「Foresight(先見力)」起点のコンサルティング力が求められている
NTTデータは、ITサービスだけでなく、20年ほど前からコンサルティングサービスの提供にも力を入れてきた。近年はプロフェッショナル人材を増員し、より強固な支援体制を整えているという。その背景には日本企業の切実な悩みがあると、コンサルティング事業本部 経営コンサルティングユニット 部長の藤本肇(以下、藤本)は説明する。「企業を取り巻く経営環境の変化が激しくなり、お客さまは正解のない課題に直面されています。システム開発だけでは十分な課題解決に至らないため、お客さまも共に解決策を考えるパートナーを求めています。課題解決のための提言からシステムの実装、さらに成果創出まで包括的に支援するため、私たちは目先の課題だけでなく、業界の少し先の未来を洞察し、今何をするべきかを提言するところから伴走させていただいています」
「Foresight(先見力)」を起点にあるべき姿を描いたうえで課題の背景にまで寄り添い、本質的な課題を特定する。そして、その解決のために、強みである「デジタル競争力」と「エンジニアリング力」を最大限に発揮し企業とともに変革に挑戦していくのが、NTTデータの姿勢だ。同社はブランドメッセージとして「Moving forward in harmony.」を掲げているが、コンサルティング事業では、とくに「harmony(調和)」を重視している。
「提言をしても現実を見据えていないと、なかなか課題解決には至りません。例えば、経営改革プログラムを立案して経営者からゴーサインが出ても、現場の思いや課題を汲み取れておらず、経営と現場との間に乖離が生じ、改革が円滑に進まないケースが多々あります。私たちは、両者が同じ方向を向いて経営改革を実現するために、あらゆる局面で調和を考慮しています」(藤本)
日本企業の経営改革を推進すべく、NTTデータが強化している取り組みのなかに、顧客の経営課題や事業課題に関連づけられた経営アジェンダと解決策を先回りして提案する法人企業向け「オファリング(提案)」がある。現在進行中の中期経営計画(2022〜25年)に基づくその目的は、顧客のビジネス成長にフォーカスし、オファリングを通して未来を提示し、顧客のハイパフォーマンスを支援することだ。
そして、オファリングのひとつとしてNTTデータが注力しているのが「GHG(温室効果ガス)可視化」と「企業変革のためのファイナンス」だ。この2つを経営課題とする企業が多い要因について藤本はこう解説する。
「名目GDPが600兆円を超えるなど、経済面では明るい兆しが見えていますが、日本取引所グループ(JPX)からの要請に基づき、企業経営はより『企業価値』を意識せざるを得なくなっています。足元の収益性のみならず、環境対策をはじめとするESGを意識した経営をしていかなければならず、より長期的視野に立った企業価値重視の経営への転換が問われているのです」(藤本)
企業価値向上のために必要な事業ポートフォリオマネジメントの変革
企業価値を向上させるためにまず着手すべきは、事業ポートフォリオマネジメントの変革だと藤本は言う。「日本企業におけるコングロマリットディスカウントが生じているというのは多くの識者から指摘されて久しいです。例えば、日本の主要製造業500社においては、売却よりも買収の件数のほうが圧倒的に多いのが現状で、足し算はしてきたが引き算はあまり進んでいない。ベストオーナーシップの発想で、自社で抱え続けるべき事業なのかを検討する余地は十分あるという仮説が考えられます。一方で欧米企業は、大胆な事業ポートフォリオの転換を推進して、創業時とまったく違う業態になっている会社も少なくありません。日本企業にも、事業ポートフォリオの新陳代謝が問われているという理解です」
そうした事業ポートフォリオの新陳代謝を促進するためには、組織全体で目標を達成するための仕組みである「マネジメント・コントロール・システム ※(MCS)」が重要になってくる。その点においても欧米企業が秀でていると、藤本は指摘する。
「日本の企業の多くは中期経営計画に基づき、3年サイクルで企業活動を行います。製品や事業からの積み上げよりも、会社の成長率が前提になっていることが多く、計画を大きな粒度で策定しているので、計画と実績見込みが連動しない場合が多いのです。一方、欧米の企業には中期経営計画という考え方がなく、毎年、10年先の戦略を立て、データを駆使して予測と着地見込みを連動させ、高い次元でサイクルを回しています。MCSにおいて重要なのは、この連動を高い解像度でスピーディーに回すことです」
多くの日本企業では、計画と実行が分断されている。それらを連動させ、経営の意思決定に活用するのがMCSなのだ。それには収益性だけでなく、CO2排出量をはじめとするサステナビリティ指標の評価も連動させる必要があると、同本部 会計・経営管理ユニット マネージャーの山崎研二(以下、山﨑)は強調する。
「多くの日本企業はサステナビリティの仕組みや財務の仕組みをそれぞれにおもちですが、経営の意思決定に資する情報は、一元管理するべきだと考えます。例えばある製品の生産にかかったコストとCO2排出量は、基本的に同じ設計プロセスから発生するため、別々の仕組みではなく、ひとつの仕組みで統合的に判断すべきです。情報がAとBの異なる仕組みから提供されると、前提条件の不一致が生じ、データの精度が低下する可能性があります」
MCSは販売や調達、生産、在庫管理、輸送といったサプライチェーンの各オペレーションにもかかわってくると藤本が続ける。
「人間の意思決定は、計画に宿ります。経営層で計画された情報が事業計画に反映され、それが販売や調達、生産、在庫管理、輸送などサプライチェーンを中心としたオペレーション計画に降りてきて、その実績が業績として跳ね返っていく。企業活動にかかわる人たちの意思がデータを介して矛盾なくつながることが重要であり、そのためにデジタル技術が果たす役割は非常に大きいと考えています」
MCSに基づく意思決定を各オペレーションに伝播させるためには、組織や制度といったハード面だけでなく、ソフト面も含めた変革も問われる。
「デジタル技術を活用してデータをつないでも、それを使いこなす人材がいなければ、計画と実行が結びつきません。そのため、人材育成やスキル向上、価値観の共有といったソフト面の強化も欠かせません」(藤本)
(※)本項で記載する、マネジメント・コントロール・システムとは、企業の目的達成を支える戦略決定、戦略実行と評価に関わる仕組みを意図している。経営戦略が中長期計画として意思が込められ、短期戦略が年度計画(予算)として評価可能な目標に落とし込まれ、サプライチェーン等のオペレーション計画によって事業活動の実行に移され、最終的には財務パフォーマンスによって企業活動の実績が評価されるための経営管理制度・情報システムとデータ・組織機能・人財とスキルの包括的な概念を指す。
FP&Aの実現で経営・環境データを組み合わせた分析が可能に
MCSをうまく機能させたうえで、日本企業に内包する課題を解決するために重要なケイパビリティのひとつが「財務計画・分析(FP&A)」だと NTTデータでは考えている。「FP&Aとはひと言で言うと、『社内コンサルタント』のような役割です。日本CFO協会の調査によると、日本のCFO機能の多くが決算開示や社内管理会計数値の取りまとめや分析にリソースが集中しており、経営戦略や事業戦略に関するアドバイスや提案を十分に行えていないと言われています。反対に外資系メーカーのFP&Aの場合、担当している事業の目標達成への責任と権限が強くコミットされており、日本のCFO機能との違いを認識しています。MCSを活用しながら経営情報を分析し、例えば『この事業は止めるべき』、『この事業にもっと投資するべき』という事業ポートフォリオの新陳代謝にかかわる提案をするCFO機能がもっと日本企業にも存在するべきです。それができない原因のひとつは、事業ポートフォリオマネジメントに資する経営情報をアセットとして活用しきれていないからではないでしょうか。また、CFO機能の抱える課題は、前述の通り、ハード面からソフト面までさまざまにあります。当社はあらゆるCFOアジェンダに向き合い、CFO機能の強化に向けて伴走したいと考えています」(藤本)
高度なFP&Aを実現するためにはMCSの整備をするとともに、CFOの抱える課題に寄りそうべきというのが、NTTデータの提言だ。
コロナ禍を契機に、製造業ではより機動的なMCSやFP&Aの実行が問われるようになった。そこでNTTデータは商品別の収益ドライバーをデジタルアセット化し、需要変動・材料市況変動の変化に追随できる経営管理システムを提案している。
「あるグローバル食品企業に対し、主原料・包材・ユーティリティなどの経営変動要因をデジタルアセット化し、計画の編成プロセスをより機動的にデジタル化するご提案をしました。現在の実績から将来の変動要素を見込むと計画にブレが生じるので、人間の意思もデジタルに取り入れる必要があります。最近は原料価格が高騰しているので、各社ともどうしても価格改定せざるを得ない状況ですが、その金額によっては、シェアが落ち込んでしまう。その価格のバランスをどう取るかといったシミュレーションをする仕組みを提供しました」(藤本)
提言から実装、成果の創出までを一貫して手がけるNTTデータの真骨頂とも言える取り組みだ。さらに収益性改善からサステナビリティ経営の実現までを支援した具体例として、山崎が旭化成の事例を紹介する。
「2018年頃から機能材料事業のご支援をさせていただいていますが、グローバルにまたがる複雑な事業構造のため、製品別の収益の可視化ができないことが課題でした。そこで経営管理の可視化に取り組んできましたが、昨今のサステナビリティの意識の高まりや、事業環境の変化に伴うサプライチェーンの課題が顕在化したことを受け、導入済の経営管理基盤を拡張することで、経営意思決定を一元的に実行可能な基盤の導入もご支援しました」
その基盤を通じて、グローバルにまたがる最終製品のカーボンフットプリント(CFP)を製造プロセスごとに詳細に算出。経営管理システムとの連携により、経営データとCFPデータを組み合わせた分析が可能になったという。
「コロナ禍などにより製造業全般で需給が大きく変動したため、サプライチェーンに大きな混乱が生じました。そこで当社はさらなる基盤の拡張を支援し、営業部門の需要予測や物流におけるPSI(生産・販売・在庫)計算での勘に頼ったバイアスを排除し、論理的な計算ができる仕組みを構築しました」(山崎)
日本企業のサステナブルな成長に向けて未来を描く
提言から実装、成果創出までの“End to End”の支援、その最前線に立つふたりのコンサルタントは、どのような未来を思い描いているのだろうか。藤本は、日本企業がグローバルで活躍するための支援をしていきたいと意気込む。「日本の人口が減少していくなか、企業はグローバルにマーケットを広げていく必要があります。それには、サステナビリティが必ず重要なアジェンダになるでしょう。お客さまと一緒にそのアジェンダに取り組み、企業変革のご支援をしていきたいです」
山崎は、会社の枠を超えた仕組みの構築を目指したいと話す。
「私がかかわっている化学セクターは、中国の台頭などにより市況環境が大きく変化しており、競争が熾烈になっています。ひとつの部門さえよければいいという発想ではなく、事業や部署を横断して最適な仕組みを考えなければならないフェーズに入っているのです。もっと言えば、会社の枠すらも飛び越えてつながる仕組みが必要なのではないかと考えています。そうした取り組みを実現し、日本の製造業の成長に貢献していきたいです」
いま、さまざまな業界で日本企業のシフトチェンジが始まっている。NTTデータはこれからも顧客の経営アジェンダに対し、Foresight起点で未来を描き、実現に向けた具体的な道筋を提案し、業務とITとの一体で企業の変革を後押しする。
次回、SCM(サプライチェーン・マネジメント)分野において、世界でプレゼンスを発揮していくための企業の挑戦を支援するNTTデータの取り組みを追う。
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ふじもと・はじめ◎NTTデータコンサルティング事業本部 経営コンサルティングユニット 部長。20年に渡って、法人企業の経営管理コンサルティングに従事。近年ではCFO/ファイナンス部門のFP&A機能強化・稼ぐ力の向上・事業ポートフォリオマネジメントといった、CFOアジェンダに寄り添う提言と変革支援の実行責任者を務める。
やまざき・けんじ◎NTTデータコンサルティング事業本部 会計・経営管理ユニット マネージャー。会計・経営管理領域を専門とし、グローバル製造業を中心に構想立案からシステム導入~運用・定着にわたる多くのDXプロジェクトを経験。近年は、サプライチェーン・経営管理・サステナビリティに関する課題を解決するコンサルティングビジネスをけん引する。
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