地域経済の発展に貢献し、地方の税収格差を是正するために設立された「ふるさと納税」。全国受入寄付額が1兆円を超え(2023年度)、国民の5人に1人が活用する制度へと成長した。ただ、税控除が受けられる制度の特性上、「お得」とセットで語られることが多く、その価値が見えにくい面もある。同制度の重要な視点の一つに、モノだけが重要なのではなく、その背後にいるヒトを想像することがある。地域を支えるヒトの存在が、モノの価値を生んでいるからだ。
ふるさと納税の“EC化”が進むなかで、ヒトにフォーカスする象徴的な存在がある。ポータルサイトの先駆け「ふるさとチョイス」が14年から開催する「ふるさとチョイスAWARD」だ。自治体職員や事業者を称賛し、その情熱を広める役割を果たす取り組みとは──。
「寄付者は地域と絆を深められているか」のジレンマ
ふるさと納税が進化し続ける中で、その「本来の目的」に反する現象も起きている。過去には、換金性が高い返礼品や、他地域の特産品、返礼率10割以上の割高な返礼品を提供することで、一部自治体に寄付が集中し問題になった。また、25年10月からは、ふるさと納税のルール変更が決まっている。ポータルサイトの寄付に伴うポイント付与が禁止になるのだ。寄付者を獲得したいポータルサイトによるポイント還元が過熱したため、今回の対応となった。
「近年、ふるさと納税のEC化がますます進んでいます。『何をもらうか』に、焦点がより当たる状況です。当社・トラストバンクが運営するような独立系ではなく、誰もが知る大手ECプラットフォーム企業が参画したことで、制度の利用者が急増しました。ただ、『どこに寄付するか』ではなく『何をもらうか』という視点での選択が増えてしまうと、まさに返礼品競争を激化させることになります。EC化で便利になった一方で、寄付者と地域の絆が薄まることを望んでいません。
返礼品の選びやすさなどサイトとしての機能強化は重要で否定はしません。そんな中で、我々は、自治体に寄付を届けるという責任を持ちながらも、ただの“ECサイト”にならないよう、もがいている状況です。ふるさと納税の本来の目的である『地域創生』『地域貢献』の価値をどう感じられるか、ジレンマを感じながらも模索しています」(トラストバンク執行役員・宗形深。以下、宗形)

返礼品の背後にある物語や機微を感じられるか?
返礼品として提供される特産品は確かに魅力的である。しかし、その背景には地域で働くヒトがいることを忘れてはいけない。創設当初から「ふるさとチョイス」では、モノの先にいる“彼ら”にこだわってきたという。彼らとは、事業者・生産者・職人らだ。彼らが情熱をもって作り出したモノで、地域のブランドが高まり、地域経済が強くなる。そして、自治体職員もまた、彼らを支援し、常に並走している。
こういった事業者・自治体職員の「努力や挑戦を可視化する」という目的ではじまったのが、今年3月で11回目の開催となった「ふるさとチョイスAWARD」である。地域のブランド化に本気で取り組む事業者・自治体に徹底的に伴走するという「ふるさとチョイス」の意思の表れの一つだ。

「AWARDでは多くの参加者の声を聞くことができます。壇上に立って『主役は自分ではなく生産者だ』と取り組みについてプレゼンする事業者は、表舞台に立つ自分の背景には多くのヒトがいることを教えてくれます。
また、『大好きな町のヒトのために頑張りたい』と、時折声を詰まらせてプレゼンしてくれたのは、陶磁器の名産地・長崎県波佐見町の事業者である永田亜理沙さん。寄付者をファン化するため、返礼品に加えて町への“招待状”を送っているとのこと。招待状を持参することで、波佐見焼の工場見学などが楽しめるんです。職人と寄付者を繋ぎ、『寄付してくれてありがとう』と、直接、ヒト同士が会話できる機会を創出しています」(宗形)

AWARDでは、地域の人たちがどのように課題に向き合い、どれだけ創造的に変革を遂げているかを評価する。これにより、寄付者が地域の変化を知り、「モノ」ではなく「ヒト」への応援が感じられ、返礼品の背後にある物語・機微に触れることができるのだ。ふるさと納税の真の価値を広めることに寄与していると言えるだろう。地域のヒトに光を当てる。寄付者と地域の絆を深めるため、「ふるさとチョイス」が貫いている姿勢である。
「物語を感じられる返礼品をチョイス限定で提供し、寄付者には地域が紡ぐ伝統・文化・新たな価値を体験いただきたい」とも、宗形は語る。
「投資としてのふるさと納税」という視点
このようなデータがある。富裕層(3000万ドル以上の資産)が最も多い国はアメリカで、2位は日本(ゲイツ財団)。しかし、両国では寄付の文化に違いがある。アメリカではビジネスでの成功の後、寄付を通じて社会課題に取り組む文化が醸成されている。日本の寄付文化はこれからだ。しかしながら、この国の“投資”についての感度は向上している印象だ。
宗形から、“投資視点でのふるさと納税”を考えてみては、という提言があった。
「寄付時に『子供の未来のため』『第一次産業の事業支援』など、地域でどのように活用するかを決めることもできます。自分が消費するものではなく、未来に向けて投資するんです。地域の発展に投資することで得られる幸福は、決して少なくありません」(宗形)
地域特産品が単なる消費財としての側面だけでなく、その背後にある文化、技術、そして地域で暮らす人々の思いを理解し、“地域の未来”に投資するのだ。金銭的なリターンがあるものではないが、地域の社会課題を意識することで、“意思”をのせることができる。

「年間の寄付者の名前を記憶している自治体職員にお会いし、驚いたことがあります。都心の寄付者が思っている以上に、自治体は待ち望んでいるんですよね。
ふるさと納税は、地域で踏ん張る方々へのエール。『ヒトを支えるための投資』へ進化・深化できることを、『ふるさとチョイス』を通して実現していきます」(宗形)
トラストバンク
https://www.furusato-tax.jp/