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「蛇口からミネラル in ウォーター」の衝撃
LIXILとサントリーが水道水の常識を変える
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水道水が「おいしい飲み物」になったら、どれだけ暮らしが豊かに、楽になるだろう。そんなことを考えたことはないだろうか。料理に使う水も、日々の飲料水も、蛇口をひねるだけで出てくればいいのに──。
そんな「夢」を叶えたのが、LIXILとサントリーが共同開発した「Greentap」というサービスだ。Greentapの開発プロジェクトを主導したLIXILの大西直和とサントリーの横尾芳明の言葉から、それぞれの企業が抱えていた社会課題への意識や、開発からリリースまでの物語を辿っていく。
新たなニーズに応えるための
Greentap開発プロジェクト

「昨今、安全な飲料水への関心が高まり、都市部での浄水の普及率は40%を超えています。それに伴いウォーターサーバーや浄水ポットを使う家庭も増加傾向にある。しかし私たち水栓メーカーとしては、どの家庭にもある“水道水”を“おいしくする”ことこそが、ユーザーの生活にとって最も使い勝手がいいと考えたんです」
そう語るのは、Greentap開発プロジェクトにおいて浄水・冷水機器開発のリーダーを務めたLIXIL水栓開発部部長の大西直和。(以下、大西)「蛇口からミネラル in ウォーターを出す」という、前代未聞の挑戦を成し遂げてみせた立役者である。LIXILは以前から安全性を高めた浄水の提供に取り組んできた。その技術によって不純物を取り除いた浄水に、ヤシ殻から採れる自然由来の植物ミネラルエキスをプラスしたのがGreentapだ。そして、おいしい“味わい”に関わるミネラルエキスの開発を担ったのが、サントリーの研究開発リーダー、横尾芳明である。(以下、横尾)
「サントリーは清涼飲料水を国内外で販売する中で、経営課題として世界のプラスチック問題にどう対応するかを考えていました。清涼飲料の容器の多くを占めるペットボトルは、プラスチックの一種だからです。もちろん、日本の清涼飲料業界は、優れた回収システムや極めて高いリサイクル率で、世界でもトップレベルのサステナブルなサーキュラーエコノミーを構築していますし、消費者に対してもペットボトル飲料には高い需要があります。それは今後も変わらないながら、『家庭でおいしい飲料水を飲みたい』『買い置きせずにスマートでエシカルな生活を送りたい』といった、新たなニーズに応えられるサービスを開発したいと思っていました」(横尾)

浄水機能を超える「おいしさ」への挑戦

LIXIL Water technology Japan水栓事業部水栓開発部長
大西 直和
浄水栓分野ではトップランナーであるLIXILにとっても、自社でできる領域を超えて、さらなるプラスの価値を追い求めることを目指していた。
「浄水栓の浄水フィルターで水道水の不純物を取り除く役割から、もっと水の可能性を追究するために何かを添加、あるいは冷やしたり温めたりといった付加価値を与える必要があると考えていたんです。それが、豊かで快適な暮らしを実現する当社のミッションでもあります。そこで思いを通じ合わせられたのが、サントリーさんだった。『水と生きる』というコーポレートメッセージからも感じられる水へのこだわりや企業の姿勢に共感し合えたことが、タッグを組ませていただく決め手でした」(大西)
サントリーが植物ミネラルエキスの開発をスタートしたのは2018年。長年培ってきた美味開発技術のもと、プロジェクト開始から約3年で植物ミネラルエキスを開発することに成功した。開発の初期段階から『自然素材原料100%で、まろやかなおいしさを感じる水』をゴールに複数種類の自然素材を探索し、“ヤシ殻活性炭”という最適な素材にたどり着き、カリウムがリッチで弱アルカリ性のサントリー独自のミネラルエキスを開発したという。

「その後、自社での浄水機能付き水栓を開発することも検討しましたが、機材開発のハードルの高さを痛感しました。その過程で、高い浄水技術を実現しているLIXILさんに出会うことができた。浄水サービスに取り組む企業は多いですが、LIXILさんは不純物を取り除くだけでなく、さらなる可能性を追い求めていました。0から1への可能性を見据えているところにピタッと想いが合致したんです」(横尾)
サントリーのおいしさへの追究を、
LIXILが技術力で最大化する

サントリー食品インターナショナル(株)生産・SCM本部 品質保証部Deputy Senior general Manager
横尾 芳明
LIXILとサントリーが同じビジョンを共有して走り出したのが2021年。両者にとって前例のない取り組みであったため、ひとつの壁を越えるとまた新たな壁が現れるという、課題解決の連続だったという。なかでも高い障壁だったのが、Greentapの革新的なポイントである「ミネラルを添加する機構部」の開発だ。ミネラルは濃度が高いため、添加する量はスポイトでグラスに一滴垂らす程度のほんのわずかな量。数字にすると約1200倍の希釈を実現するための機構が必要だった。
「この希釈濃度だと、少し配合比率が変わるだけでも影響が大きいんです。そして、地域や家庭の水道管によって水圧が異なることも大きな課題でした。濃度の測定方法などサントリーさんが培ってきた知識も参考にさせていただきながら試行錯誤を積み重ねていく日々でしたね。最終的には、精密なポンプ制御と流量測定によるミネラル濃度制御技術を開発しました」(大西)
Greentapの「おいしさ」へのもうひとつのこだわりは、二重管ホースを用いていることだ。ホースがドーナツ状になっており、外側は普通の水道水が流れ、内側はミネラル in ウォーターが流れる仕組みになっている。
「技術的には1つの通り道で水道水とミネラル in ウォーターを出し分けるほうが簡単でしたが、常においしい水を適温で提供するという目標のためには、最後まで通路を分けることが最適だと考えました。
加えて、人が飲料を最もおいしく感じられる温度(約10℃)を冷水装置によって実現しています。サントリーさんによるおいしさへの追究を、技術力で最大化する。それは難しいことも多かったですが、何ひとつとして諦めることなく、ベストな機構をつくり上げられたと確信しています」(大西)
コロナ禍での開発事業だったため2社間のコミュニケーションはオンライン通話で行われることも多かったが、チーム全員がアントレプレナーシップの精神を持って押し寄せる難題に自発的に取り組む姿があったという。そうした開発者たちの努力の結晶の末に、人々の「おいしい」と「うれしい」に寄り添うサービスが誕生した。
水の需要は世界共通――
将来的な海外展開へ向けて
生活水が変わることで、消費者にはどのようなポジティブな効果があるのだろう。サントリーで長年、飲料水の開発に取り組んできた“技術・水のエキスパート”である横尾は「Greentapのミネラル in ウォーターを使えば、料理ももっとおいしくなります」と熱を持って語る。
「このまろやかな味わいの水は、料理をつくってみれば、その違いを実感できるはずです。例えば、味噌汁。味噌には酸性である酢酸等が含まれますが、弱アルカリ性のミネラル in ウォーターで味噌汁をつくれば、pHが酸性から中性方向にシフトして酸っぱい成分がイオンとなって揮発が抑えられ、大豆の風味が立つんです。こうした植物ミネラルエキスの料理や健康の機能については、現在さらに国内外の機関と研究を進めています」(横尾)
ここまで開発に至るストーリーを辿ってきたが、Greentapが真価を発揮するのは多くの生活者に届いてからだ。おいしい水を人々に届け、生活を豊かにするというLIXILとサントリーの試みがどう受け入れられるのか、期待が膨らむ。最後に、両者が見据える今後の展開について尋ねた。

「蛇口からミネラル in ウォーターが出てくる喜び、環境やさまざまなコストに配慮したスマートな生活につながる商品であることをアピールし、理解を深めていきたいです。Greentapが普及すれば、水の質や温度を変えるといった展開の可能性が考えられます。水を通して人々の豊かな暮らしと持続可能な社会を実現するというミッションに向けて、まだまだ挑戦し続けていきたいですね」(大西)
「インド出身のサントリーの経営層の社員が来たときにGreentapの話をしたら、『水には相当うるさいから飲ませて』と言われたんです。そしたら『こんなにおいしい水があるのか』と驚いていて。アジアにもぜひ展開してほしいと言ってもらえた。水というのは世界共通で、需要はあるわけですよね。まずは日本でしっかり広めていきたいですが、ゆくゆくは世界も見据えていきたい。水栓器具やトイレなど海外展開にも強みがあるLIXILさんとならば、日本から世界への道筋も見えてくると思っています」(横尾)
おおにし・なおかず◎
LIXIL Water technology Japan 水栓事業部 水栓開発部長。2005年にINAX(当時)に入社し、トイレの洗浄機器の開発に10年携わり、その後現在の部署である水栓開発に異動し、トータル20年以上の水回りの開発に従事。2020年より水栓開発部長。
よこお・よしあき◎
サントリー食品インターナショナル(株)生産・SCM本部 品質保証部 Deputy Senior general Manager。1990年に東京理科大学大学院を修了しサントリーに入社。医薬・健康食品・酒類・飲料の技術開発、薬学博士号取得、スペイン・研究所の技術開発マネジャー、食J商品開発部 部長、R&D部 部長を歴任。世界に特許約500件出願。2023年より現職。
Greentap
Promoted by LIXILtext by Kohei Haraphotographs by Yoshinobu Bitoedited by Mao Takeda