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2022.06.02 17:00

「拡大路線の大誤算」トヨタが気づいた本当の「目標」


なぜ、危機から復活できたのか?


トヨタは急激な拡大戦略を進めた結果、アメリカでは死者まで出した事故が起こり、それがきっかけとなって品質問題が取りざたされる。また、大規模リコール、米議会での公聴会、東日本大震災によるサプライチェーンの寸断など、トヨタは未曾有の危機の連鎖にさらされることになった。

それだけではなく、トヨタの最大の強みであるものづくりの力が急拡大の裏で弱体化した。創意工夫をめぐらしてムダをなくし、良いものを安く、タイムリーに顧客に提供するというTPSの本質は、数字に追われるあまり薄れていった。

こうした危機の時代を乗り越えて、その後トヨタはものづくりの力を取り戻していく。2009年6月に就任した豊田章男社長は、かつての生産台数の数値目標を全面的に打ち出した経営をがらりと方向転換させた。それが「商品軸」の経営である。「もっといいクルマをつくろうよ」と言い、クルマづくりを考えようと旗を掲げたのだ。

では、「いいクルマづくり」をするために何を行なったのか。それが組織変革である。組織はいやがおうにも縦割りになりがちであり、社長の意思は現場には届きにくくなる。かつてのトヨタがそうだった。各部門のトップとしての副社長の権限が非常に強く、社長と現場との距離は遠いものだった。しかし、トヨタの強さの源は、企業のトップである社長自らが華道や茶道の「家元」のように「思想、技、所作」を体現していることではないかと著者の阿部は考えた。それを師範や弟子に伝承し、個人が自発的に成長をめざしていくことが組織の成長につながっていく。それが「家元組織」であると阿部は分析している。

客のニーズを捉えたのは、「品質のグレードアップ」と「多品種少量生産」という商品力だった。その結果、コロナ禍が続く2022年3月期決算で、トヨタは2.9兆円という過去最高益を更新しただけでなく、原価低減をすすめ収益構造を改善させたのだ。

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文=中田浩子 編集=松浦朋希

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