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2022.05.31

藤本壮介×髙熊万之|究極の目標は「医療が生活にとけ込む社会」。創薬×建築×デジタルの視点から描くヘルスケアインフラのまちとは<FUTURE meets FUTURE #5>

神奈川県藤沢市に位置する日本最大級のサイエンスパーク、「湘南ヘルスイノベーションパーク(略称:湘南アイパーク)」。2018年4月に設立されたこのサイエンスパークには、次世代医療、AI、ベンチャーキャピタルから行政まで、各業界の専門家たちが集い、新たなエコシステムが形成されている。ここに集まるイノベーターたちは、どのような未来を目指しているのか。また、異分野のトップランナーたちと語ることで生まれる化学反応とは。異分野同士の対談により新たな未来像とそこへ向かうヒントを見出す対談連載、「FUTURE meets FUTURE」をお届けする。

第5回は、「大阪・関西万博」会場デザインプロデューサーに就任するなど、国内外で高い評価を得ている世界的建築家 藤本壮介氏と、AI活用による新薬創出を研究する田辺三菱製薬の髙熊万之氏が語り合った。


藤本壮介氏は、フランス・モンペリエの住宅や飛騨高山大学(仮称)など数々の設計を手掛け、多様性を内包したその建築に多くの人々が魅了されている。2025年開催予定の「大阪・関西万博」会場デザインプロデューサーに就任するなど、国内外からのオファーが絶えない現代日本で今最も注目を集める建築家だ。

一方今回対談するのは、AIなどのデジタル技術を用いた創薬研究を行う、田辺三菱製薬の髙熊万之氏。髙熊氏は、創薬研究のみならず、デジタルヘルス分野での政策提言にも貢献している。AI創薬と建築。異分野で活躍する二人が見つめる、ウェルビーイングな社会とは。

異分野との出会いをうむコ・クリエーション空間が求められている


髙熊:私は田辺三菱製薬株式会社の創薬基盤研究所に所属し、人工知能(以下、AI)を用いた医薬品候補物質のデザインや、候補物質の活性・特性の予測など創薬のプロセス変革を研究しています。また過去に経済産業省に出向しデジタルヘルス等の産業育成に従事していた経験があり、現在もスマートフォンアプリなどデジタルヘルスケア製品が社会でうまく使われるための環境整備など、製薬会社視点からのデジタルヘルスケア分野の政策提言活動も行っています。

日本には超高齢化や生産年齢人口の減少に加えて、核家族化・都市化・地方の過疎化などを背景に医療提供体制の課題が顕在化しています。私はその解決策の一つがデジタルヘルス技術にあると考えており、研究開発や提言を通じて関連技術の産業化に取り組むという目標を抱いています。

藤本さんは日本を代表する建築家であり、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では会場デザインプロデューサーも務められています。日本を含む世界各地のプロジェクトでは、他者やその土地の歴史・文化を活かした多様性を尊重するコンセプトを重視されていますが、その思想の原点はどこにあるのでしょうか。

藤本:実は建築家として私が最初に関わったのは精神医療施設のプロジェクトでした。そこでは、一人ひとりのための居場所と、コミュニケーションの場を両立させた小さな社会をデザインすることを求められました。いわば、各人のための居心地の良い家をつくると同時にまちをつくるイメージです。プライベートとパブリックなコミュニケーションが共存する建築物をつくるというキャリア初期の経験は、多様性を重視する価値観の根底となっています。 

また現在、さまざまな国のプロジェクトに携わらせていただいていますが、それぞれ土地には固有の背景や文化があります。状況も常に流動的です。そのため多様性という前提に立たないと、求められている建築物に辿りつくことができません。また建築はともすれば画一性を暴力的に生み出してしまうので、常に多様性を取り込んだ寛容で許容力のある環境づくりを意識しています。

具体的な例だと、例えば最近、大学の新しい学びの場をつくるっていうのをやっているんですが、分野や専門の異なる人がたまたま出会ったり、そこでディスカッションが始まったりする場所をデザインしています。目的のある部屋だけじゃなくて、目的が定まっていない空間のほうが重要だったりするんですね。通り過ぎるだけの場所でたまたま出会ったり、コ・クリエーションにつながるような。個々の才能だけでなく、その掛け合わせを積極的にプッシュしていくような場所がすごく求められていて、建築設計という意味でも開拓しがいのあるところだと思います。

髙熊:ここ湘南アイパークも、いろいろな企業が入っていて、いろいろな方がここに集まっていますが、これはすごく価値があることだと思いますね。一つの会社で一つのビルに入っていると、どうしても視野やアイデアが狭くなりますが、いろんな方とお話することで刺激を受けられるというのは大きいです。

AIがもたらす新しい創薬と建築の形


藤本:創薬AIというデジタルヘルス技術にはどのような可能性が秘められているのでしょうか。

髙熊:従来、医薬品が市場に流通するまでにはおよそ10~15年の歳月が必要です。そのため、今すぐ薬が必要な患者の皆様をそれだけお待たせすることになります。研究者は1日でも早く薬を届けたいと願って研究していますが、AIは研究期間の短縮を可能にしてくれるという期待があります。例えば、医薬品の候補物質は実に多く、そのうち実際に薬になるのは約2万5000個に一つと言われていますが、候補物質の特性予測や化学構造のデザインを行うAIなどが徐々に実用化されており、効率よく薬の候補を見いだせる可能性がみえてきています。


田辺三菱製薬 創薬本部 創薬基盤研究所の髙熊万之氏

藤本:なるほど。新薬を市場に流通させるまでの時間を大幅に短縮できるわけですね。しかも生み出した成果をも学習し、AIがさらにアップデートを重ねていくと。

髙熊:はい。そこがデジタル技術のいいところです。ハードウェアは一度つくったら“完成”ですが、デジタル技術はどんどんアップデートすることができます。

藤本:建築物は鈍重といいますか、可変性が低いという特徴があります。取り替えるとなるとすごくコストや時間がかかりますし、時間が経過すると使われない場所も多くなります。これは、前提として目的があるから。デジタル技術には、建築物の目的を溶解させ可変性を高めてくれる可能性を期待しています。例えば、シェアオフィスは空いたスペースの情報を共有・活用する仕組みですし、遠隔医療には自宅と医療機関の情報を共有して病院を拡張する考え方が内包されていますよね。

将来的にデジタルツールと建築物の連動が加速していけば、プライベートとパブリックの境界線も開かれて、よりアクティブな建築物が生まれるはず。結果として、炭素排出量の削減や、余った土地の有効活用など社会課題の解決にもつながると考えています。

髙熊:デジタル技術を最大限活用していくことは、多様性を活かした建築物を創造していくための近道になるかもしれませんね。目的が固定化されなければさまざま人や組織が集まってくる。「多様性の交わりの場」として、建築物が再定義される未来はとても興味深いです。

藤本:いずれ建築のクリエーション過程でAIを活用する事例もでてくると思うのですが、使いこなす上で知っておくべき特徴はありますか。

髙熊:AI創薬に関して言うのであれば、理想は人とAIの共存だと考えています。AIが学習を重ねながら精度の高い提案をしてくれる。しかし、やっぱり意思決定するのは人なんだと思います。また、仮に創薬スタイルそのものにゲームチェンジが起これば、これまでのAIは使えなくなるリスクも秘めています。そう考えてみると、やっぱり主役は人だと思います。

藤本:建築家としては、自身の経験値や情報収集能力、先入観の壁を突破するためのインプットをくれるAIがあると助かりますね。実際のプロジェクトではまずアイデアを100個ぐらい出して、そのうちの一つからまた無間地獄のように枝分かれの試行錯誤を繰り返していきます。そんなとき、私が見聞きしたり経験したりした建築の1万倍くらいのデータベースをAIが持っていて、その中から10個くらい提案してくれるみたいな。しかも、それがちょっと意外性のある提案だったりすると、また頭が活性化して新たな発想がうまれる可能性もあるんじゃないかなあと。ボケとツッコミではないですが、人間とAIが驚かし合いながら何かをクリエーションしていくっていうのは、とても面白そうです。

「医療機関がいらないまち」を目指して


髙熊:クライアントからIoT機器やデジタル技術をカバーできる施設をつくって欲しいというリクエストを受けることは増えていますか。

藤本:はい。最先端の建物であるほどデジタル対応へのリクエストは増えています。また最近では、各種センサーを建物に取り付けて、実空間とデジタル空間を同時に再現して、多層な空間体験を実現していくという考え方も登場しています。

建築家の立場としては、実際のところセンサーやデータ、AIを使ったデジタルヘルスケア技術がどのレベルまで到達しているか気になっています。


建築家の藤本壮介氏

髙熊:最も進んでいるのは睡眠の領域ですね。寝返りの回数、呼吸の音、いびき、眠りの浅さ・深さなどのデータをセンサーで取得・測定し、睡眠の質を点数化する技術・サービスが実用化レベルで登場しています。

藤本:例えば、普段生活しながらよく通う場所があったとして、自分の健康状態とその場所を紐付けてモニタリングできると面白いなと思いました。というのも、本人がルーティン的に通っている場所が、実はストレスの原因になっているケースもあるはず。もしくは他の道を通った方がより運動効果があると実証できれば、肉体的にも精神的にも習慣をアップデートすることができそうな気がしています。

髙熊:ストレス指標に関しては血液や唾液から特定の成分を測定する技術があります。また、汗の成分や表情、目の動き、声などからストレスを測る技術が開発されています。たしかに、人の習慣とまちづくり、そしてタイムリーなデータ取得を掛け合わせて考えると、ヘルスケアの在り方も一新していくことができそうですね。

藤本:それらデジタルヘルス技術が発展すれば、負のオーラが出ている場所や建物、もしくは反対にリラックス度や集中力を高める環境など、ポジティブ指数を可視化することもできるのではないでしょうか。さらには我々がその技術を使いこなすことで、精度高く、効率的に、快適な空間を設計できるようになるかもしれない。

髙熊:人生100年時代という言葉が広まって久しいですが、やはり一番の課題は、健康寿命をいかに長く保てるかですね。病気を患った方、障害を持たれている方であっても幸せに100年を過ごせる環境を用意できるか否かが社会にとっても大きなチャレンジになります。

会社の中で話すと議論を呼ぶのですが、私は製薬会社の究極の使命は「薬がいらない社会」をつくることだと信じています。薬だけにとどまらず、病気にならない予防、病気や障害を持たれた方も人生を楽しく生きられるソリューション、そうした健康全体の“選択肢”を提供したいと考えています。

藤本:そうですね。建築においても、病気の人や障害のある人など、いろいろな状況の人を支えていけるような都市環境をつくっていくというのは、この先本当に重要になってくるような気がしました。今は、病気になったら病院に行くという感じですが、建築物が常に個人の健康状態をモニタリングしていて、何かあった時には病院以外も含めていろいろな人や機関が連携しながら助けてくれるというふうに、まち全体が個人を支えるインフラになれば、「医療機関のいらないまち」ができるかもしれません。

これまでは、まちはまち、医療は医療でしたが、これからはそれではだめで、横の連携をしながら健康な社会をつくっていかなければいけません。

髙熊:いつでもどこでも、必要な医療が受けられる体制というのは素敵ですよね。自然と健康になれるまち、ぜひ実現してほしいです。これまでのように学問分野が縦割りのままだとなかなか難しいですがそこを打ち破っていく必要を感じていて、医学と建築、心理学や経済学などさまざまな研究分野の知見を組み合わせていくことで、何か新しい未来がつくれるんじゃないかなと思います。

藤本:デジタルヘルスケアはまったく知らない分野でしたが、今日の対談で好奇心を刺激されました。特に我々がデザインする建築物やまち、都市環境がそのままヘルスケアのインフラになりうるというのは大きな気づきで、その可能性の広がりについて驚きを持って学びました。

デジタルとの連携により、医療問題が環境全体として解決され得るようなまちづくりには、多分野とのコラボレーションが必要になりそうです。それは今まで考えたこともなかったことですが、万博とも連動してさっそく実証実験を始められるとおもしろいですね。

──創薬研究者と建築家。一見交わりのないように思えた両者が、対談のなかで互いの取り組みへの理解を深めるうちに、それぞれの分野での未知なる可能性に気づき、多様化する社会にフィットしたウェルビーイングなまちづくりへの新たなアイデアが生まれた。

医学や建築のみならず、分野を超えたコラボレーションが起こすイノベーションにより、二人が語り合った「医療が生活にとけ込む社会」を実現する未来が、いつの日か来るのかもしれない。


湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)とは

2018年4月に開所した、日本初の製薬企業発サイエンスパーク。現在は、製薬企業のみならず、次世代医療、AI、ベンチャーキャピタル、行政など、大小さまざまな約150の産官学が集まっている。今回の対談に出演した髙熊氏をはじめ、社会課題の解決を目指す多くの研究者や経営者が日々ヘルスイノベーション創出のために活動し、交流することで意外なソリューションやコラボレーションが生まれる場となっている。


髙熊万之(たかくま・かずゆき)◎田辺三菱製薬株式会社 創薬本部 創薬基盤研究所 マネジャー 兼 デジタルトランスフォーメーション部所属。AI等のデジタル技術を用いた創薬研究におけるオペレーションの最適化に従事。デジタルヘルス製品の社会実装に向けた政策提言活動を推進。経済産業省が所管する「セルフケアを支える機器・ソフトウェア(プログラム)に関するワーキンググループ」委員(令和2年度および令和3年度)。

藤本壮介(ふじもと・そうすけ)◎建築家。1971 年 北海道生まれ。94年東京大学工学部建築学科卒業、2000年藤本壮介建築設計事務所設立。主な作品に「Serpentine Gallery Pavilion 2013」「House NA」「武蔵野美術大学 美術館・図書館」など。2014年にフランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞(ラルブル・ブラン)ほか、ヨーロッパ各国の国際設計競技にて最優秀賞を受賞。「大阪・関西万博」会場デザインプロデューサー。





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Promoted by 湘南アイパーク / text by 河鐘基 / photograph by 有高唯之 / edit by 本間香奈

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