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2025.03.24 16:00

就学前児童を対象とした小児用住血吸虫症治療薬開発から見えたグローバルヘルスの新たな協働モデル

2025年3月、アフリカの就学前の子どもたちに新しい治療の選択肢が届いた。約10年の歳月をかけて開発された「見過ごされてきた」熱帯病である住血吸虫症の小児用治療薬は、日本と海外の製薬企業や研究機関を含む国際的な官民パートナーシップ(Pediatric Praziquantel Consortium:小児プラジカンテルコンソーシアム)が実を結んだ成果だ。ヘルスエクイティ(健康の公平性)を掲げるメルクとGHIT Fundのトップが語る、グローバルヘルスにおける持続可能な協働のあり方とは。


10年の歳月をかけた就学前児童への小児用治療薬の開発

ジェレミー・グロサス(以下、グロサス):住血吸虫症は2億5000万人以上が感染し、マラリアに続いて世界で二番目に危険な寄生虫病で、推定で年間20万人が死亡する深刻な病気です。主に熱帯・亜熱帯地域で見られ、吸虫によって、汚染された水を介して感染します。感染すると重要な臓器の深刻な合併症や慢性炎症、貧血、発育不全、さらには学習能力の低下をも引き起こす可能性があります。メルクは2007年以来、その吸虫駆除剤であるプラジカンテルを世界保健機関(WHO)を通じて20億錠以上提供し、サブサハラアフリカで主に9億人以上の就学児童を対象とした集団投与(MDA)プログラムを通じて治療に貢献してきました。しかし、適切な製剤と(臨床)試験された投与方法が確立されていないため、これらのプログラムには就学前の子どもたちに対する治療を含めることができませんでした。私たちの課題は、生後3か月から6歳の子どもたちが服用しやすい製剤を開発することだったんです。

國井 修(以下、國井):実は、かつて日本でも、山梨や福岡、千葉などにある河川流域で住血吸虫症が深刻な問題となっていた歴史があります。その当時、多くの農民が裸足で川や水田に入り、そこに生息する貝に寄生する虫に感染していました。原因も分からない時代、その地方に嫁ぐ女性たちに「嫁に行くなら、棺桶を背負って行け」と言い放ったそうです。驚くべきことに、日本で完全に住血吸虫症が排除されたのは1996年のことです。

私は以前、UNICEFを通じて3年間アフリカに住み活動をしていましたが、GHITのCEOとして最近ケニアを再び訪問して、改めて衝撃を受けました。日本が克服したはずのこの病気が、いまだに多くの人々を苦しめているんです。

皮肉なことに、経済発展の象徴であるはずのダム開発なども、新たな感染を引き起こしているという現実がそこにはありました。ダムは灌漑や飲料水のために重要なインフラですが、貧しい人々は今でも川や湖の水を直接、飲料水や生活水として使わざるを得ません。その結果、子どもたちの感染率が80%を超える村もあります。かつての日本と同じように、今もなお多くの人々、特に子どもを苦しめている。この現状を目の当たりにし、GHITは本プロジェクトにこれまで約18.5億円の支援をしてきたのです。

グロサス:医薬品の開発は通常、非常に長く複雑なプロセスです。特に小児用となるとさらに慎重を期す必要があります。私たちは前臨床段階から始めて、3段階の臨床試験を実施しました。第1フェーズでは南アフリカで成人での生物学的利用能(活性成分(薬物または代謝物)が体循環に入り,作用部位に到達する程度および割合のこと)を研究し、タンザニアでは子どもたちを対象に味の確認試験を行いました。第2フェーズの試験では、コートジボワールで就学前の子どもたちに適切な投与量を見つけるための試験を実施し、第3フェーズはケニアとコートジボワールで試験を行いました。

また、製品開発と製造の面では、コンソーシアムパートナーであるアステラスが開発した小児用製剤のプロトタイプを最適化し、ブラジルのファルマンギーニョスでの生産体制を整えました。現在、医薬品の大規模生産に向けて、ケニアのユニバーサルコーポレーションへの技術移転に取り組んでいるところです。

國井:ジェレミーさんのおっしゃる通り、製剤の工夫は重要でした。ひとつの組織だけでこのような開発はできません。そこで、日本企業であるアステラスが持つ、学童児以上の子どもや成人を対象に作られた苦い大きな薬を、より小さく、苦味を減らし、さらには水に溶けやすい形につくり変える優れた技術が役立ちました。私はドイツのメルク社にも訪れましたが、そこで感銘を受けたのは、単に薬を売るだけでなく、人々が本当に必要とする薬を開発してきた歴史です。今回も、スイス熱帯公衆衛生研究所という研究機関の技術的な支援や各国の大学や研究機関の協力も得て、さまざまな組織の知見を結集させることができました。この協力体制があったからこそ、2023年12月に欧州医薬品庁(EMA)から承認(肯定的な科学的見)を取得し、2024年5月にWHOの事前認証も得ることができたのです。そして2025年3月、実装研究としてウガンダの就学前児童の手に届きました。

持続可能な協働モデルの構築に向けて

グロサス:私たちのビジョンは“Sparking Discovery, Elevating Humanity”です。これは単なる善行ではなく、支援する側の国々の自己利益にもつながることだと考えています。メルクは350年以上の歴史をもつ、主に家族経営の会社であり、健康の公平性は私たちのDNAに根ざしています。同時に私たちメルクの活動の根幹には「患者さんのために一丸となって、生命の誕生、QOLの向上、命をつなぐサポートをする」というパーパスがあります。就学前の小児用住血吸虫症治療薬の開発は、まさにこのパーパスを体現するプロジェクトでした。将来に向けて重要なのは、サプライチェーン、卸売業者、薬局を含めた包括的な医療システムの強化です。寄付だけでなく、収益性のある、自立可能なモデルに基づいたネットワークを構築することが必要です。

國井:現在、グローバルヘルスは転換期を迎えています。地域課題や環境問題などグローバルな課題が山積していて、国際社会の関心や資源が分散する傾向にあります。このような状況だからこそ、日本が長年培ってきた公衆衛生の知見や技術を活かし、グローバルヘルスへの持続的な貢献を続けていくことが重要です。今後も国際社会との連携を深めながら、世界の健康課題に対する解決策を共に模索していきたいと考えています。これまで製薬会社は開発途上国に大量の医薬品の寄付をしてきましたが、民間企業が顧みられていない病気に継続的にコミットしてもらうためにも、持続可能な方法を模索する必要もあります。例えば、治療薬を必要とする国に援助から自助・自立へのロードマップを作製してもらい、最初の年は100%援助で治療薬を支援しても、徐々に10%ずつでも各国の負担を増やして自国で賄うような仕組みです。

グロサス:おっしゃる通りです。各国が支払う仕組みをつくることは、お金の問題だけではありません。それはサプライチェーン全体を強化し、各国の医療システムの長期的な発展にもつながります。以前、アフリカのある国の医療従事者から「寄付された薬は確かにありがたいが、安定的な供給体制がないと長期的な治療計画が立てられない」という声を聞きました。これは印象的でしたね。だからこそ、収益性のある持続可能なモデルの構築が重要だと考えています。

國井:この小児用住血吸虫症の新たな治療選択肢の開発の成功は、将来に向けた良いモデルケースとなるはずです。実は現在、5年以内に市場に出せる可能性のある製品開発の候補が3つほどあるんです。これらはすべて、今回のプロジェクトで学んだパートナーシップモデルを活用してきました。今後は、ITを含むイノベーションを活用して、研究開発の成功率を上げ、スピードを上げ、コストを下げる方法を探っていきたいと考えています。

デング熱やウエストナイル病といった熱帯病は現在、アメリカやヨーロッパにも存在します。地球温暖化により、蚊やダニなどのベクターも移動しているのです。日本も例外ではありません。だからこそ、グローバルヘルスへの投資は、すべての国にとって重要な課題なのです。

ジェレミー:今回のプロジェクトについて、國井さんから現地の様子を弊社の日本の社員に向けて話してもらう機会がありました。健康の公平性を具現化する例として社員のモチベーションやエンゲージメントが高まる内容で、我々製薬企業がグローバルヘルスに貢献できる可能性示した好例となったと感じています。この大きな成功体験が、ほかの企業や組織にとってもコンソーシアムやエコシステムに参加する動機付けとなることを願っています。

GHIT Fund
https://www.ghitfund.org/jp


ジェレミー・グロサス◎メルク・バイオファーマ 代表取締役社長。350年以上の歴史を持ち、「サイエンス&テクノロジーの企業」を標榜するメルク社のヘルスケアビジネスにおける日本法人である同社をけん引する。なお、メルク社は小児用住血吸虫症治療薬の開発においてコンソーシアム内で、複数の組織と協働し、就学前児童の住血吸虫症の小児用の治療オプションの開発をリードした。

國井 修(くにい・おさむ)◎グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)CEO。医師、医学博士。UNICEFやグローバルファンドでの経験を活かし、日本発の創薬イノベーションを通じて、世界の保健医療課題の解決に取り組む。感染症対策における国際協力の重要性を訴え続けている。

Promoted by GHIT Fund | Text&edited by Miki Chigira | Photographs by Tomohisa Kinoshita