NTT DATAは未来像を描き、価値を再定義し、その価値を実現する仕組みを生み出している。それは、あらゆるステークホルダーとの共創によって拡張していく。これまで培ってきたシステムの構築力と運用力に代表されるNTT DATAの強みは今、「データスペース」という新たな空間へと惜しみなく注ぎ込まれている。前編と後編の2回に分けて、その取り組みの深部と未来に迫る。
NTT DATAの「ヒストリー」と「プレゼンス」を概観
NTT DATAは「情報技術で新しい『仕組み』や『価値』を創造し、より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献する」を企業理念に掲げて、世界50カ国以上でITサービスを提供している。日本電信電話から分社して創立されたのが1988年。NTT DATAによるITサービス提供の歴史は67年の日本電信電話公社時代にデータ通信本部が設置されて以来なので、実に58年にも及ぶ。2025年の今、デジタル技術を活用した「ビジネス変革」や「社会課題解決」に向けて、コンサルティングからシステムづくり、システム運用に至るまでのITサービスをライフサイクルのすべてに渡って展開している。
NTT DATAは、23年7月から戦略的観点に基づいて「国内事業会社(NTTデータ)」と「海外事業会社(NTT DATA, Inc.)」、それらを統括する持株会社「NTTデータグループ」の3社体制に移行した。連結売上高全体(23年度は4兆3,673億円)に占める海外事業の割合は6割にまで達し、日本発の「グローバル総合ITソリューション企業体」として顕著なプレゼンスを示している。
実際のところ、「グローバルにおけるITサービス市場売上高ランキング2023(ITリサーチ大手の米国ガートナー社による調査・2024年4月発表)」で、NTT DATAのグループ連結売上高は世界のなかでも第6位に入っている。直接的な競合にならないハイパースケーラーを除くと第4位。事実上、グローバルのトップ5に食い込んでいる。まさに、世界屈指の存在になっているのだ。
今、世界は「データスペース」に注目している
本稿では、前編と後編の2回に分けて、NTT DATAが推進しているデータスペースの取り組み実例や未来展望などをひも解いていく。スピーカーは土橋 昌(以下、土橋)、菅野未来(以下、菅野)、横関大子郎(以下、横関)の3名である。NTT DATAで技術開発や企業との連携などデータスペースの取り組み全体をリードしているのが、技術革新統括本部 Innovation技術部 IOWN推進室 シニア・スペシャリストの土橋 昌だ。同部署課長の菅野未来は、組織をまたいだデータ連携を加速させるための技術を開発し、それをプロモーションする仕事にも従事。海外のメンバーとも連携しながら、世界的な観点を有してデータスペースを推進している。横関大子郎は「ウェルビーイング(幸せのあり方)」から「暗号技術」に至るまで、社会の価値を科学するためのさまざまな技術研究を進めているNTT社会情報研究所に所属。横関のチームは「データ流通によって、いかにして社会を変革するか」という課題に取り組んでいるという。
——まずは「データスペースとは何か」という概念的な質問から入らせてください。
土橋:データスペースとは「国や業界、組織を超えて多様な相手とデータを連携し、利活用できる仕組み」です。技術的には、データを自由に、かつ安全に流通させることができる新しい経済・社会活動のための分散システムがデータスペースと言えるでしょう。その根底には「信頼性と権利の確保」が必須となります。近年、データスペースの構築に関する議論や具体的な技術開発が世界中で進展しているところです。

——そもそも、どうして今、世界中でデータスペースに対する注目度が高まっているのでしょうか。
菅野:それは、現在の社会システムやビジネスに内在される、とあるギャップを解消する手段としてデータスペースが期待されているからです。と言いますのも、公共サービスやビジネスにおいて企業や組織、業界、業種を超えてデータを流通させる必要性が著しく高まっています。一方で、信頼性を確保しながらデータを企業間で自由に流通させる仕組みがまだ十分に整っていないという現状があります——。そうしたあるべき姿と現状のギャップが世界のさまざまな現場で拡がり続けてきました。それを解消する手段としてデータスペースに注目が高まっています。

——そのギャップを埋めていくために、今、世界では凄腕のIT企業がしのぎを削っているというわけですね。これまでに海外で進行してきた事例としては、どのようなものが挙げられるのでしょうか。
菅野:自動車のサプライチェーン全体でデータを共有するためにドイツの自動車関連会社が中心となり設立した「Catena-X」が顕著な事例ですね。このプロジェクトは、欧州の自動車業界の競争力強化やCO2削減などに向けて、データを安全に交換できるプラットフォームの提供を目指して21年に発足しました。現在では170以上の大手自動車メーカーや関連企業を中心としたメンバーが参画しています。23年10月からは、Catena-X準拠サービス運用会社Cofinity-Xがサービスを開始しています。
——確かに、サプライチェーンに拡がりのある自動車業界などは、データスペースを欲しているレベルが高そうです。
土橋:そうですね。大きなサプライチェーン全体でデータを共有していく必要がある自動車業界のように、データスペースと親和性の高い企業や業界が存在しています。しかし、データを扱わない業界はありません。データは、あらゆる業界においてビジネスの源泉になります。これから先、その必要性がさらに高まっていく流れに応じるべく、まずは親和性の高い企業や業界とともにNTT DATAも積極的にデータスペースの具体的事例を生み出してきました。先行するプロジェクトで得られた成果を他の産業分野にも展開していくことで、データスペースのエコシステムを大きく発展させていきたいと考えています。
NTT DATAによる国内外のデータスペース実例
——今、名実ともに世界のシステムインテグレーターを代表する存在となっているNTT DATAは、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
菅野:すでに国内外において社会実装の事例を積み上げています。日本においては、経済産業省の主導で23年に発足した「ウラノス・エコシステム」のファーストユースケースである「バッテリートレーサビリティプラットフォーム」の提供が挙げられます。今、欧州電池規則への対応などに向けて、自動車業界は喫緊の課題を抱えています。NTT DATAは、電動車向けバッテリー製造時の情報を企業間で連携可能にする仕組みとして、サプライチェーンデータ連携基盤の開発を進めました。この「バッテリートレーサビリティプラットフォーム」は24年5月からサービス提供開始しています。
——国外においては、どのような取り組みがすでにワークしているのでしょうか。
土橋:例えば、NTT DATAの欧州の取り組みとして、EU域内の公共サービスのための公共調達データスペース(Public Procurement Data Space)があります。
これまで欧州の行政機関間で、公共調達データの格納場所やフォーマットが異なり、共通のアクセス手段が存在せず、公共調達データに基づく意思決定などが複雑になっていました。そこで欧州における公共調達データの効率的な活用を目的として、EU規制のもと公共調達市場に関する包括的な情報へのアクセスを提供する統一プラットフォームが提供され、そこでNTT DATAが開発・運用の中心的な役割を担っています。
——国内から国外まで、産業界から公共セクターまで。すでにNTT DATAは、国や領域を横断しながらデータスペースを実装しているのですね。
菅野:これまでのNTT DATAの歴史をひも解くとかつて1970年に日本全国の自動車を一元管理する国土交通省自動車検査登録システム「MOTAS」を始動させており、NTT DATAはこれまで公共を始めとした社会基盤を支えるシステムの構築や運用を手がけてきました。
このように社会を支える仕組みや基盤をつくってきたNTT DATAの実績と経験は、現在の国内外のデータスペースの活動を推進していくためのアイデンティティとして私たちのDNAに組み込まれており、利害関係の異なる国内外さまざまな企業や業界とコミュニティを形成しながら社会実装を推進するイノベーションの原動力になっています。
横関:国内から国外まで、産業界から公共セクターまで——。もっと言うなら、この地球で暮らすあらゆる人間は今、時代が大きく切り替わるフェーズを迎えています。インターネットがあらゆるビジネスやライフスタイルに浸透している現在、それ以前の世界とは明らかに違うフェーズへと人類は進み続けていますよね。これから先、人間とAIが協調していくことが当たり前の時代になり、そのような時代には人間だけでなくAIにとっても新たな時代のインターネットが必要になってくるわけです。私たちはまた確実に新たなフェーズへと進んでいくことになりますが、まさにそのフェーズを生み出し、支えていく「新たな時代のインンターネット」になるのがデータスペースです。時代が鳴動するインパクトは往時の「インターネット登場」にも比肩するものになると、NTT社会情報研究所では考えています。

——データスペースは、インターネットに次ぐポジティブインパクトを私たちにもたらしてくれるのですね。これから先、データスペースが当たり前となる時代が楽しみになってきました。
この前編では「NTT DATAとは何者か(WHO)」に始まり、「世界で注目されているデータスペースとは何か(WHAT)」「NTT DATAはどのような取り組みを行っているか(HOW)」というファンダメンタルな事項について触れてきた。次回、後編では「NTT DATAだからできること(INITIATIVE & STRENGTH)」「これから先にデータスペースがもたらすもの(FOR THE FUTURE)」へと話を進めていく。
NTT DATA
https://www.nttdata.com/global/ja/
どばし・まさる◎NTTデータグループ 技術革新統括本部 Innovation技術部 IOWN推進室 シニア・スペシャリスト。2010年頃に国内最大級の並列分散処理基盤の開発・運用を経た後、データ活用、機械学習・AI基盤開発などに従事。近年では、企業・業界間データ連携/データスペースの取り組みを国内外で主導。
かんの・みき◎NTTデータグループ 技術革新統括本部 Innovation技術部 IOWN推進室 課長。公共系大規模案件のシステム開発経験を経て、並列分散処理OSSを中心にデータ処理基盤案件の技術支援を行ってきた。現在は、企業間データ連携に関する研究開発とデータ連携の社会実装に向けたイノベーションをリード。
よこぜき・だいごろう◎NTT社会情報研究所 社会情報流通研究プロジェクト プロジェクトマネージャ 主席研究員。仮想化基盤、大規模分散処理基盤をはじめとするオープンソースを用いたクラウド基盤の立ち上げに従事。現在は、耐量子計算機暗号、分散AI学習、デジタルウォレットなど、暗号技術を応用したデータ流通技術の研究開発を主導。