今年1月、富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)が展開するパソコン(PC)ブランド「FMV」は大規模なブランドリニューアルを行った。合わせて、AIに特化したNPU搭載の『Note U』を発売するなど、仕事もプライベートも両立できるPCを展開している。ブランドリニューアルから製品設計の意図まで、新生「FMV」に込めた想いをFCCLマーケティング本部本部長の藤田博之に聞いた。
「これまでFMVブランドは、"誰でも安心安全に使える"といった守りのイメージが強かったように思います。一方、コロナ禍を経て、テレワークが一般的になったことで、全国どこにいてもパソコン1台あれば働けるという社会的認識が広まっていきました。オフィス環境が変化し、BYOD(Bring Your Own Device)も浸透しつつあります。こうした社会背景においてはFMVブランドのPCはエグゼクティブやビジネスパーソンにとって、ますます頼れる道具となっていくはずです。一流の匠によるプロダクトとして認めていただけるように今まで以上にお客様基点でリニューアルを進めました」
今年1月に実施したPCブランド「FMV」のリニューアルの狙いを、藤田は次のように説明する。
「93年にFMVはデスクトップPCを発売し、FMVブランドは32年が経過しました。時代と共にPCに求められるものは変化していきました。そうした時代の要望に即して、私たちの側からもお客様に新しい価値を届けていきたい。その想いから今回のブランドリニューアルを決定し、『シンプルでわかりやすい』『現代の価値観に合う』『日本の暮らしを応援する』という3つのコンセプトを打ち立てました。
これまではさまざまなサポートや情報、数多くのアプリなどを提供することがFMVの強みでもありましたが、近年はモノや情報が溢れていて、効率化を求める声が大きくなっています。そうした声を反映して『シンプルでわかりやすい』という価値観を重視しました。
また、『現代の価値観に合う』とは、ただ今の価値観に合わせるだけというわけではありません。どんどんと移り変わっていく価値観に対して、その都度アジャストしていくという意味なのです。私たちが30年以上培ってきた知見を大事にしながらも、新しいことへのチャレンジを続けていきます。
FMVブランドは日本の国内市場にフォーカスした製品をつくっています。日本特有の需要であってもつくれる機能もあるはずで、それはグローバルベンダーにはできないことです。日本人に限らず、"日本に暮らす人々"が快適になれるブランドを目指して、3つ目の『日本の暮らしを応援する』を掲げています」(藤田)
発表会当日に1g削減。軽量化やビジネスユースも考えたこだわり
ブランドのリニューアルと並行する形で、FMVはエグゼクティブやビジネスパーソンもターゲットに据えたプロダクトとして、これまで大々的に展開していた『UHシリーズ』に加え、今年1月に『Note U』をリリースした。冒頭の通り、オフィス回帰が叫ばれつつもテレワークやフリーアドレスは浸透し、モバイルノートPC1台で仕事をする状況は当たり前になった。
こうしたなか、特に日本ではPCに軽量化を求める傾向が根強い。FMVブランドは軽量化に並々ならぬこだわりをもち、UHシリーズの『FMV Zero』は世界最軽量(※14.0型ワイド液晶搭載ノートPCとして。2024年10月15日現在、FCCL調べ)となる約634gを実現。また、Microsoftが定義した最新のAl技術を搭載した「Copilot+ PC」である最新のモバイルノートPC『Note U』も約848gと超軽量を誇っている。
「FMVブランドのPCは島根県で一貫製造しており、軽量化や堅牢性、排熱性を踏まえたハードウェアの設計・開発を進めています。国内だからこそ、ギリギリまでモノづくりを突き詰めることができるのです。例えば軽量化で言えば、新作発表会の前日、ときには当日に1g軽くなることもあって、広報部門は毎回どきどきしています(笑)」(同)
もちろんビジネスにも配慮した設計は、重量面だけではない。『Note U』は、Thunderbolt™4対応のUSB Type-Cはもちろん、いまだ活用機会の多いUSB Type-AにHDMI、有線LANポートにmicro SDカードスロットといった主要なインターフェースを兼ね備え、1台で完結できるようになっている。バッテリーも最大約36時間(※アイドル時:約36時間、動画再生時:約15.5時間。JEITAバッテリ動作時間測定法Ver.3.0に基づいて測定した時間目安)の長時間駆動が可能だ。
さらに、堅牢性についてはアメリカ国防総省が制定するMIL規格に準拠した落下・振動・衝撃などの試験を実施。近年はPC収納機能付きのカバンが増えたことでケースに入れずにPC運搬が増えたこと、また自転車のカゴに入れて運ぶケースも想定したうえで、特殊な振動テストも行っているという。
また、藤田はFMVブランドのこだわりとして、キーボード設計を挙げる。FCCL(当時、富士通)は1980年から日本語ワープロ『OASYS』を販売し、当時からの技術を受け継いだ“キーボードマイスター”を擁している。この知見を最大限に生かし、変則サイズのキーを用いないフルサイズレイアウトを採用し、指にフィットしやすい形状で打ちやすい球面のシリンドリカルキートップを追求した。また、浅いキーストロークでも検知可能な仕組みによって、打鍵ミスを低減している。
ここからわかるのは、『Note U』がビジネスの実際的な現場での運用を見据えているということだ。ビジネスにおけるPC運用は、オフィス内の整った環境だけにとどまらない。出張先の現場や移動中の車内、オフィスでも参加者の溢れる会議でモバイルノートPCを膝の上で操作した経験がある人は少なくないはずだ。『Note U』や『UHシリーズ』は、そんな理想的な環境でなくても十二分なパフォーマンスを発揮できるよう設計されているのだ。
AIに特化した「NPU」搭載。自信をもって働くためのツールとして
近年はAI技術の進化に伴い、AI処理に特化したプロセッサコア「NPU」が急速に注目を集めている。Copilot+ PCである『Note U』もNPUを搭載している。AIの最適な運用は世界的に目下模索中だが、NPUを搭載することで“いつでもどこでもAIを使える状況”が実現した。藤田は「AIについてはみなが手探りの状況なので、まずは道具として提供しました」と話す。
それでも、AI機能は「AIノイズキャンセリング」をはじめ、オンライン会議で画面が切り替わった際に自動でキャプチャする「Quick Capture」、使用頻度の高い機能を瞬時に呼び出せる「Float Access」など、充実のラインナップだ。なかでも、AIメイクアップソフト「Umore(ユーモア)」は日本人の肌に合わせてキレイに見えるよう開発され、「これだけ口紅の色の選択肢があるのは日本だけかもしれない」と藤田は顔を綻ばせる。
「もちろんメイクアップ機能は女性だけでなく、シワやひげ、疲労を感じさせる顔色が気になる男性にも求められています。PC側でメイクアップソフトを準備することで、急きょ別のオンライン会議ツールへ変更になっても安心ですし、そういった細かい点が仕事の効率向上につながるはずです。
今、日本において女性が活躍できることは非常に大事だと思います。もしAI機能を生活に取り入れられれば、働き方も支えていけるはず。『Note U』や『UHシリーズ』は、一流の道具であることに加えて、男女ともに自信をもって仕事ができるといったコンセプトも、今後は打ち出していきたいです」(藤田)
プロダクトデザイナー出身の藤田は、設計開発やデザインの背景にある想いを強調する。最後に、FMVブランドが見据える未来像を語ってくれた。
「私はPCでも“生産者が見えるモノづくり”というのはあると思います。お客様基点で考えて、「FMV」という3文字の下で自信をもって提供していく。そして、お客様が手に取ったときに喜びを感じられるようなプロダクトにしていきたいと考えています。
世の中でさまざまなサービスやテクノロジーが盛り上がり進化を続けても、最終的に人間がそれを使いこなせるかは、道具やインターフェース次第です。私たちはお客様の使いやすさを求めて、これからも最後の接点となる1センチにまでこだわっていきたい。そして、日本のモノづくりは元気がなくなったという声を払拭できるようにPCの分野で貢献して、日本のモノづくりというプライドを維持していければと思っています」(藤田)
ふじた・ひろゆき◎富士通クライアントコンピューティングマーケティング本部本部長。1991年から富士通にて、デザインディレクターとして勤務。2018年に、富士通クライアントコンピューティングのチーフ・デザイン・プロデューサーに就任。24年より現職。
富士通クライアントコンピューティング
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