アンは49歳のときに夫を亡くした。その悲しみから逃れるためにランナーとなった。4年後、彼女自身も乳がんに罹った。しかし、術後数カ月で50歳以上のシニア世代が参加するスポーツイベントに参加するようになる。それ以降、92歳になったいまもなお現役のランナーだ。
年齢を重ねれば知力と体力ともに衰えるのはやむを得ないと人は考える。しかし、最近医学界ではアンのような元気な高齢者「スーパー・エイジャー」が注目されている。一般的に人間は、喫煙や肥満など、何が病気のリスクになるかと考えがちだが、スーパー・エイジャーのように、どうやったら元気でいられるかという発想に転換しようというのだ。
ハーバード大学のディクソン教授は、IQや教育レベルの同じ60歳から80歳の40人と、18歳から35歳の41人に16の名詞を覚えてもらい、20分後に思い出させるテストを行った。その結果、年配者グループの23人は年相応で9つしか思い出せなかった。しかし、17人は14個以上記憶しており、若者グループと遜色がなかった。
テスト中、MRIで脳のどの部分を使っていたかをみたところ、記憶の良かった17人では大脳皮質の記憶に重要なエリアだけではなく、集中力、やる気、感情、ストレス対処など脳の高次機能に関連するエリアも活発に使われていた。
一方、年相応の23人では同エリアがあまり使われていないばかりか、萎縮してしまっていたのである。
教授は参加者を観察してこう指摘した。「このテストを簡単に乗り越えられるチャレンジとみるか、それとも無理難題としてすぐにあきらめるか。その違いだ」
つまり、テストを目の前にしたとき、どう捉えるかで違いが生まれるというのだ。
では、体力はどうか? 運動負荷をかけたとき、1分間の最大心拍数は「220 ー 年齢」とされている。40歳であれば180/分となる。歳を10とると最大心拍数が10低下し、最大酸素消費量も10%減少することを意味する。しかし、毎日20~45分の激しい運動をすると、80代になっても50代の体力を保つことができるとハーバード大学のテイラー教授は述べている。
アメリカには50歳以上が参加するスポーツ大会がある。2015年に参加した約4200人の平均年齢は68歳だったが、体力は43歳相当であった。しかも大半は、50代を過ぎてから運動を始めたという。また、マラソンの歴代記録をみると、73歳のカナダ人男性が2時間54分で完走している。
スーパー・エイジャーの共通点は何だろうか? 私はコンフォート・ゾーンと呼ばれる慣れた快適領域を抜け出し、生涯チャレンジャーであり続けることだと考える。80歳で3度目のエベレスト登頂を果たした登山家の三浦雄一郎さんを思い出さずにはいられない。
うらしま・みつよし◎1962年、安城市生まれ。東京慈恵会医大卒。小児科医として骨髄移植を中心とした小児がん医療に献身。その後、ハーバード大学公衆衛生大学院にて予防医学を学び、実践中。 桜井竜生医師と浦島充佳医師が交代で執筆します。