人口減により日本国内のマーケットが縮小することで、今後、海外進出に活路を見出そうとする企業は増えていくだろう。だが、海外市場は未知の世界。丸腰で飛び出して成功を得られるほど単純ではない。海外展開を図る企業には、何が求められるのか。 国際法律事務所DLA PIPERとForbes JAPAN主催のトークイベント「海外進出戦略セミナー」が12月6日、東京・大手町で開催された。国内外で高い評価を得る日本酒「獺祭」を製造する旭酒造の桜井一宏社長をはじめ、国やベンチャーキャピタルなど、企業の海外進出を支援してきたエキスパートたちによるトークセッションの模様を紹介する。
モデレーター・谷本有香(Forbes JAPAN副編集長 兼 イベントプロモーション部 チーフプロデューサー)
海外で『勝つ』ための戦い方とは? 第1部では、「海外で『勝つ』ための戦い方 〜起業家を側面から支える名伯楽たちから学ぶ成功法〜」と題し、インキュベイトファンドの本間真彦代表パートナーと、経産省の三牧純一郎クールジャパン政策課長、DLA PIPERの石田雅彦コーポレート部門代表パートナーの3人が登壇。
最初にボードウォーク・キャピタルの那珂通雅社長が、出張先の福岡からSkypeで出演、質問に答えた。
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那珂さんが、日本からグローバル企業を創出するために企業支援をする中で見えてきた課題はありますか。 那珂:平成の30年間を振り返ると、世界の株価の中で、日本だけが取り残されています。この間に誕生した企業の数、企業の規模が欧米中に比べると、圧倒的に少ないんです。これが株価低迷の要因です。ナスダックが約1000兆円の規模で、東証の2倍くらいですが、上場企業はほとんどこの30年間、40年間に生まれた企業なんです。
私は8年くらい前に外資証券会社を退任し、自分で会社を立ち上げたり、約30社にエンジェル投資したりしています。投資の基準としては、必ず海外展開をするということと、海外の株主を受け入れる姿勢があるということ。ビジネスがしっかり海外で通じるかが、投資の基準になっています。
例えば、日本はIPOまではそんなに難しくないんです。国内では多い時には年間100件くらい行われています。ただ海外とは規模が全然違う。日本は(時価総額)100億円くらいでIPOするケースが多いですが、海外だと1000億円だったり1兆円単位だったりします。この違いの理由は、ビジネスがグローバルであるかそうでないかということに限ると思います。
グローバルかどうかというのは、海外に通じるサービスなのかどうかということです。海外展開を考えるのであれば、最初からアプリなりプログラムなりを英語対応にしないといけない。
ウェブサイトが英語になっていないなんていうのは論外です。海外の投資家たちは、そこで興味が削がれてしまうんです。
──これからもっとも課題になってきそうなことは何でしょうか。 那珂:日本の企業が比較的入りやすいマーケットはインドネシア、ヴェトナム、東南アジア、一部アメリカなどだと思いますが、これから大きな課題になるのは、当然、人材です。ベンチャー業界も、CFOやIRなどの投資家向けの説明を当然英語でやっていかなければなりません。そのために大企業からヘッドハントするなど、人材の流動化が必要だと思います。
──那珂さん、ありがとうございました。それではお三方にお聞きします。企業が海外進出を考えるとき、最初に気にするべき点はどこでしょうか。 三牧:那珂さんがおっしゃった通り、ベンチャーの場合、最初から海外に通用するモデルを作ることが必要です。既存企業なら、日本でビジネスが成功していても、それが本当にビジネスの強みによるものなのか、それとも日本の産業構造・流通構造に合っているからなのか。それができないと、日本での成功体験を持っていって苦戦することが多いかなと思います。
──日本企業の課題はどこにあるのでしょうか。 本間:
テックのスタートアップの多くは、どうしても「自前主義」が多いと感じています。でも全部日本人でまかなうのは、極めて難しい芸当です。
それをうまくやっているのが中国のインターネット系の会社で、彼らは資本提携や事業提携、買収などの形で、現地の力を使いながらマネージメントを展開しているなという印象があります。
石田:日本の大手企業の場合、シニアにならないとなかなか裁量権を得られません。そのため、若い段階からスピード感を持ち自分の裁量で判断をする経験を積みづらい面があると思っています。私がコービッダー(共同入札者)という形で入っている日本企業の代理をする時も、スピード感や担当者の裁量という点が原因でインドや中国、韓国に負けることがあるんです。
──お三方が企業支援をするなかで、5〜10年前と比べて何が変わってきていると感じますか。 三牧:10年前は、クールジャパンの取り組みが始まったころでした。当時はまだ、「中国や韓国に将来追いつかれるかもね」という感じで、危機感は足りませんでした。一方で当時の韓国は、歌や芸能を赤字覚悟で世界に発信していました。サムスンとかヒュンダイとか、業種を超えて戦略的な情報発信やブランディングが行われていましたが、クールジャパンはコンテンツ発信だけにとどまってしまいました。だけど最近は、だいぶ危機感が出てきたと思います。
本間:投資で考えると、企業が投資をする時の「金銭価値」が変わってきたと思います。日本の大企業のほとんどは、株に投資する時は役員決裁になって1億円から始めなきゃいけない。この調子でこれまでやってきたと思うんです。
中国やインド、東南アジアのスタートアップは、日本企業のブランドネームと出てくるお金の小ささ(のギャップ)に驚くんですよね。「え、この大手が1億円の決裁にこんなに時間がかかるのか」と。この5、10年、こうしたギャップが生まれていると感じています。
──成功企業には何か共通点があるのでしょうか。 三牧:やっぱりトライアンドエラーを繰り返していますよね。
「3年は継続してこれをやる」という中長期の目標を立てていると思います。合わせて、人材育成にも取り組んでいる。
本間:投資やM&Aの観点で言うと、「良いもの」をそれなりの価格で買っていることがあるかなと思います。中長期でリスクをかけて買っている企業は、海外展開で比較的うまくいっているかなと思います。
あとマネージメントの点で、外国の会社なので「コンプライアンスを日本と同じにしてほしい」などと言いがちなんですが、
成功している企業は「信頼しながらもゆるく統治する」というやり方が上手だなと思います。
石田:お二人が「中長期の視点で」と言いましたが、その通りだと思います。M&Aの世界でも、価値が100と100の会社がくっついて3年後すぐに200以上になるかと言うと、これは難しいわけです。でも経験により知見を高めている会社は5、10年後を見ており、そこで勝てばいいと考えるんです。
あと本間さんが触れたガバナンスの問題。コンプライアンスや不祥事の問題はニュースになりやすいので、なるべく現地を直接日本的に管理したいという気持ちも非常に分かります。でも法制度は各国違って、現地の慣習とも関係したりしているためそれほど簡単ではありません。かと言って、日本で培ったもの全てを捨てる必要はないので、現地の水先案内人のような存在が重要だと思います。
──ただ工場を建てるのではなく、何のための海外進出なのかという目的をはっきりさせることが重要なんですね。では、どういった投資の準備が必要なのでしょうか。 本間:海外事業部の人が現地に行き、紙でレポートしているようなことから変える必要があると思います。年に1回、1泊2日の出張では、現地の状況は分からないと思うんですよね。でも電話会議やSkypeがあるので、今すぐ現地と連絡を取ることもできる。それを月に1回やった方が、いろんなことが分かるはずです。
今はオンラインでかなりマネジメントできる時代になので、「海外進出=地元に事務所を作り誰かが行く」という時代ではないと思います。例えばFacebook社の日本法人オフィスができたのは、かなりインフラが整ってからですし、Slackの日本法人は2017年にできたばかり。それでも日本のユーザーは以前から多いですよね。「海外進出」に対する考え方も今後変わっていくでしょう。
石田:海外進出はリスクが付きものなので、私たちは「どこで撤退するのか」をお客様としっかりと詰めます。進出の段階で、最悪の場合に致命傷を受けずに撤退できるというオプションを持っておくことが必要です。また、買収そのものが目標ではなく、その後の事業がうまくいくことが目標なので、デューデリジェンス(企業の資産価値やリスクの調査)をする時は、買収した後の体制やリーガルリスクなどを見るようにしています。