まれ。80年ケンブリッジ大学博士号取得。92年ピッツバーグ大学教授。イェール大学やオックスフォード大学(900年の歴史上初の他大学出身者)の学長を経て、2016年にニューヨーク大学(NYU)の学長に就任。専門は超分子化学。資金集めに定評があるものの、「学術研究が評価されてNYU学長に就いた」と話す。

文=北島英之 写真=ヤン・ブース

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