誕生の経緯や込められた思い、今後の展開について、エポスカード フィンテック事業推進部 稲垣美穂と、ヘラルボニー アカウント事業部の嵯峨山恵美が語った。
社会課題を「軽やかに」乗り越えていきたい
── 丸井グループでは、2021年より「ヘラルボニーカード」を発行しています。どのような経緯で誕生したか、教えてください。稲垣美穂(以下、稲垣):丸井グループとヘラルボニーとの出会いは、2021年にさかのぼります。当社が企画した起業家向けピッチイベントで、ヘラルボニーから「ヘラルボニーカード」の提案があったんです。
ビジネスモデルのすばらしさやアートの美しさが際立っていたこの提案は、優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞。その直後に社内でプロジェクトチームが立ち上がり、ピッチイベントからわずか半年でサービスをローンチすることができました。
── ヘラルボニーカードの特徴や、込められた思いについてもお聞かせください。
通常、エポスカードはご利用額の0.5%をポイントとしてお客さまに還元しますが、ヘラルボニーカードはアート作品を描いた作家や福祉施設の運営にそのうちの0.1%を還元するため、お客さまへの還元率は0.4%になります。金銭的なメリットが下がっても、社会を前進させることに共感された多くのお客さまにご入会いただいております。
ヘラルボニーカードは、丸井グループが掲げるビジョン「インパクトと利益の二項対立を乗り越える」に合致するものです。作家の個性がプロダクトとなり、カードを利用することで利益が生まれる。これはまさに、社会的インパクトと利益創出の二項対立を乗り越えるものだと思います。
嵯峨山恵美(以下、嵯峨山):ヘラルボニーとしても、福祉という概念を超え、多くの人が社会課題に「軽やかに」参画できる仕組みを作れたのは、大きな意味があります。丸井グループの強いコミットメントのおかげです。
また、作家へ報酬を継続してお渡しできるビジネスモデルを実現したのは、ヘラルボニーカードが初めてでした。障害のある作家は仕事としてアートを作っていなかった方が多く、報酬が発生しても一過性であるケースが大半だったんです。継続報酬があり、多くの人の目に触れる形で作品を世に出せることは、作家のキャリア形成の面でもありがたいことです。
「HERALBONY Art Prize」を通して見えた理想の社会
──丸井グループがゴールドスポンサーとして参画した「HERALBONY Art Prize 2024」の概要と、立ち上げのきっかけを教えてください。嵯峨山:「HERALBONY Art Prize」は、世界中の障害のある作家を対象とした国際アートアワードです。日本国内のみならず海外からも応募可能で、2024年に開かれた第一回は、28の国と地域から約2,000点の作品の応募がありました。
データによる一次審査の後、審査員による二次審査によって、グランプリおよび各賞受賞作家を決定し、東京・丸の内の会場で最終審査進出作品の展示も行いました。アワード立ち上げのきっかけは、ヘラルボニー代表の松田が、海外で障害のある作家のアートを広めている方から「ギャラリー展示などの活動をしても、ビジネスにつながらない」という話を聞いたことでした。その会話によって、企業との共創はヘラルボニーの強みであり、その強みを生かして世界中の作家と協業したいと考えたのです。
稲垣:これまでもヘラルボニーカードを通じて日本全国の作家を応援してきましたが、「HERALBONY Art Prize」は世界中から作品を募集すると聞き、私たちとしても世界の作家を応援できることは嬉しいと思ったんです。それに、これまで共創してきたヘラルボニーのチャレンジを応援したいという純粋な気持ちもありました。
── 「HERALBONY Art Prize 2024」を終え、印象に残ったことはありましたか。
嵯峨山:受賞作家と協賛企業などが参加した授賞式の光景です。協賛企業の皆さまが作家とお会いする貴重な機会になりましたし、いわゆる「普通の」厳かな授賞式とは異なる場を初めて経験いただいたのではないかと思います。例えば、協賛企業や当社の代表スピーチの最中も、何人もの作家が走り回ったり、話をしていたり。
この授賞式は、障害のある人もない人もみんなが一緒に楽しめるという、私たちが作りたい社会を凝縮したような空間でした。
全社員で決めたエポスカードの新デザイン


── 「HERALBONY Art Prize 2024」応募作品から「ブルーマーブル」が丸井グループ賞に選ばれ、ヘラルボニーカードの券面に採用されました。
稲垣:「ブルーマーブル」は、丸井グループの全社員にアンケートを取り、投票数が最も多かった作品です。当社はプロジェクトへの参画などあらゆる事柄を手挙げ制にし、社員の自主性を大切にする風土があります。今回の丸井グループ賞も全社員の意見を集めて決めよう、と自然に決まりました。
社員からは、「ブルーの色合いの美しさに惹かれた」という声をはじめ、当社が注力しているサステナビリティや多様性の観点から「美しい地球のようだから」「さまざまな青色が混ざり合う様子が、人の個性に通じると思った」という意見も寄せられました。
この券面デザインは、ヘラルボニーが制定した「異彩の日」である1月31 日に発表し、発行を開始しました。嵯峨山さんをはじめ、ヘラルボニーの皆さんが海外に住む作家との交渉などを急ピッチで滞りなく進めてくれたことに本当に感謝しています。
嵯峨山:当社は異彩の日を大切にしていますが、丸井グループにとっては通常の1日であるはず。にもかかわらず、この日にローンチする決断をしてくださったことを嬉しく思います。
今回に限らず、丸井グループの皆さんは、ヘラルボニーとの共創において作家を第一に思ってくださるんです。その一例として、カード券面でアートが美しく見えるよう、表面に「エポス」の文字を出していません。丸井グループの理念の通り、社会的インパクトと利益の両立を目指す努力を常にしていただいていることがありがたいです。
誰もがもつ「異彩」を認め合う世の中に
──最後に、ヘラルボニーカードを今後どのように普及させていきたいか、展望を教えてください。稲垣:ヘラルボニーカードを通じて、個性を応援する輪を全国に広げていきたいです。そのために、このカードにご入会いただくお客さまとの接点を増やしたいと考えています。現在は丸井店舗もしくはWebサイトからのご入会が中心ですが、全国の福祉施設や作家のゆかりの地を発行拠点にするなど、個性を応援する輪をもっと広げていきたいですね。
嵯峨山:ヘラルボニーカードを持っていることが「かっこいい」と思えるような価値観を広げ、障害のある人のアート活動に共感する「旗印」になることを目指したいです。旗印のもとに人が集まってコミュニティになり、公共経済圏になっていくことを望んでいます。
当社のミッションにある「異彩」は、障害のある方のみならず誰もが持つものです。今後も丸井グループとの共創によって、お互いの違いを認め合い、誰もがありのままで素敵だと思える社会を作っていきたいと思います。
ヘラルボニーカード
https://www.eposcard.co.jp/designcard/heralbony/index.html