バブル崩壊直後から働き方改革施行の現在まで、時代の変化の中でも変わらずに掲げ続ける「絶対評価」という考え方。孤独は当然のものととらえ、トップとしての責任を果たし続ける、経営者としての佇まい。あしたのチーム代表取締役社長 高橋恭介の魅力は、強く公平なリーダーシップにあった。
社員とは話さない、飲みにも行かない「不用意に社員とは話しません、飲みにも行きません」。Charming Chairmanと呼ばれる人物なら、およそ口にしないはずの強いメッセージ。高橋は、強さを超えて冷たさすら感じる言葉を、早々に言い放った。インタビューを進めるにつれ、“数字”はもちろん“ルール”など、ある種無機質なものについて好んで話すことがわかる。
実際、よどみなく、印象的な出来事が起きた年や法案名・政府調べのデータなどが、エピソードとともに出てくる。プロスポーツの現場では当たり前になりつつある、データ経営にも共感しているそうだ。「このスタイルは、創業時からまったく変わっていないんですよ」と、こちら側の戸惑いを見透かしたように笑う。
社員とは一定の距離をとり、基本的には役員としか話さない。実は、同社のひとり目の社員は高橋の実の兄だ。にもかかわらず、ふたりの関係を知らない社員も多いほど、家族だからといって特別視することはない、徹底ぶりだ。
社員とのコミュニケーションを控えることで、孤独は感じないのか?という問いかけには、「経営者は孤独ですから。企業規模が大きくなり、社員との距離が離れるにつれて孤独になるのではなく、元々孤独なんです。社員は友達でも家族でもありません。ひとつの目的に向かってともに戦う仲間です。私にとっては、それ以上でもそれ以下でもないんです」という答えが返ってきた。
創業オーナーとしての覚悟と自負は、次のエピソードからも感じられた。「毎日銀行から600万円を下ろし、その資金で一日の営業を勝負している感覚なんです。創業間もないころは、一日10万円で会社をなんとか運営していました。その資金が60倍になったいまも、この手に汗を握るような数字の感触は続いています」。
ともに頑張る仲間たちを正当に評価できる会社であり続けるために、経営者である自分にしかできない役割をまっとうすると決めている。強いメッセージの裏には、会社と社員に対する、責任と深い愛情が垣間見えた。
聞こえがいい言葉でなく、正しい評価で報いる人事評価制度を提供するという事業内容からも、高橋のポリシーは、“正しいことをやっている人が正当に評価される仕組みを継続する”ことにあるとわかる。実際、働き方改革の名の下、多くの企業で残業時間の削減が行われているが、現場の実情は、給与に見込まれていた残業代が減る一方で仕事は積み上がるばかりだ。
「本来、生産性が向上すれば企業の業績は上がる。そして、一人ひとりの給与は上がるはずです。それを実現している企業はどれほど存在するでしょうか。正当に社員に報いるつもりがあるのかを、見極めなければならない。きれい事ではなく、企業が社員のことをコストととらえるのか投資先だととらえるのか、企業のあり方が問われています」とも語った。
高橋自身は当然、空前の被雇用者の売り手市場において、最大の投資先は人だと考えている。だからこそ、金銭で報いることができない分をコミュニケーションで補充することや、会社側がコントロールし社員が権利を主張できない、手当部分を手厚くするような給与構造にすることを、よしとしない。
4月販売開始の「ゼッタイ!評価®制度自社構築キット」。評価制度構築に必要なテキストや資料に加え、高橋恭介自らの解説動画DVDも含む。自らを律し、自身の評価すらもオープンにする「私は、自分の時給を全社員にオープンにしています。私だけではなく全社員の時給も同様です。年収ではなく時給が開示できる会社は、日本にある約420万社の内、1%もないのではないでしょうか。それは、日本企業の給与体系の多くは、説明がつかない、いわゆるお手盛り人事の要素が入った年収が設定されている現状があるためなのです。正しく働くことを正しく評価する仕組みは必ず機能する。それを証明したいと思っています」。まさに、あしたのチームの存在意義をかけた、高橋の新たな挑戦ともいえる。
評価はブラックボックスだと諦めているビジネスパーソンも多いだろう。一方でそれらすべてをオープンにすることは、企業側にとっては忖度(そんたく)できる領域をなくすことでもある。不都合はないのか? という問いには「メリットしかありません」と言い切る。
「人事評価制度で起業した会社だからこそ、自社の評価には一点の曇りもあってはいけないと考えています。お客様に“べき論”を説く一方で、自社でグレーなことがあれば、社員はついてくるはずがありません」
周囲にだけ正しさやパフォーマンスを求めるのではなく、自らを律し自身への評価すらもオープンにする。自分を含むすべての人間に対する公平なリーダーシップこそが、高橋の強さであり魅力なのだ。
高橋恭介◎あしたのチーム代表取締役社長。1974年生まれ。東洋大学経営学部卒業後、興銀リースでリース営業と財務を担当。その後ブライダルジュエリーを企画販売するプリモ・ジャパンへ転職し、メンバーから副社長にまで上りつめる。ゼロから人事評価制度をつくり上げ、業界ナンバーワン企業へと牽引。その経験をもとに、2008年にあしたのチームを設立。代表取締役社長を務めている。