NTT DATAは未来像を描き、価値を再定義し、その価値を実現する仕組みを生み出している。それは、あらゆるステークホルダーとの共創によって拡張していく。今、NTT DATAが見据えている未来は、「インターネットやAIのその先」だ。輝かしい未来を連れてくるのは、国や業界、企業といったあらゆる境界線を超えて人々がつながるための「データスペース」。後編では、現在から未来に至るまでのNTT DATAの貢献を俯瞰する。
前編で触れたとおり、ドイツの自動車メーカーが中心になって推進していた自動車製造業向けデータスペース「Catena-X」が2023年10月に正式稼働するなど、世界におけるデータスペースの先行事例は構想段階から実装段階へとフェーズが進んでいる。NTT DATAも国内外での実績を積み上げているところだ。
データスペースを実装するにあたり、担保しなければならないのは信頼性や安全性である。これらを抜きにして、データスペースの拡がりは生まれない。
後編では、「データスペースが信頼性や安全性を獲得するために、NTT DATAはどのような点で貢献しているのか」「これから先、データスペースがある世界は、どのようになっていくのか」といった問いに対し、NTTデータグループ 技術革新統括本部 Innovation技術部 IOWN推進室 シニア・スペシャリストの土橋 昌、同IOWN推進室にて課長を務める菅野未来、さらにはNTT社会情報研究所 社会情報流通研究プロジェクト プロジェクトマネージャ/主席研究員の横関大子郎が答えてくれた。
NTT DATAだからできる確かな価値創出と技術開発
——データスペースを通じてデータを連携・利活用していく際、データを供給する側としては「このデータスペースや相手は信頼できるのだろうか」という疑念が生じるのではないでしょうか。「提供することを意図しないデータまで利用されてしまうのでは」といった不安もつきまう可能性があります。
「たしかにそう思われるのも当然だと思います。不安の理由を理解し、不安を和らげてデータ利活用を適切に推進するには『データ主権(Data Sovereignty)』という概念を共有する必要があると思います。色々な解釈がありますが、『データ主権』とは、『自らが自分のデータを制御・管理する権利を行使する能力だ』と言われています。これはデータスペースに関する最も根幹的で必要な概念のひとつで、それを確立するための技術も必要です」(土橋)

——そうしたデータスペースに関する仕組みづくりは、どこでどのように行われるのでしょうか。
「日本では2021年に『一般社団法人データ社会推進協議会DSA(Data Society Alliance)』が発足しました。24年からは連邦型のデータ連携を実現するDATA-EXプラットフォームが提供され、データ利活用のルールや情報保護などの方針が議論されてきました。欧州でも国際的なイニシアティブとして、連邦型のセキュアなデータインフラの実現を推進する『Gaia-X』があります。
また、データ主権を確保しながら信頼できるデータ共有環境を実現するための標準策定と促進を行う組織として『IDSA(International Data Spaces Association)』があります。土橋はIDSAの日本におけるイニシアティブである『IDSA Japan Hub』のボードメンバー(運営委員)であり、DSAや各国の組織が発起人となった国際ラウンドテーブルなどにも参画してきました」(菅野)

——NTT DATAは、データスペースの仕組みづくりにも積極的に関与してこられたのですね。技術開発の面では、どうでしょうか。NTT DATAならではの強みは、どのようなところにあるのでしょうか。
「そのひとつが、機密情報などを秘匿したままデータ活用・連携するための技術です。これは、まさに企業間データ連携の安全性を高める技術であり、複数の企業が保有するデータやデータの計算処理を行うアルゴリズムを他の企業に対して秘匿しながら処理できるようにするものです。この技術はNTT研究所と連携して技術開発を進めています」(菅野)
——その技術の内容について、もう少しかみくだいて説明してください。
「一言で言えば、データの提供から分析まで、すべて暗号化したまま計算できるという事です。これにより分析に用いるデータもアルゴリズムもあらゆるタイミングにおいて保護された状態に保つことができます。
具体的には、まずデータ提供企業からのデータを秘匿したまま、システム基盤上の暗号化された領域内に送信します。その後、この暗号化された領域内でデータが使用されて、分析のための計算処理が実行されます。そして、計算処理の結果が再び暗号化されて出力されます。また、分析や計算に用いるアルゴリズムもデータと同様に保護されます。
つまり、企業が有する生データやアルゴリズムを他社に秘匿したまま、それらを利用して処理を行うことが可能なのです。この技術を支えているのは暗号技術です。NTTには世界でもトップレベルの暗号学者が集まっているのです」(横関)

海外とも共創しながら、つながる仕組みを拡大中
——今、そのような技術が生み出されることに加え、データスペースはどのようにして進化しつづけているのでしょうか。
「産学の共創も主要なアクティビティですね。今、東京大学が『データスペース技術国際テストベッド』というプロジェクトを推進しています。このプロジェクトには産学から多くの組織・人材が集まっていて、実際のシステムを用いて実証的な研究を進めるためのプラットフォームになっています。
そこにNTT DATAは客員研究員やサブプロジェクトリーダとして参画し、他の多くの国内外の企業・研究機関の皆様と協業しながら、知見や経験を共有することでオープンイノベーションに貢献してきました。例えば、海外を含めた参画企業間のデータスペースの相互接続検証やその際の組織間の信頼性確認の実証などを行っています」(菅野)
——喫緊の課題への取り組みとしては、どのようなものが挙げられるのでしょうか。
「データスペース内はもとより、同一のコンセプトを共有するデータスペース間でも、ある程度統一されたアーキテクチャに基づいて設計・運用が進められています。しかし、初期の頃のデータスペースのなかには、各地域や産業のビジネス慣習に強く影響を受けているものがあります。それが現在のようにデータスペースの活動が世界規模で活発化した状況において、互換性の課題が出てきています。
そもそも、データスペースの本来の目的は、複数の組織が保有するシステムを相互に接続し、効率的かつ安全なデータ共有を実現することにあります。NTT DATAは、異なる仕様や規格のデータスペースを工夫して併用できるようにしたり、相互運用性を確保すべく、国内外での実証を積極的に進めています」(土橋)
「これまでにも国内外におけるデータスペースの相互運用性について検証してきました。先日、欧州のルクセンブルクのデータスペースと日本のデータスペースの相互接続実証に成功し、両国で歓喜の声が上がりました。
今後はヘルスケアのユースケースにおけるデータスペース活用を含めた取り組みを構想しています。また、同様の取り組みとして、他の国でも製造業やモビリティのユースケースにおいて、相互接続の実現にむけた検討をしています。NTT DATAの今後にご期待ください」(菅野)
インターネットやAIの先にある未来に向けて
——何だか、時代が変わるようなダイナミズムが強く感じられますね。
「まさにその通りです。過去を振り返ると、自動車やインターネットの登場で新たな可能性を切り拓いたように、データスペースもまた、データの価値をより一層向上させ、経済活動のあり方を一変させる革命的なイノベーションになるかもしれません。私たちはデータスペースという次世代の基盤を構築し、社会全体の成長と進化を支える役割を果たしていきたいと考えています」(土橋)
——確かに、過去を振り返ると今のデータスペースが置かれている状況がよく理解できますね。今、私たちはどこに向かっているのでしょうか。
「先ほどお話しさせていただいたルクセンブルクとの取り組みが進み、安心してヘルスケアデータなどの連携が国をまたいで行えるようになれば、今まで以上に研究が進んで、人々のウェルビーイングに貢献できると考えています」(菅野)
「それを実現するためには技術的な課題を解く必要があります。例えば『データスペース技術国際テストベッド』などを通じて、世界各国の研究者が同じテーブルに座ることができるようにもなってきました。その結果、これまで別々に開発されてきた技術をマルチユースしたり、国や地域を超えた相互運用性実現したりするための研究が始まっています。
また、技術だけではなく、ルール作りや社会的な理解を深める活動が重要です。私たちは、多様な専門家と協力しあいながら、データスペースを軸に新しいイノベーションのあり方を実現していきたいと考えています」(土橋)
「私も、今の状況はかつての『インターネット黎明期』のように、技術やルールが急速に整備されてきていると感じています。電信・電話によって始まった通信技術の革新の歴史は今、『データの構築、収集、分析、利活用のあり方を劇的に変えるデータスペースをどのように取り扱うか』というフェーズに移行しています。
今後は、人間とAIが協調することが当たり前の世界となり、データスペースを通じて会話をしていく『次世代のインターネット』を活用した世界が考えられます。そうした未来においてはお互いの身元やデータの正しさが保証され、安全に情報交換ができることが期待されます。情報の信頼性が確保されれば人々がお互いが分かりあえ、かつてないウェルビーイングに到達できる可能性もあると思っています」(横関)
——「人間とAIが協調してこれからのウェルビーイングを実現していく際の一つの鍵がデータスペースである」というわけですね。これから先のことが、とても楽しみになってきました。
NTT DATA
https://www.nttdata.com/global/ja/
どばし・まさる◎NTTデータグループ 技術革新統括本部 Innovation技術部 IOWN推進室 シニア・スペシャリスト。2010年頃に国内最大級の並列分散処理基盤の開発・運用を経た後、データ活用、機械学習・AI基盤開発などに従事。近年では、企業・業界間データ連携/データスペースの取り組みを国内外で主導。
かんの・みき◎NTTデータグループ 技術革新統括本部 Innovation技術部 IOWN推進室 課長。公共系大規模案件のシステム開発経験を経て、並列分散処理OSSを中心にデータ処理基盤案件の技術支援を行ってきた。現在は、企業間データ連携に関する研究開発とデータ連携の社会実装に向けたイノベーションをリード。
よこぜき・だいごろう◎NTT社会情報研究所 社会情報流通研究プロジェクト プロジェクトマネージャ 主席研究員。仮想化基盤、大規模分散処理基盤をはじめとするオープンソースを用いたクラウド基盤の立ち上げに従事。現在は、耐量子計算機暗号、分散AI学習、デジタルウォレットなど、暗号技術を応用したデータ流通技術の研究開発を主導。