売却益で築く第2の帝国、不動産も分散投資
チェーンを売却した後のポルティロは、投資にも同じアプローチを応用した。それは、一つの不動産物件への投資であっても、できる限り多様化するというアプローチだ。「卵を一つのかごに入れてはいけない」と語る彼は、その例として、郊外に所有するショッピングモールを挙げた。そこには洗車場やメキシコ料理店、美容室、フェデックスなどが入居している。「大きなテナントが一つしかなく、そこが撤退すれば困るような状況にはしない。それが私の安全策なんだ」。
コロナ禍で価値が上昇したアパート群と工業用不動産
彼は、2014年以降にテキサスやフロリダ、ジョージア、ケンタッキーに約2000戸のアパートを保有するポートフォリオを築いた。その後、新型コロナウイルスのパンデミックによって南部への人口流入が相次ぎ、各州で賃料が急騰した。ポルティロは2021年から2024年にかけての不動産相場の上昇の中で大半を売却したが、入居率が97％のヒューストンの270戸は保有を続けている。さらに2016年にはインディアナポリスで工業用不動産用地の買収を始め、総面積は約37万平方メートルに及んでいる。この用地は、パンデミック期に高まった倉庫需要を背景にアマゾンからフェデックスまで幅広いテナントを誘致している。
ポルティロがたどった道は、自身が人生をかけて築いた企業を売却した起業家が新たな道に進むにあたっての手本と言える。「彼から学んだのは、最高の不動産を選んで、必要とされるものを建て、転売して売却するというやり方だ」と語るのは、自らのサンドイッチチェーン「ジミー・ジョンズ」を2016年から2019年にかけてポルティロの後を追うように売却したビリオネアのジミー・ジョン・リアウトーだ。彼は、ポルティロが、自身のメンターだと語っている。
現金は債券63％と株式22％で構成、ウーバーへの初期投資も成功
ポルティロはまた、手元資金の運用でも堅実さを失わなず、債券に63％、株式に22％、プライベートエクイティを含むその他の投資に15％を振り分けている。彼はまた、リスクを取っても、その多くで成功を収めている。2014年にはウーバーに500万ドル（約7億円）を投資しており、2019年の上場を経て、その持ち分の価値は現在、約1300万ドル（約19億円）に達している。
もっとも、ポルティロ自身はこうした投資にさほど興奮しておらず、「どれも退屈なんだ」と言って笑う。彼が最近もっと楽しんでいるのは、フロリダ州ネイプルズでの住宅建設で、ゼロから設計し、完成後に内装を施すという取り組みを行っている。「私の趣味は家を建てて飾ることだ。それをやっていると本当に楽しい」とポルティロは語る。
しかし、その住宅は彼にとって最も自信の持てない投資でもある。「2〜3年前、ネイプルズは全米で最も熱い不動産市場の一つだった。私はこれらの家に5400万ドル（約80億円）を投じたが、これまでに売れたのは1軒だけだ。残りは価値が下がってしまった。1軒買ってみないか？ いい値段で譲るよ」とポルティロは話した。
一方で、ネイプルズでポルティロの家の対岸に住む、現地で独自の不動産帝国を築くビリオネアのデービッド・ホフマンは強気だ。「私はこの市場を心から信じている。米国で住む上で最高の土地だよ」。
引退後の情熱と事業への冷静な哲学
引退したポルティロは、退屈だと不満を述べながらも、自分の情熱を追いかけるための時間を手に入れた。歴史マニアで、特に第二次世界大戦に興味を示す彼は、真珠湾攻撃を指揮した日本の山本五十六長官が乗っていた爆撃機の残骸を探すPBSのドキュメンタリーを、南太平洋のブーゲンビル島で撮影したこともある。
また、彼は熱心な美術収集家でもあり、アステカ文明や中国、エジプト、ギリシャ、ローマの古代美術品を所有している。さらに、これまでに約1300万ドル（約19億円）の寄付を、シカゴ糖尿病財団（彼の妻のシャロンは1型糖尿病を患っている）や母校、キャンプ・ペンドルトンの傷痍軍人部隊などに行っている。
旧自社株は保有せず、所有不動産を「良い投資」と割り切る
ポルティロは今、自身が51年間をかけて築き上げ、経営してきた会社と距離を置いている。彼は同社の株式を一切保有しておらず、店舗に足を運ぶこともなくなったという。彼の関与がなくても拡大を続けるチェーンは10州で94店舗を展開中で2024年の売上高は7億1100万ドル（約1052億円）に達していた。今の自分にとって、所有している店舗は単なる投資物件にすぎないと彼は語っている。
「もし彼らが債務不履行になったり潰れたりしても、私は良質な不動産を手にしているし、大家という立場を楽しんでいる。優良な物件を探している投資家はいつだっているんだ」とポルティロは語った。
