今回は、そんな僕の店づくりにかける思いと、三田市を盛り上げていくことについて、普段考えていることをお話します。
「大人が入れない店」を作る理由
子どもの頃、学校での出来事を母親に伝えたいときに母が不在であれば、近所のおじさんやおばさんたちが時々は僕の話を聞いてくれました。彼らは僕の自慢話を鮮度の高いうちに聞いてくれましたし、ときには僕のイタズラを叱ったり、困っていたら手を差し伸べてくれました。
そういう地域コミュニティの中で育ち、発信することを諦めずに大人になれたから、今こうしていろいろなお菓子を生み出すことができているんだと感謝しています。
でも最近の親は、子どもが話す日常の細かいことに耳を傾けなくなっていると思います。そして、親が耳を傾けない分を聞いてくれる地域の大人たちも少なくなりました。だから僕は、大人が入れない店「未来製作所」を創ったんです。
大人も大好きなスイーツのお店なのに、大人は入れない。だから店内のことは入った子どもに聞くしかありません。未来製作所だけにしかない新作を常に創って、いつもたっぷり自慢話ができる環境を作ってあげる。それが表現者を生み出すための訓練になると考えています。
「未来製作所」と名付けたその店は、未来の想像力を育む部門でキッズデザイン賞をいただきました。受賞したことはもちろん嬉しいですが、僕のジャンルでこれができるのであれば、他のジャンルでもできるはず。いろんな分野のプロフェッショナルの方々が、それぞれに考えられた環境を用意されたら、何か世の中が変わるんじゃないかと思うんです。
まずは未来製作所で実証して、「お菓子屋さんでこんなことをやっているんだ!」と知ってもらって、広がっていけばいいなと考えています。
食文化を中心とした街づくり
冒頭で述べた通り、三田市は田舎にあるので小旅行気分で来てもらわなければなりません。僕はどうせ来てもらうなら、全てが楽しくて面白くないと嫌なんです。だから、お客様を丸1日コーディネートできる店として、1500坪をフル活用しています。例えば、敷地内にフォトジェニックな空間を作るとか。今もたくさん写真を撮っていただいているけど、もっといろんな仕掛けをして、エンターテインメントを深めていきたいと考えています。
その一環として、2017年11月には敷地内に「ファンタジーディレクター」というデコレーションケーキ専門店をオープンします。今思えば、童話に登場するお菓子の家は、デコレーションケーキから派生したものだったんじゃないかという気がしています。そういった想像力・創造力を刺激するようなものが集まった空間にしたい。
デコレーションケーキを注文して下さる人たちが秘めた小さなファンタジーをもっと大きく膨らますことができ、かつ、どこを撮ってもフォトジェニックな空間にしたいと思っています。
行政は三田市の自然豊かなところへの観光客誘致を考えていますが、なかなか上手くいかないと言います。でも僕から見ると、上手くいくわけがないんですよ。自然豊かな公園付近にはレストランも少ないし、タクシーは山岳料金で他地域よりも割高だったりします。