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2018.08.31

夢の計算機「デジタルアニーラ」はクオリティ・オブ・ライフへの最適解を導き出せるか

(写真左から)フォーブス ジャパン編集次長・九法崇雄、東北大学大学院准教授・大関真之、富士通AIサービス事業本部長・東圭三、早稲田大学文学学術院准教授・ドミニク・チェン

スーパーコンピューターなど既存の技術が苦手とする問題に、特化型アプローチで瞬時に解を求める“夢の計算機”が注目されている。量子コンピューターに着想を得た、富士通の「デジタルアニーラ」だ。その登場は私たちの社会にどのようなインパクトを与えてくれるのか。量子アニーリングの専門家、東北大学大学院准教授・大関真之、ICTの最前線に身を置く早稲田大学文学学術院准教授・ドミニク・チェン、富士通AIサービス事業本部長・東圭三、そしてフォーブス ジャパン編集次長・九法崇雄が、大いなる可能性を議論する。


なぜいま、次世代アーキテクチャーが求められるのか?

九法崇雄(以下、九法):いま、ビジネスパーソンが知っておくべき、量子コンピューターに代表される次世代技術について教えていただけますか?

大関真之(以下、大関):既存のコンピューターに使われているのが半導体。その集積密度は18カ月で2倍になると「ムーアの法則」で言われていたのですが、そろそろ限界点に到達しつつあります。これ以上小さくしていくと、原子・分子のふるまいが影響してくる。これはもう量子力学の世界。ではそれらを活用してコンピューター技術に応用できないか、というのが量子コンピューターです。「0」と「1」の2つの異なる状態を重ね合わせて保有できる“量子ビット”が生み出され、新しい計算方法が実現しつつある。とはいえ、実用化にはまだまだハードルがある状態です。

東圭三(以下、東):一方、既存のコンピューターのいちばんの弱点は、組合せ最適化問題です。ビッグデータ活用が現実化すればするほど、処理データ量は重くなり、課題は山積してくる。その課題を突破するのに量子コンピューターの能力のひとつ、“アニーリング技術”を使おうというのが、現在の機運ですね。日本ではここ1、2年急速にその期待が高まってきました。

従来の手法では、コンピューターが場当たり的かある理論に基づいて試していたのですが、アニーリング技術は全体から複数のアプローチをして、最適解にたどり着くのが特徴です。これにより、答えを出すスピードが飛躍的に速くなる。



九法:ドミニクさんはWebサービスの最前線で、変化を感じていますか?

ドミニク・チェン(以下、チェン):コンピューターの進化って、人々の手に計算リソースが浸透していく過程ですよね。1980年代にパーソナルコンピューターとして個人の手に渡り、2000年代にクラウドコンピューティングになった。いまでは中高生でもクラウドリソースを普通に活用できます。アイデアを形にする機会は飛躍的に増えています。扱うデータ量も日々多くなっている。

私が肌で感じるのは、いままで複雑で計算リソースが多すぎて諦めざるをえなかったアプリケーションやサービスが、どんどん手軽につくれるようになっているという状況です。それが量子コンピューター技術まで……。実にワクワクします。

大関:手元にiPadさえあればいいということです。PCからクラウドコンピューティングに変わったときに何が起こったかというと、“優秀なコンピューターは、家になくてもいい”となったことでした。要はクラウド経由で優秀なコンピューターに接続できればいい。手元に必要なのは端末だけ。それで十分活用できる環境になったのです。


東北大学大学院准教授・大関真之

量子コンピューターとデジタル回路が出合って生まれた新しい可能性

九法:具体的に量子コンピューターは、どのように一般に普及していくと思われます?

大関:よく中学、高校などに出張授業をしにいくことがあるんです。そうするとクラウドで量子コンピューターが運用されているので、中高生に、実際に触らせることができるんですよ。授業で習った原子・分子の特別な性質を利用したコンピューターということで、みんな興奮します。原理なんかわからなくても動かせる。でもそのうち、量子コンピューターが当たり前の世代が登場してくるんですよね。

チェン:量子ネイティブ!

大関:そのときが本当のブレイクスルーが起こるときなんじゃないかと思います。

九法:インフラになるということでしょうか。

大関:何の抵抗感もなく触っています。その感覚がすごい。

チェン:やっぱり解を求めるスピードは速いのですか?

大関:うーん、そうなのですが、でもまだ量子コンピューターは生まれたての赤ちゃん状態なので、エラーも多くて。デジタルのほうが歴史があるので、正確な答えを導き出せる。ただ答えの質が違う。まだ利用価値を探っている状態ですね。そんなデジタルの堅牢なシステムと量子コンピューターの可能性の両方をいいとこ取りしているのが「デジタルアニーラ」なのかなと。どうなんですか(笑)。

:もともと富士通は20年以上量子コンピューターの研究を続けています。そしてそれとは別部門でスーパーコンピューターをはじめとするデジタル回路の高速化・高並列化の研究も行っていました。たまたまなのですが、量子を研究していたエンジニアがコンピューターの研究部門を同時に見ることになったのです。そこでひらめいたのが、こうした量子デバイスをデジタル回路で再現できないかという着想。それが始まりでした。

チェン:それはシミュレーション的なものなのですか?


早稲田大学文学学術院准教授・ドミニク・チェン

:量子の動きをそのままシミュレーションしたものでなく、量子アニーリングのいくつかの特徴的な動作から発想を得て、デジタル回路で類似的なものを実現したものです。でも私はステップを積み重ねて解を出すことに慣れていたノイマン型*の人間だったもので、最初は解をすぐ出す“魔法の箱”という印象でした。ただ大関先生の著書などを読んでいるうちに、これは画期的なアーキテクチャーだと気づいて……。
*コンピュータの基本構成のひとつ。ノイマン型コンピューターでは、記憶部に計算手続きのプログラムが内蔵され、逐次処理方式で処理が行われる。

九法:「デジタルアニーラ」の優位性とはどんなところなのでしょう?

:ソフトウェア製作者に優しいというところでしょうか。半導体ベースのデジタルコンピューターの性能にはまだまだ制限があります。その枠内で頑張ることで進歩はしてきたのですが、ここでそのゲームのルール自体が変わります。デジタルアニーラなら、制限なしに自由に計算式を投げられます。なのでアプリケーション・プログラムのコードを気を使って書く労力が激減します。いままではとても複雑で負荷の重い処理で避けていたこともその必要がなくなるのです。

AI、VRなど技術の進化に伴い、近年処理すべきデータ量は膨大・巨大になる一方。デジタル=半導体の能力では限界にきているのです。そこで量子コンピューターから着想を得たデジタルで実現したデジタルアニーラの出番です。

さらにわかりやすいところで言えば、量子コンピューターは絶対零度に機器を冷やさなくてはなりません。冷却のための設備など、コストもスペースも大きな負担になります。その点、デジタルアニーラはデジタルなので温度にはあまり左右されません。

現在、商用量子コンピューターとして有名な「D-Wave」にしてもやはり冷却のための大きな設備が必要なのです。

チェン:そうしたコスト的にも有利というのは、実に大切ですね。どんなWebサービス/アプリケーションにしても利用者にそうしたコストが跳ね返ってくるものですから。

「デジタルアニーラ」がつくり出す未来はどんなものなのか

大関:話に出てきたD-Waveは、まだまだ不器用なものです。解きたい問題をそのまま投げることができない。扱える問題の規模がまだまだ小さいのです。これが世代的にはファミコンみたいで面白いのですが(笑)。限られたリソースでどうやって新しい応用例を示すか。挑戦の連続です。その点デジタルアニーラはそもそもデジタル回路なので、多くのニーズに簡単に対応できる。ビジネス利用にそれはアドバンテージでしょう。

:具体的に言えば、金融分野でローリスクな分散投資のポートフォリオ構築のためや、物流・流通分野で移動距離や作業工程を効率化する手段として、あるいは化学・創薬の分野で新薬開発に活用できないかといったお問い合わせをたくさんいただいています。

分散投資でA社に投資してB社にも投資する。それが増え続けて20銘柄になるとその配分の組み合わせは100京通りにもなってしまうわけで、従来のコンピューターでは手に余ります。でも複雑な為替の問題まで含めて、デジタルアニーラは解決できるのです。

物流系は、すでに系列の物流会社で実験しています。どれだけ移動時間を短縮できるかというところです。


富士通AIサービス事業本部長・東圭三

チェン:どの程度まで速くなるのですか?

:物流系だと、それこそ1万倍のスピードでしたね。もちろん問題によって、その速度は変わるのですが。

チェン:通常はどのくらいのスピードで答えが出るのですか。ユーザー的に目安を知りたいのですが。

:1秒以下ですね、通常。それも同時に20個の答えが導き出されます。

チェン:なるほど。いろいろなWebサービスを運用する際に、1秒以内に答えが返ってくるかどうかというのは、ユーザビリティーの問題で非常に重要です。構想できるアイデアが俄然変わってきますから。

Webサービス/アプリケーションでいま、アメリカを中心に問題になっているのは、過度なパーソナライズ広告です。誰にでも薦められるものが、どうしてもいままでのテクノロジーでは優先されてしまうので、結果的にある一定の方向に誘導してしまうのですね、全ユーザーを。

それがトップダウンの情報伝達の限界です。なので、個々人ベースで個別に計算して、それが反映されるシステムをもう一度つくり直すべきではないかという議論が、シリコンバレーなどでは起こっています。でもそれを実現しようとすると、いままでの技術では非常に時間がかかってしまう。現実的ではないのです。

有名人のニュースはみんなが気になるところだけれど、個人的には近所で生まれた子猫のほうが大切だと判断できるコンピューティングという新しい認識も必要だと思います。

いまSNSではフォロー/フォロワーの双方向の関係性ですが、もっと別ジャンルの人間同士が出会うべくして出会うような瞬間を、デジタルアニーラの計算スピードなら生み出せるのではないかと。仏教における「縁起」のような考え方ですけれども。

個別最適化から全体最適化へ 渋滞から災害時の避難場所まで

大関:例えばいま、旅行で宿を取ろうとしたときに、すべての人に同じ宿がリコメンドされてしまうという問題があります。結果、予約が殺到して、泊まれない人が出てくる。そこで全体最適化という問題提起があるわけです。

九法:それが社会全体の問題となれば、なおさらですね。


フォーブス ジャパン編集次長・九法崇雄

大関:そう、アニーリング技術ならではの可能性はそうした方面にこそあるのです。巡回セールスマン問題が本質ではない。そもそもひとりのセールスマンがそんなにたくさんの都市には行かない(笑)。

実際の例で、フォルクスワーゲンの交通量最適化実験というのがあります。これは量子アニーリングを使った実験ですが、複数の車に複数の選択肢を与えて交通量の偏りをなくす実験。最短ルートを知らせるだけでは、どうしてもみんな似たような道を通ることになります。そうではない、個々の車にそれぞれ適した別ルートを提案できる。バランスの実現=全体の最適化です。

その全体最適化実験がどこにつながるかというと、災害時の避難です。津波が起きたときにどこに逃げたらいいか。崖が崩れていなくて安全で、渋滞しない道、それを瞬時に知りたいわけです。それこそがアニーリングの役立つ場面。津波の被害は行き詰まった場所で起こるのです。スムーズに移動できていれば、被害は回避できたかもしれない。特定の場所に人を殺到させてはいけないのです。

チェン:うまく分散させることで、全員が助かる。全体を俯瞰する目があれば、回避できる危険があるということですね。

九法:では最後に、デジタルアニーラで実現できる未来はどんなものなのでしょう?

大関:わかりませんよ(笑)。ただAI技術への応用は面白いと思います。いままでの学習方法によるAIとは質的に違うものが生まれる可能性があります。量子アニーリングによって学習を行ったAIの方が性能が引き出せるという発見もありました。デジタルアニーラも、そうした意外な特性が発見されれば、新しい社会を築く計算技術となっていく、そんな気がします。

:富士通は他にAIとロボットも手がけています。そこにデジタルアニーラを組み合わせて新しい未来をつくってみたいですね。

チェン:アイデアに制限がないことを生まれながらに知っている量子コンピューター・ネイティブ。彼らが常識を飛び越えるブレイクスルーを生み出すことに期待します。

デジタルアニーラの活用領域


大関真之◎1982年、東京都生まれ。2008年東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻博士課程早期修了。東京工業大学産学官連携研究員、ローマ大学物理学科研究員、京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教を経て16年10月から現職。主な著書に西森秀稔との共著『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社)など。

ドミニク・チェン◎1981年、東京都生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。早稲田大学文学学術院・表象メディア論系准教授。NPO法人コモンスフィア理事。ディヴィデュアル共同創業者。主な著書に『電脳のレリギオ』(NTT出版)、監訳に『ウェルビーイングの設計論』(BNN新社)など。

東圭三◎1963年、大阪府生まれ。京都大学工学部卒業後、富士通に入社。サーバ用OSの研究開発を経て、AI基盤事業本部の本部長代理として、富士通AIのZinraiディープラーニングおよびデジタルアニーラの事業化を担当。2018年4月からは、Zinrai全体およびデジタルアニーラ、ロボットに関する事業を本部長として統括。

九法崇雄◎1979年、鹿児島県生まれ。一橋大学商学部卒業後、NTTコミュニケーションズを経て、プレジデント社入社。「プレジデント」副編集長として特集デスクなどを担当した後、2017年2月にアトミックスメディア入社。同年12月より現職。東京都が運営する「青山スタートアップアクセラレーションセンター」のメンターも務める。

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