経済・社会

2022.03.01 07:00

藻類や海洋生物にCO2を吸着させる「ブルーカーボン」事業、神戸市が推進

海底に茂る藻類

地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)は、海中の海藻や海洋生物によっても吸収されている。

陸上の森林などによって吸収される炭素を「グリーンカーボン」と呼ぶが、海洋の生態系に取り込まれた炭素は、2009年の国連環境計画(UNEP)の報告書で「ブルーカーボン」と命名された。

そのブルーカーボンが、いま地球温暖化防止に向けた有力なCO2の吸収源として世界的な注目を集めている。

2013年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で報告された研究では、人類の活動で排出されたCO2の総量のうち、森林などに吸着されたものは12%に過ぎない。一方、海藻や海洋生物によって吸着されたCO2は31%にも達している。

海洋より陸上での吸着率が少ないのは、森林は火災にあったり、枯れて微生物に分解されたりすると、吸収したはずのCO2が大気中に戻ってしまうからだ。一方海洋では火災がなく、枯れた藻類は大気から遮断された海底に堆積するので分解されにくい。すると、場合によっては、数千年単位で炭素を含んだ有機物のまま貯蔵され続けるからだと言われている。

海洋でも陸上でも吸着されなかった残りの57%のCO2が大気中に留まり、温室効果の原因となっている。そこで、海洋生態系によるCO2の吸収をどうにか増やせないかという試みが世界中で始まっているのだ。

そんななかで、神戸市は今年1月、海や淡水域で藻類などを使ってCO2の吸収を増やす、ブルーカーボンに関する実証事業を始めたことを発表した。

神戸空港の藻場を利用した取り組み


神戸港の沖合にある「神戸空港」では、自然環境に配慮しようと、建設時に通常なら海底からコンクリートが直立するはずの護岸を、緩やかな傾斜を持つ藻類が育ちやすい構造にした。

浅いところで水深2メートルの浅瀬には、いまではシダモクやワカメといった海藻が大量に育ち、魚やエビなどの産卵場となって、大阪湾全体の生態系に貢献している。

今回神戸市は、この浅瀬に生息する海藻のCO2の吸収量に応じてカーボンクレジットを発行して、脱炭素に貢献したい企業がそれを購入するという枠組みをつくりたいと考えている。

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ブルーカーボンの取組みを発表する久元喜造神戸市長(2022年1月12日)

具体的には、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所と笹川平和財団が設立した「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合」が、第三者の立場から、海藻が茂る場所(藻場)を増やすとどのくらいCO2の吸着量が増えるのかを評価して、それを金銭価値に換算してクレジット化する。

そして、このクレジットを購入した企業は、CO2削減への貢献度合いを社会に向けて発信できるという仕組みだ。またクレジットが購入されることによって、藻場を拡充させる活動のための資金の確保にもつながる。

すでに、兵庫運河(神戸市兵庫区)でのアマモを繁殖させる事業では、ブルーカーボンクレジットが発行され、購入を希望する企業を募っているところだ。
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文=多名部重則

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