変わり続ける人材業界では、転職エージェントも日々増加しているが、依然としてレガシーな構造の企業が多い。現在の状態ではその先の業界の未来は見えないと危惧しているのが、ハイクラスDX人材の転職支援に特化したAESPER(アエスパー)の取締役COOを務める上坂勇志だ。
転職エージェントはもっと高品質で業界全体を底上げする存在になり得るはずだと上坂は強調する。
ではアエスパーはどのように業界に危惧感を抱き、そのソリューションとなる独自の社内システム、そして人材育成体制を構築しているのだろうか。
医薬品の営業から人生を輝かせるキャリア支援へ
アエスパーは、DX/IT領域の上流工程に関わるハイクラス人材の転職支援に特化したエージェントである。まだ空白の市場とされるこの領域で、2022年の創業以来、大手エージェントが扱いきれないハイクラス層の転職をコンスタントに実現し、存在価値を高めている。
取締役COOの上坂勇志(以下、上坂)は、「すべての人にはその才能を最も輝かせる場所があります。日本企業のDXが進まないのは、情報が非対称なまま、適材適所の人材配置ができていないからです。私たちはこのギャップを早急に埋め、高いポテンシャルをもつ人材を適切な企業へ導きたいと考えています」と話す。
そんな上坂は、大学で生命科学を専攻し、新卒で総合化学メーカーに入社して医薬品営業を担当してきた。そこで、「大企業の恵まれた環境であっても、メンタルを崩したり離職したりする社員がいる」という現実を目の当たりにしたことで、人のキャリアをサポートする仕事に関心を抱く。もともと「人の健康や人生に貢献したい」という思いがあった上坂。行動は早かった。老舗コンサル業界特化エージェントに転職すると、再現性の高い営業スキルを駆使し、直近2年間で100名以上の転職支援を成功させ、トップエージェントへと成長。その過程で、アエスパーのCEOである藤巻茜との出会いを果たした。
「藤巻はコンサルティング会社の出身で、人材紹介でもハイクラスIT人材をメインに支援をしてきた人物。『人とテクノロジーの力で日本企業のDXを推進する』というビジョンをもち、『DX/IT領域のハイクラス人材紹介』を本格的に組織化しようとしていました。生成AIが台頭しはじめるなかで、私自身、テック領域のハイクラス人材が担う役割の重要性を感じていたこともあり、これまで培ったノウハウを生かしたいと考えてジョインを決意しました」
ちょうどAIによるマッチングが進みつつあり、転職エージェントの質が問われ始めたころだ。「レイヤーが高いほど、AI任せにできない部分が残ります。そこに介在する意義は大きいと確信しました」と上坂は振り返る。

トッププレーヤーとして成果を出すためのポイントとは
そもそもなぜ、短期間でトッププレーヤーになれたのか。「大前提として、求職者に寄り添うこと。そのうえで要因は大きく2つある」と上坂は言う。
まずひとつは、企業情報の徹底的なインプットである。多くのエージェントが企業HPや求人票で得た情報提示にとどまるのに対し、上坂は経営者や人事責任者などの決裁者レイヤーに直接ヒアリングを行い、「創業ストーリー」「組織構成」「事業の強みと業績」など、求職者が本質的に知りたい内容を徹底的に収集する。エージェント向けの説明会やクライアントミーティングにも積極的に参加し、他社がもたないデータを武器に圧倒的な信頼を勝ち取ってきた。
もうひとつは、「営業を科学する」という視点だ。ファクトである定量情報をもとに仮説検証を繰り返しながら効果と課題を分析し、PDCAサイクルを高速で回す。このアプローチは「本当に伝えるべきことや、実現したいことの可否を明確にし、成果を再現性高く生み出す」ために欠かせないという。
「要は、圧倒的な行動力で企業の情報を蓄え、その人に合う企業を的確に紹介する能力が必要になるのですが、ハイクラス人材と対峙するにはエージェント自身も高度な実力が求められます。そこで弊社では、私のナレッジやノウハウを基にブレインチームが情報プラットフォームを構築し、すべてのキャリアアドバイザーが入社初日から高付加価値なすべての企業情報にアクセスできる仕組みを整え、サービス品質の標準化を図っています」
技術を広め、文化として定着させるために必要なのが標準化、「型」をつくることだ。アエスパーの取り組みには、ヴィジョン実現に向けプロフェッショナル集団を形成するという強い意志がうかがえる。
「企業情報の一元管理」と「人材育成」が強み
アエスパーが組織としての強みを発揮する基盤には、詳細に練られた独自のシステムが存在する。逆に言えば、これらは転職エージェントの90%以上が実践していない手法と言えるのかもしれない。
「例えば、大手エージェントの多くは『量』を優先しがちで、新人が作成した低品質なスカウトメールが低い返信率のまま流通していたり、営業から営業、エンジニアからエンジニアなど横スライド型の転職が主体となっていたり、AIマッチングに頼る部分も多くなっていたりします。システム化により労働力の流動性を生み出すのは素晴らしいことですが、同時に質も高めなければ、業界の未来は先細りする。業界を良くするには、先陣を切って“高品質なエージェントのモデル”を示し、業界全体をアップデートしていく必要がある、と私たちは考えています」
まず、先述した「情報プラットフォーム」だが、多くの工程を経て蓄積された企業ごとの主要情報をプラットフォーム上で一元管理し、独自のスカウト手法やメッセージテンプレート、クライアントミーティング記録などすべての企業情報をオンラインで共有。新人でも入社初日から高度な提案を可能にしている。
また、人材育成を念頭に、マネジメント専任体制(MD制度)を採用しているのも大きな特徴だ。多くの中小エージェントは専任のマネージャーは存在せず、プレイングマネージャーが自身の営業活動と並行して人材育成を行っている。プレイングマネージャーは営業数字が給与に紐ついていることも多く、結果的に自身の営業活動を優先し、人材育成がおろそかになりがちだが、アエスパーではマネジメントにフルコミットする専任MD(Managing Director)を配置してキャリアアドバイザーをフルサポート。「KPI管理」や「クライアント交渉への同席」「ロープレや面談への帯同」などを通して新人を早期に立ち上げる。
その結果、アエスパーではすべての新人が入社初月から20名以上の求職者と面談が組める体制が実現。スカウトメッセージの平均開封率30%〜50%、返信率3%〜7%を達成し、業界未経験者でも半年で2,500万円規模の売上粗利をつくる事例も出始めているという。
「人×テクノロジー」を軸にDX推進を加速させる
人との出会いを機に、自らが「天職」という宝物と出会った上坂。その表情が躍動感に満ちているのは、新たなチャレンジによって切り拓く未来を見据えているからなのだろう。
「祖業である人材紹介で盤石なプラットフォームを築き、将来的には『人×テクノロジー』を軸に日本企業のDXに貢献できる事業を多角化することで、転職エージェントという枠を超えたDX推進の総合商社になることを目指しています。その実現に向け、まずは『DX/IT×ハイクラス人材の転職ならAESPER』というブランドをしっかり確立したいと考えています」
あるべき姿を思い描きながら仕事をするワクワク感は社員も同じ。そして、「この想いを私たちと共有し、一緒に未来へチャレンジする新たな仲間を求めています」と上坂は力を込める。
アエスパーが求める人材とは? 上坂は「主体性・好奇心が大事」と即答する。
「社内プラットフォームの情報を積極的に活用し、自らインプットを継続できれば、たとえDX/ITへの知見が浅くても短期間で活躍できるでしょう。さらに面談数・応募数・内定率などの定量情報であるファクトを起点にPDCAを回すロジカルシンキングスキルと、ハイクラスの候補者や経営幹部にも誠意をもって毅然と向き合えるコミュニケーション力があれば鬼に金棒です。ハイクラスの人材を相手に実績を積むことで、自身の市場価値も高まり、事業が多角化するタイミングで新規事業やマネジメントに挑戦できる可能性も広がります。MDが寄り添って伴走しますので、未経験でも安心して飛び込んできてほしいですね」
自分自身を成長させるとともに業界全体をアップデートし、社会のDXを加速させていく。その扉を開く役割を、アエスパーという真のプロフェッショナルが担っていく。
うえさか・ゆうし◎学習院大学で分子生物学を専攻。新卒で旭化成入社。その後老舗コンサル業界特化エージェントに参画、入社4年でパートナーへ昇進。1,200名以上の転職相談、直近2年間で100名以上の転職支援を実現しトップエージェントとして活躍。チーム立上げにも貢献し同社最大チームの責任者として3年連続で前年比120%以上の売上成長を実現。その後、生成AIなどが台頭するなかでTech人材のキャリア形成の重要性を感じ、時代をリードする先進的なエージェンシーを実現させるためアエスパーに参画。