SNS各社は政府への情報提供を停止
施行からまだ10日ほどしか経っていない国家安全法だが、すでに多くの分野に影響を及ぼしている。図書館の管理当局は、民主活動家などが執筆した書籍に関して、安全法に違反していないか調べていると発表した。7月6日の時点で、複数の書籍が利用不可になっている状態だ。日本でも名前が知られているジョシュア・ウォン氏も、2013年と2015年に執筆した自身の著書が、調べを受けているとツイッターで明かした。
検閲対象は、書籍だけに留まらずSNSも対象となるだろう。グーグルやツイッター、フェイスブックなどは、7日に香港当局への利用者情報の提供を「一時停止」すると発表した。国家安全法に関する犯罪への取り調べでネット利用者の情報開示を政府や香港警察から求められる可能性があり、応じない場合はネット接続の遮断など、今後の事業活動に影響を及ぼしかねない。しかし、政府の指示に従えばアメリカなど他国からの非難を浴びることになりかねず、先手で対策を打った形だ。
すでに香港から撤退を決めた企業もある。若者を中心に世界中で利用者が拡大している動画投稿アプリTikTokは、香港でのサービス停止を発表した。以前から中国政府の意向に偏った検閲をしているとして非難されてきたが、今回の撤退は利用者情報の提供を阻止するためだとしている。
ユーチューブやネットフリックスなどの動画サービスはまだ立場を明らかにしていないが、今後作品の削除を求められるだろう。SNSは、デモを呼びかけるツールとしても頻繁に使われていただけに、今後の民主化運動はさらに難しくなりそうだ。
[Touchstone for online liberty: @netflix & @YouTube might be the next target under #NSL]
— Joshua Wong 黃之鋒 (@joshuawongcf) July 9, 2020
1. Soon after recent book censorship in libraries, streaming platforms might be the next target of censorship under the new law, as it mandates #police online censorship w/o court scrutiny. pic.twitter.com/uLr4HO3KGb
香港市民の受け入れを用意する国も
これまでも多くの国が、香港に対する中国政府の圧力を非難してきた。6月29日にアメリカは、以前から警告していた香港への優遇措置の停止を発表。軍事技術などが香港から中国政府の手に渡ることを警戒しており、輸出規制なども同時に行った。トランプ大統領が中国寄りだと批判するWHOからの撤退も重なり、米中関係のさらなる悪化が進んでいる。
オーストラリアも7月2日、国家安全法の施行を受けて移住を希望する香港市民の受け入れるを検討していると発表した。旧宗主国のイギリスも、以前から検討していた香港市民の“逃げ道”の準備を進めている。将来的には、永住権だけでなく市民権の獲得も可能にする。香港の若者の中には、海外への移住を考える人も多く優秀な人材の流出が続くと、国際金融都市としての香港の立場が危ぶまれるとの見方も出ている。
一方、日本政府は「遺憾」の意を表明しており、安倍晋三首相は6月11日の衆院予算委員会で香港の金融人材の受け入れの推進についても言及している。
2014年の雨傘運動から長期的に続いてきた民主化デモも、これで一区切りとなってしまうのだろうか。デモに参加した何十万人もの香港市民は、一度は逃亡犯条例改正案を廃止にまで追い込んだ。「香港は死んだ」とも言われた今回の決定について、現地で民主化運動の主体となってきた若者たちはどのように受け止め、今後を考えていくのだろう。