みずほ銀行が中堅・中小企業支援と地域創生に本腰を入れている。
リテール・事業法人部門共同部門長として中堅・中小企業の業務推進企画を統括する足立龍生と、地域創生デスクのデスク長として現場の地域創生活動の指揮を執る高済健太郎に、事業推進の経緯と仕組み、そして未来への展望を聞いた。
メガバンクとして中堅・中小企業支援に力を入れる理由とは
―― みずほ銀行ではメガバンクの立場で中堅・中小企業支援を推進されています。その背景としての中堅・中小企業が置かれた現状をどう捉えていますか。
足立龍生(以下、足立):日本の中堅・中小企業は、全企業数の約99.7%を占め、地域の雇用や産業の基盤を支えています。しかし、人口減少に伴う人手不足倒産件数は2024年上半期に過去最多にのぼりました。コスト増を吸収できないなか中小企業と価格交渉力を有する大企業の収益力の差は開いています。
また地政学的影響によりエネルギー価格が高騰し電気料金は3年前に比べ1.5倍に膨れていますが、中小企業の約3割はそうした地政学リスクに具体的な対策がとれていないというデータもあります(※1)。さらには脱炭素やデジタル化への対応、といったさまざまな課題が中堅・中小企業に重くのしかかり、経営環境は目まぐるしく変化しています。また、とくに地方の中小企業にとっては事業承継も深刻な問題になっており、後継者が見つからないために独自の技術をもつ企業が存続の危機に立たされている、といった事例も珍しくありません。
※1:出典元
2024年版中小企業白書 第1部第3章第10節 地政学リスク

――その状況下、みずほ銀行が中堅・中小企業支援に力を入れる理由を教えてください。
足立:ひと言で言うと、彼らの強力な「戦略パートナー」にならなければならないと考えています。
「戦略」は、その名の通り「戦いを略す」ための考え方だとすれば、大企業と比べてリソースに限界がある中堅・中小企業こそ、正しい戦略を立てることの重要性は高いとも言えるでしょう。想定していなかった“何か”が起こってからバタバタと「戦い」をしなくていいように、これから先の未来に起こるかもしれない事態を予見し、戦略を立てておくことが重要です。
少し厳しい言葉になりますが、現状維持は衰退を意味すると思っています。今のままでいい、というのは通用しない時代に入っていて、「将来こうなるかもしれない」「今のうちからこういうことを手立てしておいたほうがいい」ということを議論できる戦略パートナーでありたいです。
私たちは世界情勢や日本の産業構造の変化といった情報が日夜集まってくるメガバンクの立場から、企業が現在直面している課題や将来直面する可能性がある課題に対し、戦略に基づく「気づき」と「ソリューション」を提案し、企業の方々と共に議論を重ねながら成長していく、伴走型の支援を目指しています。
―― 支援内容について、もう少し具体的に教えてください。
足立:まず中堅・中小企業の経営環境を「予測」し、準備を整えることから始めます。例えば、2050年のカーボンニュートラル達成に向け、新たな基準によるサステナビリティ開示がプライム上場の時価総額の大きい企業から順に求められますが、取引先の中堅・中小企業へも当然影響が出てきます。これに対応するため、脱炭素に向けた最新の事例やノウハウを共有し、段階的な削減計画を立てる支援を行います。
私の夢は、難しいことは承知ですけれど、日本の企業から赤字企業をなくすことです。私たちは企業の再生支援にも力を入れていますが、地域企業の業績が良くなれば、自治体も財政が潤い、従業員の賃金が上がって地域で消費が生まれ、経済の循環が起こります。そのポイントとして、僕は中小企業ほど合従連衡していくこともひとつだと思っています。
例えば、同じような悩みを抱えるA県とB県とC県の建設会社が県またぎで連合を組むことができれば、職人さんを融通し合えたり、人事部などコーポレート部門の統合による効率化を図れたりするようになるでしょう。
このように、事前に多くのシナリオを想定し、「こうなったらこのボタン」「こうなったらあのボタン」と、「フォワードルック」の姿勢でお客さまに備えを提案することで、お客さまの信頼を得たうえで、適切な判断が下せるように支援していきます。
――その伴走型支援を通じ、みずほ銀行が目指す姿とはどのようなものでしょうか?
足立:私たちの目指す姿は、「ともに挑む。ともに実る。」という〈みずほ〉のパーパス(企業の存在意義)に凝縮されています。このパーパスを実現するための行動軸のひとつとして、「Integrity―お客さまの立場で考え、誠心誠意行動する」というものがあります。お客さまから「ありがとう」と言葉をいただける銀行員であれ、と話しています。お客さまの10年先、20年先を見据えて、目指す姿や課題に寄り添う。もっというと、日本の社会課題を理解し、必ず来るであろうプラスの波もマイナスの波も予見しながら、お客さまと議論する。そうした行動を真摯に重ねた結果として、「相談して本当に良かった」と思っていただける存在でありたいと考えています。
そのためには、全社員が「お客さまの成長に本気で貢献する」という意識をもって動けるような体制に変えていく必要があります。仕組みが変われば意識が変わり、意識が変われば行動が変わり、行動が変われば結果が変わる。お客さまからの「ありがとう」を結果とするなら、まずは仕組みを変えなければなりません。数字を頑張って積み上げた人がリスペクトされるような、長きにわたって根付いてきた風土をほぐし、お客さまの成長に本気で貢献する姿勢を評価する仕組み、そしてそれをサポートする体制等、行員のモチベーション向上を促す仕組みの構築も含めて大きな枠組みとしての体制を整えるのが私の役割だと考えています。
47都道府県を網羅する拠点で伴走支援を強化
――23年3月に中堅・中小企業支援と地域創生を推進する重要な仕組みのひとつとして、本部の法人業務部に「地域創生デスク」を新設されました。
足立:はい、中堅・中小企業の成長と地域創生は循環すると考えています。
「東京への一極集中」は日本が抱える大きな社会課題のひとつであり、コロナ禍を契機としたリモートワークの浸透や、地方分権の推進といった話題はあるにせよ、東京を中心とした大都市への一極集中の流れは変わっておらず、地方にさまざまな課題が横たわっている状況が続いています。
この状況を改善しない限り、日本経済の持続的な成長は望めません。〈みずほ〉は47都道府県すべてに拠点をもつ唯一のメガバンクです。その強みを生かし、全国の中堅・中小企業担当のRM(Relationship Manager)がそれぞれの地域で企業に寄り添い、課題解決に向けて伴走支援する仕組みを構築しています。
――高済さんはその「地域創生デスク」のデスク長を担当されています。どのようなミッションで活動されているのでしょうか。
高済健太郎(以下、高済):地域創生デスクの役割は、メガバンクとしての〈みずほ〉がもつ幅広い顧客基盤や先進的な知見を統括し、地域が抱える課題に対して広範で戦略的な解決策を提供することであり、大きく分けて2つのミッションがあると考えています。
ひとつめが、「ナレッジの蓄積と発信」です。地方の企業が抱える課題は地域ごとに異なり、多様で複雑なケースが多いため、課題解決には多くの「引き出し」が必要です。各支店にもこれらの引き出しをもってもらうことが重要で、地域創生デスクが全国から集めた成功事例や先進的な取り組みを各支店に共有し、支店が企業との対話のなかから解決の糸口を見出せるような仕組みを整えています。
もうひとつは、地域が抱える課題に対し、デスクがグループ内の各部署や外部をつなぐ「連携のハブ機能」となること。これにより、先ほど足立が話していたように、同業のA社、B社、C社が県や地域をまたいで連携することで互いに人材やリソースを補い合うことが可能になりますし、例えば技術的な課題を抱える老舗の中堅・中小企業が、先進技術を持つスタートアップ企業と連携することで、世界で勝負できる会社にさらなる飛躍をする可能性もあります。こうした取り組みを推進し、積み重ねた事例を全国に横展開することも地域創生デスクの重要な役割です。
――地方銀行と比較した場合のみずほ銀行の優位性についてはどう考えていますか。
高済:メガバンクとして、より広域に地域を俯瞰して対応できることと、〈みずほ〉が持つ幅広い顧客基盤にあると考えています。地域金融機関は地元に密着した視点で強みを発揮しますが、例えば地域の製品を全国や海外へ展開する際には、〈みずほ〉がこれまで信頼関係を培ってきた顧客基盤を通じて販路拡大の支援が可能です。
〈みずほ〉は課題を抱える地域と、地域の外をつなぐことができます。広い視野で地域企業の成長を支援できるのが強みだと考えています。
――これまでにどのような成果がありましたか。また、直近ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
高済:初年度は、地域脱炭素、地域決済ソリューションの提供、DX支援など、多岐にわたるアプローチを実践しました。その結果、これまで接点の薄かった地元の優良企業や自治体との関係構築が進み、地域のニーズが顕在化するという成果が生まれました。現在は、「地域の主要産業支援」「スタートアップの育成」「自治体ビジネス」の3つにフォーカスした取り組みを進めています。
24年4月、リバネスと日本の地域活性化に向けた連携協定を締結しました。社会課題を解決する研究開発型の革新的テクノロジーをもつディープテック企業と、技術的な課題を抱える地場企業とを橋渡しすることで新たな価値創造を促し、地場企業とディープテック企業の双方の成長支援、グローバル企業の輩出を目指しています。
また直近では、愛知県スタートアップ支援拠点「STATION Ai」におけるスタートアップの成長支援、オープンイノベーションの促進を目的に、プログラムスポンサーに就任し大企業とスタートアップを結ぶハブとして連携を強化するほか、社会課題を解決する革新的テクノロジーをもつディープテック企業と、技術的な課題を抱える地場企業とを橋渡しすることで新たな価値創造にも貢献しています。
さらに、〈みずほ〉ではJクレジット取引の売買も取り扱っており、地域企業と連携したサーキュラーエコノミーの構築など新しいエコシステムづくりにも取り組み始めています。

未来の循環型社会は「バンカーの人間力」で描き出す
――みずほ銀行の中堅・中小企業支援はどのような進化を遂げていくのでしょうか。その先にある未来の展望を教えてください。
足立:日本には、世界に誇る卓越した技術をもつ企業や、サプライチェーンの中核を担う企業、地域の雇⽤や経済の発展に⾼く貢献する企業など、規模は⼩さくても⼤きな価値を発揮する企業が多数存在します。〈みずほ〉と古くからお付き合いをいただいているお客さまにもそんな企業が多数いらっしゃいます。こうしたお客さまが変化の激しい時代を⽣き抜き、⼤きく成⻑していただかなければ〈みずほ〉の発展、ひいては⽇本経済の発展はありません。そういう意味でも、お客さまの成⻑に向けて、経営者の皆さまと膝詰めで対話を重ね、10 年先、20年先を描いた「ありたき姿」を形にするお⼿伝いをすることが私たちの役割だと思っています。
とりわけ中堅・中小企業支援においては、その企業の「オンリーワンの価値」に惚れ込み、中長期的な目線で共に歩んでいけるかどうかが、バンカーとしての人間力の分かれ道になるでしょう。事業支援を進めるには信念と忍耐力が不可欠ですが、そこを乗り越えた先でこそ、企業が成長し、地域経済が潤う、すべてのステークホルダーがウィンウィンとなる循環型社会を創出できるのですから。
高済:地域創生デスクを開設して2年が経ち、地域の支店でも取り組みが定着してきたのは大きな成果だと感じています。これからは、こうした取り組みをさらに発展させ、独自の技術や強みをもつ「スモールジャイアンツ」企業を組み入れた広域サプライチェーンの構築にも挑戦していきたいと思います。地域の企業が成長し、地域経済が活性化することで、地域から、日本から、世界へ羽ばたく企業を生み出していきたいですね。
――最後に伺います。みずほ銀行はなぜ変われたのでしょうか。
足立:正確には、今まさにスピード感をもって変わり続けているというのが実感です。金融プロダクト自体で大きな差別化を図ることが難しい今、私たちが真に提供できる価値とは「人間力」なのだと、〈みずほ〉の歴史をひも解いて気づき、その価値をきちんとストーリーとして体系化したことが組織の求心力を生む契機になりました。22年からは旧3行の歴史をたどり、今のビジネスと照らし合わせて理解を深める「源流プロジェクト」にボトムアップで取り組むなど、新たな流れも起きています。それらの流れが合流し、行員のモチベーション向上へとつながっている。それが変革の推進力を増強させていると思っています。
――豊かな穂を実らせるための挑戦、その取り組みに期待が膨らみます。
足立:渋沢栄一が第一国立銀行を設立して150年。金融が企業の持続的成長に寄り添うことが今ほど求められる時代はなく、銀行の本分をまっとうすべきだ、というのが私たちの想いです。その使命感を胸に、⽇本社会・経済の発展に奔⾛した先⼈たちのDNAを受け継ぐ銀⾏として、これからもお客さまの夢や目標に寄り添い続けていきたい。⽇本の活⼒の源泉である「⼩さくても強い企業」の永続的な成⻑を、〈みずほ〉は全⼒で応援していきます。
※本記事の内容は、2025年3月時点の情報に基づき構成しております。
足立龍生(あだち・りゅうせい)◎みずほ銀行 常務執行役員 リテール・事業法人部門共同部門長。大企業営業や産業調査部での経験をもとに、リテール・事業法人カンパニーでの拠点長、エリア長を歴任し、2023年より現職。中堅・中小企業からスタートアップ、上場ベンチャー企業に至るまで幅広い層の企業支援のための業務推進企画を統括し、「地域の赤字企業が1社でも減ることで従業員の賃上げ・消費の促進、地域の税収増加といった循環から経済効果を生み出し、国力向上に貢献する」として、事業再生支援による地域貢献に情熱を注ぐ。
高済健太郎(たかすみ・けんたろう)◎みずほ銀行 法人業務部 地域創生デスク長。中堅企業・大企業の営業や経営企画部門での豊富な経験を経て、会津支店長を歴任し、23年より現職。会津支店長時代には、人口減少や経済低迷に直面する地域企業を支援し、地域課題解決のための「会津コイン」の導入に尽力。地域経済の活性化とデジタル技術を駆使した地域創生を推進し、地域社会への貢献を目指している。