今回は、インドアプレイグラウンドというビジネスモデルで子どもたちの未来を変えようとしているファンタジーリゾートの熱い思いを取材した。
ファンタジーリゾートは「世界中の子どもたちと家族に夢と感動を」という社是を掲げて、日本最大級の会員制室内遊園地「ファンタジーキッズリゾート」を展開している。全国9店舗の面積は平均すると、体育館4個分ほどになるという。コロナ禍に影響を受け続けてきた同社のビジネスがいま、攻めの経営体制で本格始動しようとしている。
攻めの経営を牽引する代表取締役社長の八杉政彦は、2022年12月に同社に参画した。それ以前の彼には、店舗体験のプロフェッショナルとして「子どもに喜ばれる体験創造」を手がけてきた経歴がある。
トップマネジメントが有する信念を貫く気骨
「実力主義の社会で自分を試したくて外資系企業で働いてきました。日本に上陸してまだ間もない玩具量販チェーンに入り、店舗に勤務していたときの話です。本社からの『店舗づくりの指示』は、現場の実情とはかけ離れたものが多いと感じることがありました。ある日、MD本部長の米国人が店舗視察に訪れた際、『あなたは、どうして指示に従わないのか』と聞かれました。私は、『この店舗のことは自分のほうがよく知っている。売れるのは、こちら(の商品)だからだ』と答えました」MD本部長は、去り際に笑顔を見せていたという。その後、八杉は本社に異動となる。本社に彼を招集したMD本部長は「あなたがつくりたいと思う店舗をつくってみろ」と背中を押してくれた。
「その本部長は、のちに社長、さらには会長になりました。私に店舗ビジネスのノウハウを教えてくれた恩人です。『マーケットの特性を考慮しながら、店舗を改善し続けていくことの大切さ』を学びました」
さらに八杉は、転職後の外資系ファッションブランドで、グローバルで展開しているストアプランニングのローカライズを責任者として推進した。キッズビジネスでの土地勘を生かし、キッズ&ベビーマーケットプランニング部長も歴任している。
遊び場という店舗形態が拓く新たな感動体験の形
21年、八杉は玩具量販チェーンに請われて復帰し、新設されたカスタマーエクスペリエンス本部の責任者となる。新しい玩具店のあり方を模索し、実現するという野心的な部門であった。彼が実験的に手がけたのは、ある店舗の売り場の15%を遊び場にすることだった。その遊び場には行列が生まれ、店舗の売り上げは飛躍的に伸びた。そうした経験を通じて八杉は、子どもの遊び場がもつ意味や意義、可能性を深掘りして考えるようになる。ファンタジーリゾートの社長就任の打診を受けたのはそんなさなかだった。
「私がはじめてファンタジーキッズリゾートを訪れた際、その広さに驚くと同時に、遊んでいる子どもたちのはじけるような笑顔と歓声に大いなる可能性を感じました」
施設入り口の正面で視界を遮る下駄箱を移動して、子どもの心がワクワクするようなエリアをつくってみたらどうだろう。遊具や物販、さらにはレストランのメニューには、もっとシーズナリティを出していったほうがいいのでは。もっと子どもを喜ばせるにはどうしたらよいだろう。そうしたアイデアが自然とあふれてきたという。
「例えば、就任後、駄菓子の売り場をリニューアルしました。単に駄菓子を売ろうとしているわけではありません。子どもがワクワクする体験をつくりたいのです。そのために単なる駄菓子の売り場ではなく、広大な『駄菓子畑』というコンセプトで体験を設計しています。選びきれないくらいの駄菓子に囲まれる体験を通じて、来館の最初と最後に笑顔になってもらいたいと考えました」
多様な感動体験は子どもの可能性を広げ未来を育む
ファンタジーキッズリゾートの強みは、広い室内に多様な遊具・ステージが常設されており、子どもたちに多様な体験を提供できることにある。そういった子どもの体験を学びにつなげていきたいと八杉は語る。「ファンタジーキッズリゾートは子どもの発育状況や趣味・嗜し好こうがあらわになり、可視化される場所でもあります。体験のなかでさまざまな課題を見つけ、クリエイティブな発想で解決方法を創造し、実践していくことを目指すSTEAM教育の5つの領域(科学、技術、工学、芸術・リベラルアーツ、数学)を意識したイベントなども考えられるわけです。多くの感動体験を創出できるよう、店舗ごとにたくさんの企画を検討・実施しています」
子どもたちは無限の可能性をもっている。子ども時代の経験、感動体験は未来を変える源となる。子どもたちが自身のあらゆる可能性にエントリーしていく場所として、ファンタジーキッズリゾートを位置付けたいと八杉は考えているのだ。
「子どもたちが遊びたいところで遊び、あるいは学びたいところで学び、伸ばしたい才能を伸ばしていく。ファンタジーキッズリゾートだからこそできる体験の数々が、子どもたちのよりよい未来につながればと思っています」
ファンタジーリゾートに投資し、コロナ禍から現在に至るまで、成長に向けて伴走してきたクレアシオン・キャピタルの井上圭は、次のように語る。
「およそ3年間のコロナ禍が終わり、単月での最高益も創出できるようになってきました。これからは攻めの経営に転じていく重要な局面です。圧倒的な広さから生まれる体験設計の自由度やダイナミズムがファンタジーキッズリゾートにはあります。それを生かして、遊具や物販などのハード面、イベントやショーなどのソフト面の両輪で、感動と学びのある体験を実現すること。そして、その体験を通じて“子どもの成長と可能性に気づける場所”として、社会的にも意義のある施設を目指していきたいですね」
投資ファンドの目線
ファンタジーキッズリゾートは広大なスペースに加えて、リピート率が高く、多くの子育て世帯が定期的に来館するという強みがあります。こういった強みを生かして他業種とサービス開発、エリア開発をするなどコラボレーションを広げ、新たな価値を実現していくことも有意義であると考えています。また、培ってきたエンターテインメントや店舗開発のノウハウを武器にして海外で展開することも考えられます。▶︎クレアシオン・キャピタル WEBメディア「Go Beyond」
やすぎ・まさひこ◎ファンタジーリゾート代表取締役社長。店舗改善のプロフェッショナルとして、外資系ファッションブランドにてストアオプティマイゼーション部長、キッズ&ベビーマーケットプランニング部長、外資系玩具量販チェーンにてマーケティング部、ストアプランニング部、ストアエクスペリエンス部にて部長を歴任後、2022年12月より現職。
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