10月上旬、中国の7都市(北京や上海、深センや杭州市等)の交通担当官は配車アプリ規制の草案を公開した。政府は7月のガイドラインで、配車アプリのドライバーや車両の審査に関し、地方政府が独自のルールを設けることを認めていた。
今回提出された規制案は、配車アプリのドライバーを地元の戸籍を持つ者に限定すると定めている。さらに北京、上海、深センの3都市は登録車両の車体に関する細かな規定も盛り込んでいる。
当局は今後数週間をかけ、規制案に関する意見を募るという。その結果、改訂が加えられる可能性もあるが、先行きは不透明だ。規制が実行されれば最大手の「滴滴出行(ディディチューシン)」のみならず、出資元のアップルやアリババ、バイドゥ、テンセントらにも大きな脅威がもたらされる。
規制の導入はドライバーや車両の調達コスト増大につながる。上海のベンチャーキャピタル「ゴビパートナーズ」のケン・シューは「滴滴は条件を満たすドライバーの雇用のため、新たなインセンティブを投じる必要に迫られる」と述べる。
滴滴は中国の配車アプリ市場で80%以上のシェアを持つ。同社は規制により登録車両が減少し運賃は倍増、配車の待ち時間は3倍になると述べている。
「上海では41万人の滴滴ドライバーがいるが、上海の戸籍を持つ者は3%以下だ。現在登録されている車両の8割以上は新規制に適合しない」と滴滴の女性広報担当者は語る。配車アプリ市場に詳しいリサーチ会社iiMediaは地元戸籍のドライバーは北京では3.6%、杭州市では10.8%とリポートしている。
政府からの「脅し」との見方も
「弊社は地方の規制担当者らに、地元出身以外のドライバーにも平等な権利が与えられることを求め、これまで築きあげた起業家精神やイノベーションを破壊しないよう呼びかけています」と滴滴の広報担当者は述べた。
YidaoやUcar等の小規模な事業者らも「戸籍の制限を設けるルールは厳しすぎる」との声明を発表した。ゴビパートナーズのシューは「規制強化の裏側には地方のタクシーの競争力を高めたい、政府の思惑がある」と分析する。
中国のタクシー会社のほとんどは政府の管理下におかれ、運賃や車両、ドライバーの保険の適用範囲に厳しい基準が設けられている。対照的に滴滴ではドライバーの保険も無く、車両の点検もしないことで低い運賃を実現した。
北京の交通規制委員会のXu Kangmingは10月9日、中国共産党の機関紙「人民日報」の記事で「配車アプリの台頭により、地方タクシーの乗客数は3割減少した」とコメントしている。
海外企業の中国進出を支援するAlliance Development Group社のクリス・デアンジェリスは「今回の規制案は議論が重ねられた結果、現状よりも緩やかなものになりそうだ」と述べている。
「この件は政府から配車アプリ業界への警告だと見ています。今後は規制案に盛り込まれたような、条件を満たす努力を続けない限り、お前たちの未来はないぞという脅しを政府は行なっているのです」とデアンジェリスは分析する。