日本を代表するクイズプレイヤーの伊沢拓司さん。テレビやラジオなど多数のクイズ番組に出演する傍ら、自身が立ち上げたクイズWebメディア「QuizKnock」の運営、講演、執筆などまでその活動は多岐にわたっている。
常に頭をフル回転させている伊沢さんは、どのように思考を切り替え、集中力を維持しているのだろうか。
――伊沢さんは多方面でご活躍されていますが、どのようなスケジュールで過ごすことが多いですか?
日によって仕事の内容も場所も時間もバラバラです。今日は、朝7時半に起きて、9時にスタジオに入り、10時から19時半まで収録が計3本ありました。この取材のあとは、生放送の収録があるので、帰宅するのは24時過ぎ。今日は結構ハードですね。でも明日はゆるやかで、社内会議とテレビの収録が1本だけ。ちなみに、この週末は地方で講演を行う予定です。
――クイズを解くのも、コメントをするのも頭をフルに使いますよね。今日みたいな日はどっと疲れるのでは。
「あ、バテてきたな」と自分でわかる瞬間があるんですよ。今日で言えば、3本目の収録の残り30分あたり。そんなときは、自分でいったんスイッチを切る。ダラダラ頑張らないのが大事です。収録中も会議中も、集中力が途切れてきたら、“小休止”のタイミングをうまく探しています。
例えば、自分がカメラに映っていない数秒~数分の間にさっと水を飲んだり、一瞬力を抜いたり。講演会で少しだけ沈黙の時間をつくってみる、プレゼンでは「この話、どう思いますか?」と相手にコメントを委ねる。自分の中にそうした小休止のためのカードをいくつか持っておいて、カードを出し慣れておくこともポイントです。
“集中が途切れたら無理して頑張り続けない”は、実は高2の頃から変わらないんですよ。
――何がきっかけで、高2のときからそう考えるようになったのですか?
受験勉強です。特に演習問題を解くときや弱点に向き合うときは、20分くらい強度の高い集中で取り組み、少し休憩をすると次の問題でもアウトプットがいいことに気づきました。今だと、クイズを考えたり、文章を書いたりといったひらめき系の仕事の際にはこの“短期高集中”がすごく効果的です。
自分にフィットする作業の進め方は、学生時代から色々試して見つけてきました。ノウハウ本や人の意見を鵜呑みにすることはあまりないですね。もちろん、科学的根拠や理論を参考にはしますが、自分にベストなものは自分にしか見つけられないと考えているので。
――自分にフィットする作業の進め方を導き出すコツはありますか?
僕がよくやっているのは、良さそうと思ったやり方をまずは試してみる。その後、そのやり方をいったん疑う。ある程度成果が出たり、無理がなかったりしてそのやり方を信じられたら、しばらく続けてみるという方法ですね。チャレンジの中に、「疑う」というターンを挟むのがポイントです。
――一度振り返って冷静に判断するのですね。さきほど、“短期高集中”が効果的だとおっしゃっていましたが、その状態に持っていくためにしている習慣やルールはありますか?
僕、あえてルーティンやルールをつくらないようにしているんです。どんな環境下でも仕事をできるようにしておきたくて。ただひとつだけ、必ず持ち歩いているものがあります。それが、ガム。クイズを制作したり、講演会の内容を考えたり、執筆したりといったデスクワーク、それも集中して根詰めてやるときには必ず噛んでいますね。今もポケットに入っています。
――ガムを噛むことが集中のスイッチになっているのでしょうか。
そうなんです。でも意識的に噛むというより、集中したいときには無意識にガムに手が伸びている感じ。それこそ、受験勉強の時からいつもガムを噛んでいて、かれこれ13年くらいガムを噛み続けていますから。人生で一番口にしているのは、間違いなくガムだと思います。あ、でも水かも。
僕の場合、デスクワーク中に「噛み続けること」が良い刺激になって、集中力を持続させる、集中力を取り戻すのに繋がっていますね。コーヒーを淹れるときもありますが、立ち上がってカップを取り出して…とやっていると集中が途切れてしまうんです。その点、ガムは無意識に噛み続けられる。最初に口の中に2粒くらい入れて、しばらくしたら1粒追加して、また1粒追加して…というお決まりの食べ方で、これも無意識にそうなっていますね。程よい清涼感とちょっとした甘さがあって、口の中が乾かないし、スッキリする感じも好きなところです。
――仕事に欠かせないアイテムやツールは人それぞれですが、伊沢さんにとってはそれがガムなのですね。
デスクワーク以外では、ロケや収録の移動中や合間にも噛んでいます。「次の収録ではどんなことを喋ろうか」「次はどういうリアクションを求められているかな」など、考え事をしつつ、フラットな自分に戻したいときですね。テンションが上がりすぎている、調子が落ちている、混乱している…そんなときにもガムを噛むと落ち着ける気がしています。
ちなみに、フラットな自分を保つために5年ほど前から“振り返りレビュー”も行っています。仕事が終わったら、帰りに反省や気づきをすかさずスマホにメモするんです。そうしないとすぐに忘れてしまうし、自分の中に油断や傲慢さが生まれてくる気がしていて。
――華やかなご活躍の裏には、そうした謙虚な姿勢と地道な作業があるのですね。来年はクイズのウェブメディア「QuizKnock」を立ち上げて10周年。感じている手ごたえや今後の目標をお聞かせください。
この9年、良いペースで歩んでこられたと感じています。「QuizKnock」は大きくバズることはあまりないのですが、視聴数やPV数は少しずつ着実に伸びているので、これはもうファンの方のサポートのおかげですよ。
今後は、我々が目指している「楽しいから始まる学び」をもっと広めていきたいです。我々のコンテンツで、世の中に「学びなのにワクワクする!」という体験を届けていけるよう、ブランドの認知度を上げていければ、と。そのためにこの1年は新しいことにもどんどんチャレンジして、我々を知らない人のところにもリーチしていきたいですね。僕自身も、「クイズ王」というキャラクターは大事にしつつ、そこに依存しないビジネスモデルで勝負していきたいです。
それでは最後に、僕から読者の方へ謎解きの問題です。
伊沢拓司からの挑戦状:下のカナダとフランスの国旗が表すのは何でしょう?
答えはプロフィール下へ
いざわ・たくし◎クイズプレーヤー、起業家、タレント。1994年、埼玉県生まれ。暁星小学校、開成中学・高等学校、東京大学経済学部卒業。TBSのクイズ番組「東大王」で活躍。2016年に立ち上げたwebメディア『QuizKnock』で編集長を務め、2019年に株式会社QuizKnockを設立し、CEOに就任。ワタナベエンターテインメント所属。
※謎解きの答え:ガム。
カナダとフランスそれぞれを漢字で表すと「加」「仏」。グレーアウトされていない側の部首・つくりを抽出し、カナダの上にある濁点を追加すると「ガム」となる。