これだけ違った病名が使われていることからも分かるとおり、慢性疲労症候群は病理学的に非常に複雑で、医療現場でも未だ不可解な点が多いとされる。直接的な病因は明らかになっていないが、過去のウイルス感染や心理的ストレスなど、様々な要素が絡み合って症状を引き起こすという研究が報告されている。
2015年2月にIOMが発表した試算によると、米国における患者数は836,000人〜250万人の間であると見込まれている。それに占める子どもの割合は明らかにされてこなかったが、専門誌Pediatricsに掲載された最新の研究によって子どもたちの現状が明らかになってきた。
男子より女子がなりやすい
英国ブリストル大学の研究チームが行った分析によると、16歳の子どものうち、3%が少なくとも3か月以上、2%は実に半年以上もの間、慢性疲労症候群の症状が続いていたという。
研究の対象となった10代の子ども5,756人のうち、女子は男子と比べて2倍の確率で発症することがわかった。さらに、厳しい経済状況や母親のサポート不足など、家庭環境に問題がある子どもも発症しやすいことが明らかになった。発症した子どもは平均で、週の半分以上学校を休んでいた。
慢性疲労症候群は、身体的、意識的、精神的な複合ストレスがきっかけとなり、ひどい疲労感や思考力の障害、不眠、痛みなど様々な症状が続く病気だ。発症すると日常生活に支障が生じ、4人に1人の患者が自宅やベッドでの静養を余儀なくされた経験を持つ。
診断基準は国によって異なっており、アメリカ疾病管理予防センターは、少なくとも半年以上の間、倦怠感が継続することを基準としている。一方で、英国国立医療技術評価機構(NICE)の指針では、3か月間断続的に原因不明の疲労感があり、休養しても倦怠感が緩和されず、日常生活における活動量が激減するといった症状を基準に設定している。
ブリストル大学の研究では、医師の診断によるのではなく、研究に参加した16歳の子どもや親のアンケートをもとに慢性疲労症候群を診断。ただし、うつ病などの症状がある子どもについては、慢性疲労症候群の症状と区別するのが難しいため研究対象から外した。すると、2011年にオランダのチームが医師の診断をもとに発表した同様の研究では、10代で患者となる割合は0.11%であったのに対し、今回の研究ではその割合が高くなった。
ブリストル大学の研究チームは、異なる結果が出た要因について、症状の分類基準が異なっていたという可能性に加え、慢性疲労症候群の疑いがあっても医療機関へ行かなかったり、行ったとしても医師が診断や処置を行わないケースがあるためだとしている。
さらなる研究のための課題
科学的な研究において、対象者の自己申告にゆだねる手法をとると、結果の有効性に疑問が生じるというのは通説だ。たとえば、記入式のアンケートでも、自分の症状を誇張する人がいれば、反対にあまり書かないという人もいるからだ。
しかし、医師にその診断を委ねたとしても、結果の信憑性に疑問符が付くのは同じだ。というのも、慢性疲労症候群の診断基準が未だ確立されていないからだ。これまで発表された研究はどれもが異なる基準を用いているため、各々の研究結果を比較することさえままならないというのが現状だ。
今のところ、慢性疲労症候群に関して発表されたデータのほとんどは小規模のグループを対象にしたものであり、様々な研究が行われたところで研究結果に確かな理論を導くような統一性は見受けられない。この病の全容解明に向けて、今後の更なる研究が待たれる。