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2024.11.29 16:00

困難な時代を生き抜くリヒテンシュタイン公爵家の術を生かした長期的で戦略的な資産運用が支えてきたもの

900年におよぶリヒテンシュタイン公爵家の資産管理を担うプライベートバンク・LGTの日本拠点であるLGTウェルスマネジメント信託株式会社。世界で最も多くの老舗、つまりファミリービジネスがある日本で、どれだけの成果を上げたのだろうか。LGTが提供するファミリー・ガバナンスの内容と今後の展望などについて、LGTウェルスマネジメント信託株式会社代表取締役会長兼プライベートバンキングジャパンCEOの永倉義孝に話を聞いた。


リヒテンシュタイン公爵家のプライベートバンク・LGTの日本拠点であるLGTウェルスマネジメント信託株式会社が開設されたのは、2021年のこと。それからはや3年目を迎えた。

その間、LGTは運用資産残高3,560億スイスフラン(2024 年6 月末)と、同社史上最高の期末残高を記録。オーストラリア、インド、タイ、日本といったアジア太平洋地域での拡大を図っており、すでにその成果が現れつつあるという。日本での成果はどうだったのか、永倉に聞いてみた。

「実績に関する具体的な数字を申し上げることができませんが、極めて順調にスタートすることができました。LGTのもつ専門性と哲学について、日本のお客様から非常に強い支持をいただいていることを日々感じています。歴史的なパラダイムシフトを迎え、大きく急速に変革している世界情勢のなかで、過去の成功体験だけでは予測困難なこれからの時代を生き抜くことが難しいと考える富裕層が増えてきています。

我々が提供するアドバイスはすべて、900年、26世代にわたり壮絶な歴史のなかを生き抜いてきたリヒテンシュタイン公爵家の知識・経験に裏付けられたものです。ゆえに非常に現実的で説得力があると受け止められているのです」

そもそも、短期での利益を追求していないLGTの実績をわずか3年という時間でみるのは適切でない。ただ、そうであっても日本の富裕層が10年ぶりにやってきた外資系のプライベートバンクを選ぶには、何かしらの理由があったはずだ。永倉は、日本とリヒテンシュタイン公国のある共通点を指摘する。

「実は、LGTが日本に進出した理由のひとつに、リヒテンシュタイン公爵家が日本の文化や価値観を敬愛しているという点があります。また世界最古のロイヤルファミリーである皇室が存在する国家構造や社会文化がリヒテンシュタイン公国と非常に似ているという点もあります。

私は、公爵家と日本の皇室の両家には『高潔』『社会(国家)への責任』という哲学が共通して存在すると思います。そこには、資産を散財してよいわけではなく、経済活動や社会活動を通じて社会に貢献し、そして後に続く世代に資産、哲学、社会的パワーを正しく継承すること。そのことにすべてのメンバーが努めるというファミリーの哲学があるからです。皇室に愛着と信頼感を抱く日本のお客様は、公爵家の行動原理と価値観に根差すLGTにも、同様に高い信頼を寄せていると感じます」

このリヒテンシュタイン公爵家の哲学と歴史こそがLGTのDNAであり、無形の資産なのだろう。永倉が率いる日本拠点の役割は、公爵家の哲学、知識、経験に根差したLGTの戦略や専門性を日本の特性、文化、価値観に合わせて日本の富裕層に伝えていくところにある。

日本と高い親和性をもつファミリー・ガバナンス


「3代続けば資産がなくなる」(アンドリュー・カーネギー)
「ファミリービジネスの30%は2代目まで続き、13%は3代目まで続き、わずか3%がそこから先も在続する」(ジョン・L・ワード)

先人たちが残した言葉は、世代を跨いで資産やビジネスを守ることが極めて難しいことを表している。この現実を踏まえ、永倉は「LGTの責任は、我々のお客様が3%に入るように永続的なサポートをすること」だと語る。

「富裕層が生き残るためには、リスクを適切にコントロールし、長期的で戦略的な資産運用を行うことが重要です。しかし、それはLGTがお客様に提供しているサポートの一部に過ぎません。世代を跨ぐ時間軸での資産やビジネスの在続には、ファミリー・ガバナンス、次世代教育が極めて重要です。資産やビジネスを将来的に担う次世代には、求められるノブレス・オブリージュを早い段階で教育します。

資産管理、ファミリー・ガバナンス、次世代教育、フィランソロピー活動などを統合した戦略・手法があってはじめて、富やビジネスを跨ぐ時間軸で存続、成長させることができるのです。LGTは、一族が世代を超えて資産、ビジネス、哲学を継承するための戦略・手法を提供しています」

このファミリー・ガバナンス、次世代教育に関するアドバイスの提供を日本の金融機関に期待することは難しい。その理由は、明治時代に遡る銀行のほとんどが、ビジネスを支えるための為替業務や信用付与をベースにつくられた商業銀行だったことにある。もちろん、信託業務を行う銀行もあるが、リヒテンシュタイン公爵家のファミリーオフィスとして、900年におよぶ繁栄を支えてきたLGTとのノウハウ、経験の蓄積の差はあまりに大きい。

そして、100年単位で未来を考えるときに欠かせないのが、サステナブル・インベストメントだろう。

「長期投資の観点で投資先の選定作業をみた場合、人類の存続を危うくする製品・サービスを提供する企業は投資先より排除しなくてはなりません。短期的に大きな収益を上げたとしても、長期的には社会はそのような企業の存続を許しません。

言い方を変えると、メガトレンドの観点で社会に歓迎される企業(国)、もしくは社会問題の解決に寄与している企業を投資先に選定する必要があるのです。LGTはそれを実現するためにLGTサステナビリティ・レーティングという独自格付をもっています」

ESG(環境・社会・ガバナンス)にかかわる目標などを重要な要素として投資するこの手法について、永倉は「日本人は潜在的に親和性が高い」と続ける。

「日本人は、サステナブル・インベストメントの具体的な目的や合理性、必要性に関して明確に説明を受ける機会をもったことがなかっただけで、その長い歴史のなかで自然と調和する文化をもち、地球環境への高い意識も有している価値観と非常に親和性が高いと考えています。そういった意味では、日本が元来有していた感覚に世界が近づいてきたともいえます。

今ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、ESG投資、特に環境に対する投資に逆風が吹いています。しかし、LGTが目指すサステナブル・インベストメントは長期的観点からみて経済的インパクトと社会的インパクトを両立させる極めて合理性の高い投資手法です。この投資手法には、公爵家が900年間成功してきた合理性と倫理観がDNAとして根付いています」

リヒテンシュタイン公爵家が築いてきた長期的視座での合理性、戦略的発想、倫理観が日本の文化に受け入れられやすい土台があった。だからこそ、LGTはわずか3年でプライベートバンクとして地歩を固めることができたのだろう。

富裕層をサバイブすることが日本の経済を強くする

日本は、いわゆる老舗が多いことで知られる。日経BPコンサルティング・周年事業ラボによる2020年の調査では、創業100年企業の国別ランキングで日本は1位(比率41.3)となっている。創業200年企業でも同じく1位で、その比率は2位の米国(11.6%)を大きく引き離し、65.0%となる。

この調査結果は、日本にはリヒテンシュタイン公爵家にはおよばないものの、世紀を跨いで生き残ってきたファミリービジネスが世界で最も多いことを意味する。そして、これら老舗企業の分布は、京都府をトップに山形県、新潟県、福井県、滋賀県と続く(帝国データバンク全国「老舗企業」分析調査(2024年)より)。

このような背景があるなか、日本全国の多くの産業で事業再編の動きが活発化している。そして大規模・中型企業において会社の売却やMBOを選択するケースが増えている。昨今、外資系のファンドが積極的な事業拡大を行っている背景には日本市場における大きな事業再編の流れがある。

このような実態を反映してか、LGTウェルスマネジメント信託株式会社の展望について、永倉は「企業オーナーに影響力のあるさまざまな専門家とのエコシステムを構築している」と語る。

「実は今、私たちの話を聞きたいという声が全国の企業オーナーから多く寄せられています。これは過去の外資系金融機関ではなかったことです。その背景には、近年多くみられる会社の売却やMBOを選択された企業オーナーの多くが、グローバルなネットワークを有する専門性の高いウェルスマネジメント・アドバイザーを強く希求しているのです。

我々のバリューは日本においては唯一無二であるという自信があります。しかしながら、私たちの限られた人数では、全国津々浦々を完全にカバーすることは現実的ではありません。そのため、私たちは各エリアに影響力のある専門家などと提携し、彼らを通じてLGTのバリューを提供するようなエコシステムの構築を目指しています」

予測困難な世界情勢や日本を取り巻く地政学リスクの顕在化の流れを受け、将来への強い問題意識を有する富裕層を顧客にもつ弁護士や公認会計士などからの相談や紹介も増加しているという。

永倉のインタビューで印象に残ったのは、超富裕層、企業オーナーの長期的な存続と成功が国の経済を強くするという信念だ。信用力の最高格付けであるAAAを有するリヒテンシュタイン公国、そしてその国家元首である公爵家の900年を超える知識・経験をベースにしたLGTがもつストラテジーとメソッドが、日本経済再生の起爆剤となるのかもしれない。


プリンスリー・コレクション─リヒテンシュタイン公爵家とアートの歴史

Peter Paul Rubens, detail from “Portrait of Clara Serena Rubens, the daughter of the artist (1611–1623)“, around 1616 © LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz–Vienna / Franz Xaver Petter, detail from “A bouquet of flowers in a vase,“ 1845 © LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz–Vienna

ヨーロッパで現存する最古の貴族の家系のひとつであるリヒテンシュタイン公爵家は、400年以上にわたり熱心に美術収集を続け、バロック時代から今日に至るまで、ヨーロッパ美術のにおける主要なアートの振興を図ってきました。

1607年にリヒテンシュタイン公爵カール1世(1569~1627年)がアドリアン・デ・フリースに依頼した実物大より大きいブロンズ像「苦悩のキリスト」は、現在もリヒテンシュタイン公爵コレクションに保管されており、公爵家の一員が依頼した美術作品として記録に残る最初の作品です。

それ以来、コレクションは継続的に拡大され、世界で最も重要なヨーロッパ芸術のプライベートコレクションを築き上げてきました。結果、今日ではプリンスリー・コレクションは3万点を超え、このなかには1,600点以上の絵画と、700点以上の彫刻も収蔵されています。コレクションの中心は、ピーテル・パウル・ルーベンスの個人所有の絵画と、17世紀からすでに王子の所有物となっていたアンソニー・ヴァン・ダイクの作品の最大のコレクションであるフランドル絵画です。1712年時には、ヨハン・アダム・アンドレアス1世のギャラリーに、ピーテル・パウル・ルーベンスの絵画が50点以上あったと推定されます。

その後、1810年にはリヒテンシュタイン公ヨハン1世(1760~1836年)がリヒテンシュタイン庭園宮殿をギャラリーとして使用し、一般公開。ウィーンのバンクガッセにあるシティ・パレスとロッサウ郊外のガーデン・パレスのほかの邸宅から、重要な所蔵品を集めました。

再び一般公開された傑作コレクション世界中にその輝きを届ける

Osias Beert the Elder, detail from “Large still life with apples, grapes and a vase of flowers,“ 1600/20 © LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz–Vienna

Osias Beert the Elder, detail from “Large still life with apples, grapes and a vase of flowers,“ 1600/20 © LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz–Vienna

1938年の「アンシュルス」後、建物は一般公開されなくなりましたが、2004年、ロッサウ地区のガーデン・パレスが、リヒテンシュタイン美術館として再オープンしました。これにより、何世紀にもわたる王家のコレクションの伝統が復活。今日、ガーデン・パレスを訪れる人は、初期ルネッサンスからバロックまでの傑作のコレクションを見ることができ、世界最大かつ最も重要な一族のコレクションの多様性と豪華さを実感することが可能です。このコレクションは、既存の作品の修復と新しい作品の収集を通じて、そのラインナップを増やしてきました。また、コレクションの一部は貸出品として他の美術館や特別展で展示されることもあり、中国、日本、ロシア、シンガポール、台湾、そして直近ではヨーロッパの都市で展示会が行われました。

私たちのコレクションは生きた有機体であり、継続的に更新され、拡張されて、より多くの作品をデジタルでもご利用できるようになっています。公爵家のコレクションのおよそ3分の1はオンラインでも公開しています。素晴らしい芸術作品を、どうぞご鑑賞ください。

The Princely Collectionsはこちら

永倉義孝(ながくら・よしたか)◎LGTウェルスマネジメント信託株式会社 代表取締役会長兼プライベートバンキングジャパンCEO、エグゼクティブボードアジアメンバー。LGTの日本におけるウェルスマネジメント事業を統括。事業責任者として日本におけるプライベートバンキング戦略全般の策定、実行、およびバンカーとして顧客へのプライベートバンキングサービスを提供。LGT入社前は、クレディ・スイス、ドイツ銀行、三菱UFJ銀行などで、プライベートバンキング業界の数々の業務に携わる。日本の金融業界における経験は25年以上にのぼり、長年の経験と日本市場に対する独自の洞察により、LGT独自の総合的な顧客サービスの確立に寄与。