谷本:取締役を選ぶ基準、条件などはあるのでしょうか。
安渕:取締役は、元来の意味でいうと、株主を代表する人であり、経営する人ではありません。経営を兼務している人と経営をやらない人は本来違うわけです。経営をやらない人が、本来、取締役。いわゆるグローバル企業の取締役会では、相互評価をしています。
誰かを取締役に起用するときにも指名委員会の承認が必要です。そのときは既存の取締役との人的関係や、過去の取引関係など、いわゆる利害関係調査をやる。利害関係調査に通ったうえで、どういう人なのかということで選ぶ。日本企業とは少し違うと思います。
谷本:GEを含む外資系企業はガバナンスがものすごく効いている気がしますが、強いガバナンスを作るために必要なことはありますか?
Forbes JAPAN副編集長、谷本有香
安渕:米企業も決して昔からガバナンスが強かったわけではありません。欧米企業の方がおそらくたくさんの不祥事が起こっています。反省を踏まえてやり方を変えてきているということもあると思います。
真似できることしたらまず、第3者の目を入れることですね。欧米企業はそれで取締役会のやり方を変えてきた部分が大きいのですが、日本で言っている社外取締役とグローバル企業のそれとはイメージが違います。日本では、社外取締役は、なんとなくマイノリティーで、外から来た人が時々アドバイスするというようにとられがちですが、基本的にグローバル企業では取締役会は社外の人が中心です。
GEでいうと、16人の取締役のうち15人が社外です。彼らの一番大きな使命は、会社を長期的に成功させること。そのために最も重要なのは、次のCEOを決めることです。決めたら会社の成長のためにそのCEOを徹底的にサポートします。しっかりサポートし、会社を正しい方向へ成長させるために取締役会があるというわけです。
もう一つには、会社の文化として、率先垂範し、やってはいけないことを上から下へ浸透させることが必要です。例えば会社にとって大事な企業倫理を、上から下に徹底して伝えて実践するということをエンドレスに続けること。そして、悪い事例に対しては、会社の中で罰則を設けて「こういったことはやってはいけない」としっかりと示すことです。社内にコンプライアンスとガバナンスの本がたくさん置いてあるだけではダメですね。
人々が企業に期待しているのは最低限の法令を守ることではありません。法令を超えたところで、どういう会社なのか、何をしてくれる会社なのかということを見ています。
有名なのはジョンソン・エンド・ジョンソンで、クレド(信条)の一番に「我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する」と書かれています。この「顧客への責任が第一」というクレド、つまり信条が世界中の従業員に浸透している。こういったものがガバナンスやコンプライアンスに影響するのではないでしょうか。
ビザ・ワールドワイド・ジャパン社長、安渕聖司
安渕聖司氏◎世界200以上の国・地域約4千万以上の店舗で利用、ペイメントテクノロジーのリーディングカンパニー「Visa」の日本法人代表。早大政経学部、ハーバードビジネススクールMBA,三菱商事、日本GE代表取締役、GEキャピタル社長兼CEO等を経て、本年4月より現職。