ドナルド・トランプ氏、WSJ紙で米企業を標的にしたサイバー攻撃に関与した中国のハッカー集団に言及

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共和党候補者の指名争いに名乗りを上げているドナルド・トランプ氏は、11月9日付のウォールストリートジャーナルに掲載された意見書のなかで、米政府は中国政府による為替操作をやめさせるためあらゆる手段をとるべきだと主張し、オバマ政権は中国政府による為替操作をほぼ野放しにしていると批判した。

さらにトランプ氏は、中国で輸入品に課せられる高い関税によってアメリカは何十億ドルの金と何百万もの雇用を失っていると指摘した。

トランプ氏の意見書を読み進めていくと、これまでトランプ氏を含めて大統領選のフロントランナーたちが異様なまでに沈黙をつらぬいている話題―サイバーセキュリティに関する言及もある。トランプ氏は、9月下旬にオバマ大統領は中国政府との間で両国の知的財産を保護する目的の合意書に署名したにもかかわらず、その直後に中国のハッカー集団がアメリカの複数の企業にサイバー攻撃をしかけたと主張している。

サイバーセキュリティについて口火を切ったという点でトランプ氏は一定の称賛に値する。しかし、トランプ氏をはじめ他のすべての大統領指名候補者は、サイバーセキュリティに対する自身の立場を明確にして、もっと有権者へ伝える必要がある。

ウォールストリートジャーナルでの意見書で、トランプ氏は中国政府の為替操作とそれに対するオバマ政権の無策について説き、それに対してトランプ政権がどのような政策を展開するかについても言及した。しかし、トランプ氏は米国企業に対する中国のサイバー攻撃については何も対応策を示していない。

2015年4月1日にオバマ大統領は大統領令で、「繰り返される政府や企業を標的にしたサイバーアタックは、アメリカの安全保障や外交政策、そして経済にとって、これまで経験したことのないレベルの脅威となっている。この脅威へ対抗するため、国家非常事態を宣言する。」と発令した。一方でオバマ大統領はアメリカが中国とのサイバー戦争状態にあると言及するまでには至らなかった。

トランプ氏がサイバーセキュリティに言及したことによって、この重要課題について意見を明らかにする候補が増える可能性がある。もしトランプ氏がサイバー問題について発言すれば、共和党候補で上位につけるベン・カーソン氏や民主党候補のヒラリー・クリントン氏も立場を明確にせざるを得ない。これまでのところ、サイバーセキュリティ―に関する政策について何らかの意見を提示しているのは、共和党候補指名で苦戦を強いられているジェブ・ブッシュ氏とカーリー・フィオリーナ氏だけだ。

メディアも、サイバーセキュリティに関する議論を活発化させるどころか、この問題に関して不思議なほどの沈黙を守っている。共和党と民主党のテレビ討論の司会者たちは、まだ一度もサイバーセキュリティに関する質問をしていない。

増大するサイバー犯罪の脅威と戦うため、過去2年間でアメリカ国土安全保障省はサイバーセキュリティに関する予算を500%も増やした。オバマ大統領は2016年度の予算に1兆6800億円ものサイバーセキュリティ対策費用を組み込んだ。

オバマ政権や連邦政府機関がサイバー攻撃から国家安全保障を守るため有効に機能しているかについては議論の余地がある。もしドナルド・トランプ氏が、サイバーセキュリティ対策についての詳細なアジェンダを立案し有権者へ示すことができれば、彼はスタンディングオベーションで迎えられ、候補者争いで再びトップへ抜け出すかもしれない。

Forbes JAPAN 編集部

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