日本国内におけるライフスタイル系ホテルの増加
これらのゲストハウスシーンの波に伴い、ホテルシーンにも新しい動きが見えつつある。「ライフスタイル系」と呼ばれる、ホテルを通して生活の新しいあり方を提案しようという哲学を持ったホテルが国内外で増えつつある。
世界を見渡せば、アート系やライフスタイル系のホテルは以前から各地に点在していたが、やはり現在のホテルトレンドに大きく影響しているのはアメリカ・シアトル発の「Ace Hotel」であろう。
古い建築をリノベーションし、地元のクリエイターとコラボしながら地域色を反映したデザインを取り入れ、地域の人が訪れることができるような共用スペースを広く設けたエースホテルの形は、世界のアーティストに広く受け入れられ、ミレニアル世代を代表するホテルとなった。現在ホテルプロデュースに関わる人は、好むと好まざるとエースのことを意識しているし、間違いなくその影響を受けている。
ACE HOTEL(出典:ACE HOTEL)
日本国内で言えば、テイク&ギブニーズの手がけた「TRUNK (HOTEL)(東京)」、カフェカンパニーの「WIRED HOTEL(東京)」、無印良品の「MUJI HOTEL」ストライプ・インターナショナルの「hotel koe tokyo」など、独自の世界観を持っている大手ブランドが自分たちの提案するライフスタイルを落とし込んだホテルの開業が相次いだ。
TRUNK(出典:METROPOLIS)
WIRED HOTEL(出典:VOSSY)
MUJI HOTEL(出典:MUJI)
hotel koe tokyo(出典:ストライプインターナショナル)
また、星野リゾートも「テンションの上がるホテル」というフレーズとともにミレニアルズ向けの新ブランド「OMO」をリリースし、マリオットグループもミレニアルズ向けのライン「MOXY HOTEL」を東京・大阪で同時オープンさせるなど、既存の大手都市型ホテルチェーンもゼネレーションZの囲い込みに動き出している。
MOXY HOTEL(出典:Marriott hotel)
OMO(出典:Booking.com)
これからのホテルシーンと消費者行動
ホテルのトレンドを俯瞰すると、クリエイティブとコピーの歴史であることが見えてくる。ホテルのデザインの高品質化が進み、マスメディアとはパラレルなメディア(=SNS)がマス化する近い未来、インスタ映えを前提としたホテルブランディングの優位性の崩壊は避けられない。
マズローの五段階説(生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、評価欲求、自己実現欲求)でいうところの、評価欲求(他人からの承認を得たいという思い)のフェーズを消費者は既に超越していて、自己実現欲求のフェーズに移行を始めている。精神的あり方消費の時代に差し掛かっている今、ホテルに求められるのは物的な満足感でも見てくれの美しさでもなく、ホテルが目指す世界観やストーリーに対して共感できるか、その空間において自分が自分らしく存在できるかどうかである。
どこのホテルに宿泊するか(=どんなストーリーに対して金銭を支払うか)、という選択を通して自己実現を目指す社会がすぐそこにある。これからのホテルシーンに求められるのは、「哲学」というストーリーなのである。