そう指摘するのは、フロムスクラッチ代表取締社長の安部泰洋だ。2010年4月に創業された同社は、マーケティングプラットフォーム「b→dash」の開発・提供を中心に事業を展開。17年5月には、産業革新機構などを割当先とする約32億円の大型調達を実施し、大きな注目を集めているスタートアップである。「データ」について俯瞰した視点を持つ安部は、企業のデータ活用が国家レベルの課題を解決する理由を、次のように語る。
「労働人口が減少していく先進国が、経済成長率を維持するためには、2つのアプローチしかありません。一つは、出生率向上やシニア・女性活用、移民政策など、労働人口を増加させる方法です。しかし、これらは中長期的な取り組みであるため、成果が出るまで時間がかかります。もう一つのアプローチが労働生産性を向上させることです。かつては機械が単純労働を代替し、生産性を上げる役割を担ってきました。今後はデータ活用を通して、生産性を上げていくことが求められます。例えば、当初3人の工数を要していた作業が、1人でも対応可能になれば、生産性は3倍。やがてその1人の作業も自動化されます。データ活用がもっと発展していくことで、『n倍の生産性向上』が実現します」
つまり安部は、労働人口の減少という避けられない未来を直視すれば、今やデータ活用は、企業経営のみならず、もはや国家レベルで重要な動きであると、考えているのだ。さらに、データを糸口に現代を紐解くと、生活者と企業が置かれている環境も目まぐるしく変化しているという。
「検索エンジン、スマートフォン、SNSの普及により、生活者を取り巻く環境は激変しています。ありとあらゆるものがインターネットにつながり、人の属性はもちろん、行動や感情といったデータまでもが取得できる時代が到来しました。一方、企業でも、大量のデータを効率的に取得・管理するために、グローバルでクラウド化が進んでいます」
また、国家のデータに関する取り組みはどうか。17年5月30日には、改正個人情報保護法が全面施行。こうした動きを安部は、「労働生産性の向上を実現させるためのデータの活用の推進」と捉える。
「改正個人情報保護法は、『データは使っていい。だから、その分だけ生産性を向上させよ』という国家からのメッセージと、考えてもいいでしょう。生活者、企業、国家──それぞれの大きな変化のクロスポイントが、まさに今なのです。これほどデータ活用経営がやりやすい時代は、過去にありませんでした。ファーストリテイリング社の柳井氏も『これからはデジタルイノベーションに成功した企業が勝つ』と言う通り、企業はデータを活用し、生産性を高めることが国家レベルでの至上命題なのです」
多くの企業が抱える、データ活用経営を阻む壁
しかし、同時に、ほとんどの企業には企業のデータ活用を阻む共通課題がある。データをいつでも活用できるよう統合された状態になっていない、複数のツールが導入されることによってますます作業が複雑化している、スキルを持った限られた企業や担当者にしかツールを使いこなせない……企業はそうした山積みの問題に直面しているという。
「経営側は、データを活用して生産性を上げようと躍起になり始めていますが、現場では問題が顕在化し、より非生産的な状況に陥っている企業も少なくありません。経営と現場の間にある課題を解消し、データ活用経営を実現していくためには、まずデータを統合し、いつでも使える状態にしておかなければなりません。また、デジタル化を推進するために、導入している複数のツールが、結果として担当者の工数を増やしては本末転倒です。工数の負荷を解消するためにも複数ではなく1つのツールで完結させる必要があります。もちろん、データ活用を専門的なスキルなしに、誰でも扱えるようにしていくことも必要です」
「いつでも(データ統合)」、「ひとつで(ひとつのツールで完結)」、「簡単に(誰でも使える)」──これら3つのポイントをおさえることが、企業がデータ活用経営を実現し、先進国が抱える労働生産性の向上という国家課題の解消へつながるというのだ。
「我々が開発・提供するb→dashは、“いつでも、ひとつで、だれでも”、データの活用を推進できるツールです。だからこそ、ただのデジタルマーケティングのプラットフォームソリューションではなく、労働生産性の向上に直結するソリューションだと、自負しています。そして、b→dashの導入企業を増やすは、我々にとって単純に『顧客を獲得すること』ではありません。現在、そして来るべき未来の国家課題を、企業経営を通して解決する──そんな壮大な企みの“共犯者を増やすこと”こそが、我々の仕事だと思っています」
▷フロムスクラッチ https://f-scratch.co.jp/
マーケティングプラットフォーム『b→dash』の開発・提供を主な事業とするデータテクノロジーカンパニー。「b→dash」は現在、国内・国外の大手企業を中心に多数導入され、データ活用経営を推進している”次世代のデータインフラ”。2017円5月には産業革新機構等から、総額約32億円の資金調達を完了。これまでに累計約45億円の資金調達を実施している。
安部泰洋(あべ・やすひろ)◎フロムスクラッチ代表取締役。ベンチャー企業の事業部長を経て、経営コンサルティング会社のリンクアンドモチベーションに入社。その後、2010年フロムスクラッチを創業。