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Kids Public CEO 橋本直也

5年間小児科医として医療現場に立ち、「このまま病院で目の前の患者に向き合うだけでよいのか、これで世の中は変わるのか」という心境にたどり着いたというKids Public CEO・橋本直也。いっこうに減らない妊産婦・子育て世代の不安や悩み。逼迫する小児科医の現場。

虐待に至ってしまった母親のその孤独こそ、解決すべき問題だと気づいた彼は、子どもたちの健康を守りたいという志ひとつで、起業に踏み切ったという。

それがLINEを活用した遠隔健康医療相談サービス「小児科オンライン」「産婦人科オンライン」である。ミッションは『子ども、妊産婦、子育て世代の健康を守る』ということ。ウィズコロナの社会で現在、需要が加速している同サービスと、事業を加速させたテクノロジーとの関わりについて聞いた。

テクノロジーがあればこその、よりよい医療の形があるはずだ


「小児科医の私のもとへ運ばれてくる怪我をした子ども。その横で涙ながらに"自分がやってしまった"と告白する母親。その悲惨な状況をどうにかしたかったのです」

悩み続けるなかで、橋本は、病院で医師がただ待っているだけでよいのかという疑問に行き当たった。こうした虐待が起こる前の段階で、何か自分にできることはないのだろうか。

そして東京大学大学院に入学し、公衆衛生学を学び、社会的な視野を広げると同時に、医師以外、なかでもインターネットビジネスを手がける仲間との交流が増えるうちに、可能性の光が彼の心を照らし始める。

「それまでもWordPressでサイトを自ら立ち上げて医療相談をしたり、Skypeなどを使って、友人の子育ての相談に乗ったりしていたのです。対面でなくてはできない医療もありますが、実はいちばんニーズが高いのは、その手前、相談の段階なのですね。それにより『安心した』という喜びの声を数多くいただき、この仕組みを生かしてできることがあるのではないかと、閃いたのです」

テクノロジーが可能性を切り拓いてくれる。妊産婦や子育て世代の病院受診以前の相談に、テクノロジーを活用して対応できる仕組みを構築できれば、彼女たちの不安を払拭し、虐待に至る孤独になどさいなまれない健康的な社会がやってくるはずだと、橋本が確信した瞬間だった。

「テックにくわしい仲間、頼りになるエンジニア、そうした仲間たちが相談に乗ってくれ、背中も押してくれました。医療現場にだけいたならば、そうした人々にはきっと巡り合わなかったと思いますし、事業を興すなどという発想自体なかったはずです。

Kids Publicは、結果としての起業なのです。利益が出て、ビジネスとして成立するかというよりも、どれだけ自分の理想とする世界を生み出せるのか、そればかり考えていましたから……」

自分の夢を語るうちに、信頼できる仲間が増えていった。同じ志をもつ仲間も続々と集まってきた。橋本はその力を使い、悲惨な妊産婦や子育て世代の悩みを解消し、健康で幸せな社会へ変えるという決断をしたのだ。

「もっと深刻な話をすれば、妊産婦の死因でもっとも多いのは自殺です。誰にも相談できない孤独のなか、産後うつの状態で死を選んでしまう現実は、何がなんでも回避しなくてはならないのです」



小児科医療の現場の危機を防ぎ、距離を超えて医師の力を提供する


新型コロナウイルスの感染拡大で、いま、妊産婦・子育て世代の孤独はさらに加速しているという。そうした状況からの脱却をミッションとし、賛同する仲間を集めて、橋本は起業した。彼女たちが日常的に使用しているLINEを利用して、医師と相談したい親とをつなぐ。

誰にも相談できなかったことが、きちんとした医師に相談できるようになる。不安は解消され、孤立している感覚さえも、雲散霧消となっていく。

「病院で実施する医療も当然大切ですが、私たちが目指しているのはその手前の領域。診療ではなく、相談なのです。いまの段階では、子どもに健康トラブルがあった場合、通常は病院に駆け込むしか選択肢はありません。

しかし痙攣を起こしてしまった子どもと、おむつかぶれの子どもが同じように小児科救急に駆け込むのでは、医療現場も疲弊してしまいます。そのために、病院への受診をどのタイミングですべきかの責任をもったアドバイスを、信頼できる医師からもらえる仕組み、『小児科オンライン』『産婦人科オンライン』が必要なのです。

自分のもつ経験則では、オンラインに寄せられる相談のうち99%の子どものトラブルは緊急性がありません。その場合は、『症状には緊急性がないから、明日ゆっくり病院を訪ねればいい』と伝えるだけよいのです。それで親も安心し、ゆっくり眠ることができる」

いまでは小児科医師、助産師を合わせると、総勢150人以上がこのサービスに参加して、日夜、妊産婦らのさまざまな悩みに答えているという。

医師への相談に、地域格差を生じさせないというブレイクスルー


インターネットというテクノロジーを活用する恩恵のひとつとして、地域格差をなくせたことがあると橋本は語る。

「いまでこそ、新型コロナウイルス拡大の影響で、遠隔医療も普及し始めていますが、それまで、いやいまでも、医師に相談するためには、病院に行かなくてはならないというのが普通です。利便性の高い地域に住んでいれば、それほど問題ではないですが、遠方や過疎地、離島などに住んでいる親たちにとっては、距離を考えなくて済むという恩恵は、実は非常に大きい。

体調の悪い子どもを遠方まで連れていくことも不要なら、地方の医療施設が少ない場所に住んでいる不安も解消される。感染リスクが叫ばれるなか、待合室で長時間過ごす必要もない。

私は医師として、この社会から健康に関する格差をなくしたいのです。誰もが健康になるためのアプローチが可能になる社会へと誘いたいのです」

現在、積極的に企業や自治体への導入を提案しており、採用企業、自治体も増えているという。

「それもまた、誰もが平等にサービスを受けられることが理想だからです。自治体に社会サービスとして導入していただき、個人は無料で使用できるようになれば、もっと気軽に利用できると思うからです」

いまでは経産省のオンライン相談推進事業の母子保健領域の医療窓口に採用されるまでに、Kids Publicの事業は拡大した。ところが、ここでビジネスは大きな壁にぶち当たろうとしているという。

事業を加速するためにぶつかりつつある壁、グロースを阻害する要因とは?


「現在、セキュリティの問題で、相談を担当する医師にはこちらで設定したパソコンを配っているのですが、人員が増えれば増えるほど、その作業量は膨大になります。OSのアップデートなどがあるたびに、非常に苦労しています。そろそろ社内だけで管理するのはきつい。高い情報セキュリティ体制の維持のためにより効率的に実施することが必要と感じています」

現在はそうした機器設定、ネットワーク周りも、スタッフ内でなんとかやりくりをしているが、事業の成長スピードがそれを凌駕しそうなのだという。

「相談される内容は個人情報そのものです。取り扱いには細心の注意を払っています。そして、事業が広がればその高い情報セキュリティ体制の維持のための作業量が増えます。だからKids Publicもそろそろ専門のプロフェッショナルに相談したいと思っていますし、そうしたセキュリティやICT周りなどをより効率的に対応すべきと感じています。

夢に向かって走るために、コアの部分にリソースを最大限振り当てるために、そうした施策が必要なタイミングがやってきたのです。いま考えると、もう少し早く手を打てばよかったと後悔しているところですが(笑)」

順調な成長を遂げているKids Publicだけに、本業以外の部分で腰折れになるリスクは避けたい。スピード感のある成長を遂げたスタートアップが陥りがちな問題だ。

誰もが羨むグローススピードとは裏腹に、橋本は、起業はあくまで手段なのだと言い切る。

「子どもたちの健康をキーとした理想の未来、社会の姿をつくるため、起業は必要な手段だっただけなのです。夢をかなえるため、といったほうがわかりやすいかもしれません。利益追求よりも何よりも、私にとってはその社会変革こそが、目的だった。

この経験から言うと、自分に大きな目的がある人なら、起業はすべきだと思います。

大切なのは夢を共にする仲間と感謝の気持ち。リスクはゼロではないですが、思うよりは大きくありません。

私は思うのですが、たとえ失敗したとしても、それで終わりではありません。むしろその失敗こそが将来の財産になると考えられませんか?

現代は、テクノロジーが進歩したおかげで、さまざまなサービスを活用すれば、コストも抑えられます。『理想の社会を実現する』という夢を叶えるために起業する、それでいいのではないでしょうか」



橋本 直也(はしもと・なおや)◎2009年に日本大学医学部を卒業、5年間にわたり小児科医として医療現場に立つ。14年から東京大学大学院にて公衆衛生学を学び、15年にKids Publicを創業、CEO就任。16年には「TechCrunch Tokyo 2016 スタートアップバトル」で優勝を果たした。

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