一方、欧州は米国ほど恵まれた状況にはない。シティが8月22日に発表したリポートによると、英国の消費者物価指数(CPI)の前年比伸び率は、2023年1月に18.6%でピークに達するという。これと比べると、8%強という現在の米国のインフレ率がそれほど高くないように見えてくるほどだ。
実際、8月19日に発表されたドイツの生産者物価指数(PPI)は、前年同月比37.2%増という驚きの上げ幅を記録している。生産者物価は消費者物価と比べてボラティリティが高くなりがちだとはいえ、特に米国のインフレが鈍化の兆しを見せているだけに、ドイツにとっては憂慮すべき傾向だ。
同様に経済協力開発機構(OECD)も、欧州の多くの国々のインフレは、北米をかなり上回っているとの見方を取っている。OECDが最近発表した2022年通年の予測では、フランスとスイスを除く欧州の全ての国で、インフレ率が米国を上回るとみられている。
欧州でエネルギー価格の上昇が収まらない理由
欧州と米国のインフレ率にこれほどの開きが生まれた要因の一つは、エネルギー価格だ。具体的には、天然ガスの価格上昇が大問題となっている。欧州での天然ガス価格は8月第3週、1原油換算バレル=410ドルに達した。
米国でも天然ガス価格は上昇しているが、絶対値レベルで見るとその上げ幅ははるかに低い。このような状況になっている一つの理由は、欧州にとってロシアは天然ガスの主要な供給国であり、ウクライナ戦争が始まって以来、ガス供給が減少しているという事情がある。
対照的に米国は、この数十年で主要な天然ガス産出国となってきた。他の多くの一次産品とは異なり、天然ガスはかさがあるため、輸送が難しい。欧州の天然ガス価格が、大西洋をはさんだ米国と比べてかなり高くなる現象が起きるのは、これが理由だ。
液化天然ガス(LNG)は、天然ガスを輸送する方法の一つではあるが、LNGに対応するインフラの整備は、米国と欧州のガス価格を平準化できるほどには進んでいない。そのため、米国は天然ガスを輸出しているものの、欧州の需要分を埋め合わせるほどの量には達していないのだ。
今後の見通しも厳しい欧州経済
現在の急激なインフレから予想される、欧州のこの先の見通しは暗いものだ。イングランド銀行は8月に入り、英国の景気後退を警告したと報じられている。米国でも、景気後退は明確な可能性として存在しているが、逆イールド(景気後退のシグナルとされる長短金利の逆転現象)が発生しているなかでも、FRBはこれを何とか避けられるとの期待を持っている。
というわけで、米国ではインフレのピークを過ぎたかもしれないが、欧州では、さらなる天然ガス価格の上昇を受けて、インフレがさらに進む可能性は大いにある。国際貿易で結ばれている世界においては、たとえ米国が景気後退を回避できたとしても、2023年にかけて、欧州の景気停滞がグローバル市場に影を落とす可能性が危惧される。
(forbes.com 原文)