社長の姿を印刷したパッケージが目を引く「社長チップス」を持つエスプライド 代表取締役CEOの西川世一

「ふとした瞬間に見せるスキのなかにこそ、その人の魅力が潜んでいる。」
─── 西川 世一

本記事の撮影中のことだ。さまざまな角度でポーズを変えながら西川世一のポートレイトを撮っていたなかで、スタッフ一同が「この角度がいいですね!」と沸いた瞬間があった。同行していた部下も「今日一番ですよ」と興奮ぎみに言う。すると、西川は少し照れたように顔をほころばせた。「わかりました!じゃあ、もうここから動きません」。はにかみながら言う彼の様子は、それまで饒舌に経営論を語っていた威厳ある雰囲気から一転、チャーミングな一面を見せた。カメラマンやスタイリストが画像チェックをしている間も、西川は微動だにせず、そこにじっと立って、撮影再開を待っていた。まるで、大人の言いつけを素直に守る健気な少年のように。

のち、西川は持論を語った。ふとした瞬間に見せるスキのなかにこそ、その人の魅力が潜んでいる。部下から慕われ、社外で人脈をつくり活躍するためには、経営者は失敗談や恥ずかしい部分をあえて人前で出して、「チャーミング」な存在になるべきだ、と。

「経営者や社長は、部下から遠い存在に思われがちです。本人も完璧でなければいけないとどこかで感じているし、人前では常にスマートに振る舞おうとする。でも、人って完璧ではないところに親しみやすさを見いだすことってありませんか。人間っぽさを感じる一面が垣間見えた瞬間に、強烈に『この人を応援したい!』と思うこともある。上に立つ人間のチャーミングさを引き出してファンづくりの協力ができたら、という思いから『Charming Chairman’s Club』をつくりました」

その前身となったのが「社長チップス」だった。

西川が社長を務めるエスプライドは、2016年に社長の顔写真や座右の銘を印刷した「社長カード」を付けたポテトチップスの企画・販売を始めた。社長の姿を大きく印刷したパッケージが目を引く商品だ。カードにする社長は公募か、あるいは西川らがスカウトした社長。開始から約2年のあいだに約200社以上が参加し、これまで60以上ものメディアで取り上げられてきた。

各企業の採用や営業、広報活動用のアイテムとして使うことを主な目的としており、企業PR 動画やラジオ番組などへの出演、社長どうしのネットワーク作りにも繋がるが、西川が一番力を入れているのは、カードになった社長の失敗談や苦労話にクローズアップすることだった。

ポテトチップスの味を「汗と涙のCEO(塩)味」とポップなコピーで表現したのは、失敗談や苦労話を明るく前向きに語り、人にチャーミングな印象を与えるためだ。「社長チップス」の専用HPには、西川自らも登場して、過去の苦い経験を公開した。

2005年にエスプライドを設立してまだ間もない時期の出来事だ。西川が会社設立後すぐに取引を始めた重要な顧客との間で、大きな事故が起きてしまった。広告代理店からは損害賠償額は18億円とも言われ、取引先も全品回収を提示する騒動となった。西川は広告代理店の担当者とともに関係各社や消費者の家を一軒一軒訪ね、お詫びをしてまわった。

「事故が起きてしまった取引先は、私が事業をスタートしてからずっと応援し続けてくれた大切なお客様でした。なんとしてでも信用を取り戻したいと、会社を毎日訪問しては、経過報告やお詫びをお伝えし続けました」。西川は振り返る。「誠意を伝える以外に方法はないと思っていたんです」。

やがて取引先や、消費者が、西川とエスプライドにもう一度協力しようと言い始めたとき、広告代理店のある担当者は、西川にこんなことを言った。

「よく逃げませんでしたね」。

「社長という立場でなかったら、辞職して責任をとるという道を選んでいたかもしれない。しかし、関係各所で頭を下げて社に戻ってくると、いつもそこには自分の部下たちがいた。彼らも頑張っているから、自分も頑張らなくてはいけない。そう思うと同時に、なんとしてでも社員を守らなければいけないという責任感があったからこそ、困難な状況から逃げず、向き合うことができたのだと思います」

2016年4月にはじめた企業PRツール「社長チップス」。
わずか2年で約200社以上が参加し、60以上のメディアで取り上げられるなど注目を集めている。

社長が大きな失敗をしてもそれを隠さず、悔しがる姿や、それでもめげない姿を見ることで、社員は社長のファンとなり、応援してくれる存在となる。西川は、会社存続の危機を乗り越えたあと、身をもってそのことを知った。以来、他社の社長や経営者と接する際にも、リーダーらしからぬ慌てぶりや、動揺する姿、緊張する様子に好感を持つようになった。

社長チップスを根底に置いて、もっとトップのチャーミングさを引き出し合うコミュニティづくりができたら。Charming Chairman’s Clubには、西川のそんな思いが込められている。

BIOGRAPHY

■1999 段ボールや梱包資材の製造を営む、父の会社に入社
■2003 商品パッケージ企画、デザイン事業立ちあげ
■2005 独立、ESSPRIDE設立
■2007 商品事故で、会社存続の危機人生ではじめての土下座
■2013 一般社団法人日本おやつ協会設立
■2016 トレーディングカードつきの企業PRツール「社長チップス」発売開始
■2018 Charming Chairman’s Club発足