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2025.03.28 16:00

「イケア効果」「利他性」「共有体験」──行動経済学的視点から解き明かす食と幸福度の関係

2025年3月、「World Happiness Report(世界幸福度報告書)」に初めて「食」の章が設けられた。なぜ「食」は人々の幸福度を高めるのか。その理由を改めて探るため、行動経済学者・大竹文雄と、味の素(株)執行役常務・森島千佳が語り合った。


人々の幸福度を測る指標として日本にも根付いてきた「ウェルビーイング」。英オックスフォード大学・ウェルビーイングリサーチセンターなどが発行する「World Happiness Report」に今年初めて「食」の章が設けられた背景には、味の素(株)と世界的な調査会社であるギャラップ社による2022年の共同調査がある。同調査では、料理を楽しむ人々のウェルビーイング実感が楽しまなかった人より20%高く、「共食」の頻度が高い人ほどウェルビーイング指数が高い結果となった。

この結果について、行動経済学の視点から「『食』は人々の主観的幸福度に大きな影響を与える」と指摘するのが、大竹文雄だ。科学的エビデンスに基づき、現代社会における食の役割を読み解くとき、「食がもたらす本質的なウェルビーイング」への新たな視座が得られる。

料理を楽しむことと幸福度の関係

森島千佳(以下、森島):私たち味の素グループは、「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」というパーパスを掲げています。栄養バランス向上と身体的な健康との関係はエビデンスが多くありましたが、料理を楽しんだり家族や友達と食べることと幸福感の関係については研究があまりありませんでした。そこで米国調査会社のギャラップ社と調査を実施し、料理を楽しんでいる人は幸せの実感が20%高いことが明らかになりました。

大竹文雄(以下、大竹):それは興味深い結果ですね。行動経済学の観点から見ると、これは典型的な「イケア効果」だと解釈できます。イケア効果とは、自分で組み立てたり、手を加えたりした物に対して、客観的な価値以上に高く評価する心理的バイアスのことを指します。これは家具メーカー「IKEA」のセルフ組み立て家具に由来する言葉で、人が労力をかけたものに対して愛着を持ちやすいことを示しています。

大竹文雄 ⼤阪⼤学 感染症総合教育研究拠点 特任教授 CoBe-Tech共同創業者 取締役CKO

森島:なるほど。自分が何かを完成させることで満足度が高まるということですね。

大竹:はい。研究では、自分でつくったものや部分的に完成させたものを、客観的価値よりも高く評価する傾向があることが明らかになっています。料理も同じで、同じ食事でも自分でつくったもののほうが美味しく感じられるんです。

また、もう一つ重要な点として「意味のある仕事」に対する満足度の高さもあります。人間は意味がある仕事をすると満足度が高くなります。例えば、レゴブロックで人形をつくるという実験では、つくった数に対して報酬が支払われるという条件は共通のもと、一方は出来上がったものを展示し、もう一方はつくったものをすぐに壊されるというグループ分けをしました。すると、壊されても報酬は同じなのに、前者のほうがはるかに多くの作業をするという結果が出ているんです。

森島:とてもおもしろい結果ですが、納得できます。料理も同じで、誰かのために食事をつくると、その人が喜ぶ姿を想像しながら料理しますよね。それが満足感につながる。

大竹:そうなんです。利他的な行動をすると幸福度が高まるという研究結果も数多くあります。ハーバード大学の研究では、同じ金額でも自分のために使うより人のために使った人のほうが幸福度が高くなることが示されています。つまり、料理を楽しむことには「イケア効果」「利他性」「共有体験」の要素があり、行動経済学の予測と一致します。

「食」の楽しみ方の文化的差異

森島:今回の調査で興味深かったのは、地域による差も見られたことです。グローバル平均では料理を楽しんでいる人が6割程度ですが、ラテンアメリカではとても高い傾向があり、逆に日本は5割程度と低めでした。また北米やヨーロッパのほうが日本より高かったのですが、その背景には料理の定義や認識の違いがあるように思います。

大竹:文化による違いは大きいですね。日本人は料理に真面目で、手間のかかるプロセスを「料理」と考える傾向があります。一方、欧米ではもっと簡単なものでも「料理した」と認識する文化がありますよね。

森島:その通りです。ヨーロッパでは「味付け済みのお肉に缶詰のソースをかけて、チーズをのせてオーブンに入れただけでもちゃんと料理をした」と考える。これは日本の感覚だと「ちゃんとした料理」に入らないという人も少なくないと思うんです。

森島千佳 味の素(株)執行役常務

大竹:行動経済学では「参照点からの比較」という概念があります。何を比較対象にするかによって、同じ行為でも幸福度の感じ方が変わるんです。日本では手間のかかる料理を「料理」と考える参照点があるため、簡単に済ませると不十分だと感じてしまう。一方、それが文化的に問題ないところでは、簡単な料理でも満足度が高くなります。

森島:だからこそ、私たちは「手抜き」ではなく「手間抜き」という考え方を提案しています。以前ある消費者の方が、SNSに「味の素冷凍食品の餃子を食卓に出したら、手抜きだと言われた」という話を投稿し、それに対して企業として「それは手抜きではなく手間抜きなんです」と返信したところ、大きな反響がありました。忙しい中でも自分で焼いて温かい状態で食卓に並べるという料理の大事な部分は家でやっている。その分、家族でワイワイする時間が増えれば、それはむしろ価値のあることだと思うんです。

大竹:実は手抜きだと思っているのは自分だけで、他の人はそう思っていないということもよくあります。社会規範の認識と実態の間にギャップがあるんです。「みんなが手抜きだと思っているに違いない」と思いこんでいるだけかもしれません。そういった思い込みを正すことで、行動が変わり、幸福度も上がっていく可能性は十分にあるでしょうね。

森島:私たちが大切にしていることのひとつに、「料理を難しく考えずに、料理のハードルを下げること」があります。「Cook Do®」のようなメニュー用調味料は、誰でも失敗なく美味しくつくれるよう支援することで、料理の達成感を得やすくしているのです。

大竹:これもまた、「手間抜き」ですね。そういった製品は、行動経済学でいうナッジ(行動を促す仕掛け)だと言えますね。人々が健康的な食生活を送りたいと思っていても実現できない理由(ボトルネック)を取り除く工夫です。例えば、調味料の配合がわからない、料理法がわからないといったボトルネックを解消することで、料理のハードルを下げ、達成感を得やすくする。これもまた、幸福度向上に直結します。

共食がもたらす幸福度への影響

森島:共食についても興味深い結果が出ています。1週間に4日以上夕食を一緒に食べている人は、まったく一緒に食べていない人より1.6倍幸せを実感している割合が高かったのです。さらに、さらに、「人を信頼できる」「孤独を感じない」といった社会的つながりにも関係していました。

大竹:イギリスの研究でも、頻繁に共食する人ほど幸福感が高く、他者への信頼感が強いことが示されています。私は学生と週1回、ランチ会を実施しているのですが、コロナ禍では“ランチなし”のランチ会になってしまいまして。クラスターを出すわけにはいかないということで、食事は各自で済ませてから研究室に集まってもらっていたんです。その後、再び一緒に食事をしながら会話ができるようになったとき、そのコミュニケーションレベルの違いには驚きました。教室では実際に会っていたし、直接話してもいたんですが、「一緒に食事をする」という行為があるかないかで、心の開き具合が変わるのではないか、ということを実感しましたね。

森島:共食の効果について議論する中で、よく出てくる疑問は「物理的に同じ食卓を囲むことが重要なのか、それとも人とつながっていると実感できることが重要なのか」ということです。例えば、親元から送られてきた食材で料理をして、親の気持ちを感じながら食べるといった形でも、人とのつながりを感じることはできますよね。

大竹:共食の効果には「共同性」の要素があります。同じものを食べる、同じ時間を過ごすという共有体験が幸福感につながるのでしょう。ただ、その因果関係の解明は課題です。共食する人のほうが幸福なのか、幸福な人のほうが共食するのか、単純には言えません。それでも、コロナ禍で共食の機会が減ったことで、多くの人が精神的健康に影響を受けたことを考えると、共食が幸福度に影響している可能性は高いんじゃないかと、私も関心を寄せているところです。

食とウェルビーイングの社会実装に向けて

森島:私たちは現在、日本政府のウェルビーイングのフレームワークに「食」の項目を入れるよう働きかけています。健康や仕事、収入、住居などはウェルビーイングの要因として調査項目にありますが、食も重要な要因であるはずだという問題意識からです。食を通じたウェルビーイングの向上を政策提言にもつなげていけたらと考えています。

大竹:それはとても重要なことだと思います。ウェルビーイングに影響を与える主な要因として、所得、健康、社会的つながりが挙げられますが、これらを直接コントロールするのは難しい。一方、食は健康や社会的つながりに影響を与える要因であり、比較的コントロールしやすいものです。食の内容や共食の頻度などを政策的にモニタリングし、促進することで、間接的にウェルビーイングを高めることができるでしょう。

森島:今回の「World Happiness Report」に食の章が設けられることで、食の持つ多面的な価値が科学的に評価される契機になればと期待しています。

大竹:「食」は健康に大きな影響を与え、健康は幸福度に大きな影響を与えます。しかし、健康そのものは結果であり、直接コントロールできません。私たちがコントロールできるのは、食、運動、働き方などのインプットです。食は中心的な要素であり、今回の章立ては意義深いものになるでしょう。

森島:今回の対談を通じて、食が幸福度に与える影響について、科学的な裏付けと共に理解を深めることができました。今後も味の素グループでは、栄養価やおいしさだけでなく、人々の幸福度向上に貢献する食のあり方も追求していきたいと思います。

大竹:食を通じた幸福度の向上には、社会全体での取り組みが必要です。味の素さんをはじめとした企業の皆さんには、心身共に健康的な食生活の大切さを政府と共に発信し、人々が自然と健康的な選択ができるような製品やサービスを提供することで、社会全体の幸福度向上に貢献していっていただくことを期待してますよ。

味の素株式会社
https://www.ajinomoto.co.jp/


おおたけ・ふみお◎⼤阪⼤学 感染症総合教育研究拠点 特任教授。CoBe-Tech共同創業者 取締役CKO。京都⼤学経済学部卒業後、大阪⼤学院経済学研究科に進学し、博士号(経済学)を取得。 大阪大学経済学部助手、同大阪大学社会経済研究所教授、同大学院経済学研究科教授などを経て、2021年より現職。専門分野は、行動経済学、労働経済学。行政や企業におけるマーケティングリサーチやナッジメッセージの作成、行動経済学を活用したコンサルティング、アドバイスなどをおこなう。

もりしま・ちか◎味の素(株) 執行役常務 サステナビリティ・コミュニケーション担当。1986年に入社。ダイレクトマーケティング部長を務めた後、執行役員家庭用事業部長を経てサステナビリティとコミュニケーションの担当に。2021年6月に執行役、2023年4月より現職。

※インタビュー内容、役職、所属は取材当時のものです。

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