「CSV×DX」(シーエスブイ バイ ディーエックス)とは、代表取締役社長 新納(にいろ)啓介(写真。以下、新納)が、4カ年の中期経営計画を立てた際に掲げたコンセプト。Creating Shared Value(社会との共通価値の創造)とDXをかけ合わせ、顧客や地域社会とともに保険の枠を超えた価値を創造し、広げていくことを目指している。新納は、「CSV×DX」に込めた思いについて次のように話す。
「“まだ誰も知らない安心を、ともに。”をキャッチコピーに、データやデジタル技術の活用で社会課題を解決する保険を提供しています。我々は23年に保険料調整行為を原因として金融庁から業務改善命令を受けました。皆様に多大なるご心配とご迷惑をおかけしたことを深くおわび申し上げます。今後は一層『CSV×DX』の精神を実践し、より深い価値を提供できる企業へと成長していくことをお約束します」
「CSV×DX」を体現する代表商品のひとつにテレマティクス自動車保険がある。ドラレコやスマートフォンなどの端末から走行距離や運転挙動のデータを収集し、契約者に安全運転のアドバイスを提供。安全運転スコアが高い契約者には保険料の割引を行う。
「従来型の自動車保険に加入していた方がテレマティクス自動車保険に加入すると、事故の発生頻度が16%低減しました。万が一事故が発生した際も、双方に責任が発生する対物賠償保険事故での解決日数が約17日短縮されています。データと技術によって『事故を未然に防ぐ』『早期回復を支援する』という付加価値の実現は、まさに『CSV×DX』を具現化した商品といえます。お客様からも共感を得ており、24年11月に全世界の販売台数が287万台を突破しました」
同社は、同自動車保険が発売された18年から24年3月時点までに海外を含め地球約579万周に相当する走行データを蓄積。このビッグデータは、自動車の上下振動データから路面の損傷箇所を検知し、自治体の道路維持管理をサポートする「路面状況把握システム」、危険箇所の選定から要因分析、対策提案、対策後の効果検証をワンストップで提供する「交通安全EBPM支援サービス」などに活用されている。
福井県・福井県警察と共同で行った交通安全マップの作成では、県内ドライバー454人の運転挙動データと警察庁が公開している交通事故発生場所をかけ合わせ、事故の危険が予測される地点を特定。速度規制エリアが見直されるなど先手の交通安全対策が実施された。この取り組みはデジタルを活用した地域の課題解決として評価され、22年度「冬のDigi田甲子園」にて最高賞の内閣総理大臣賞を受賞した。また、安全運転スコアが高いほど車両の燃費がよいというデータをもとに、独自のアルゴリズムによって、安全運転によるCO2排出削減量と燃料節約量などをアプリ上で可視化している。
「走行データが増えるほど機能の網羅性と精度が高まり、提供できる安全もより広範で豊かなものになります。単なるDXではなく『CSV×DX』を実現すべく、お客様や協業パートナーとともにテレマティクスデータの可能性を広げ、社会的価値の高い取り組みを追求していきます」
英国AIベンチャーとの共創でインフラ課題にもアプローチ
あいおいニッセイ同和損保は、他社との共創にも力を入れている。特に老朽化が進むインフラや、近年企業による取り組みが加速する環境・生物多様性への課題に対するサービスの開発に向け、積極的に事業を展開している。22年11月、オックスフォード大学発のAIベンチャーのMind FoundryとAioi R&D Lab-Oxfordを設立。新納は「次世代テレマティクスサービスや自動運転社会を見据えた保険開発のほか、環境や防災などの領域でも研究を進めている」という。「23年11月から橋梁の写真や点検データをもとにAIで橋梁の損傷を検知し、数値化や健全性の判定を行う橋梁点検サポートツールを静岡県裾野市と共同開発しています。老朽化するインフラの点検・維持管理の効率化を図り、25年以降には他自治体へも展開する予定です」
加えて24年4月からは、ネイチャーポジティブに向けた企業の意思決定を支援する英国企業Natural Capital Researchとも連携。企業活動が環境や生物多様性に与える影響から被る事業リスクを定量化するアプリも開発中だ。
「本アプリでは、特定の地域や事業活動に関するデータを入力すると、予測モデルによりリスクの経済的価値を算出することができます。事前にリスクを可視化することは、持続可能な事業運営を図るための指針になると考えています。こうしたさまざまな研究から生まれる成果は、国内外の損保ビジネスを軸に全社横断プロジェクト『未来戦略創造プロジェクト』によってグローバルに展開し、未来に向けて実効性を高めていきます」
「CSV×DX」により生まれた新たな組織風土
AIなどによる最先端のデジタル技術を取り入れた同社の商品は、企業向けサービスにも生かされている。24年1月から本格展開した「DXソリューションパッケージ」は、14種類のリスクに対するソリューションと補償をセットで提供。例えば防災・減災を支援するソリューション。建物内配管の寿命をX線で確認し効率的な修繕計画に役立てる「X線配管老朽調査」、賃貸物件の入居者の異常を検知し不動産管理会社へアラートを発信する「モーションセンサー」など、先端技術を効果的に活用していく。
生成AIの利用普及を受けた商品もある。生成AI活用とリスク管理を提供する先進企業Archaicとともに国内初の「生成AI専用保険」を共同開発し、提供を開始。知的財産権の侵害や情報漏えいが発生した際の費用負担に備えるだけでなく、生成AI活用のためのガバナンス体制構築も支援する。
最新のニーズに応える商品を迅速に提供できる理由を、新納は「組織に生まれた新たな風土にある」と話す。
「『CSV×DX』を掲げたことで社員一人ひとりが自らの役割を超え、自発的にサービスのアイデアを考える風土ができました。この風土は若手社員を中心に日本から世界へ波及しています。例えば英国に駐在する社員は、Aioi R&D Lab-Oxfordで開発したAIを用いた自動車保険金の不正検知システムの技術やノウハウを他国で展開すべく、欧州・米国・アジアなどに駐在する社員と連携を取りながら、国をまたいだ新たなサービス開発に向けて日々議論を進めています。21年に米国のカリフォルニア州に設立した保険ソフトウェア開発事業を行うMOTER Technologiesでもテレマティクス技術の活用に向けた取り組みが加速しており、時代に沿った商品の迅速な提供につながっています。今後も社員一丸となって、皆様からご信頼いただける企業となるべく邁進していきます」
データとテクノロジーのかけ合わせにより、保険が提供する安心のかたちがどのように変わっていくのか。同社が描く未来に期待したい。
あいおいニッセイ同和損害保険
https://www.aioinissaydowa.co.jp
にいろ・けいすけ◎あいおいニッセイ同和損害保険 代表取締役社長。早稲田大学卒業後、88年大東京火災海上保険(現・同社)入社。海外駐在、経営企画部などを経て、2016年理事人事部長、18年執行役員(北陸担当)、20年取締役常務執行役員、22年4月より現職。