そんな名店をさらに特別な存在にしているのがワインだ。2020年にソムリエ日本一となった井黒卓氏がシェフソムリエを務める同店では、精鋭のソムリエチームが世界中から厳選したワインのほか、ワインラバー垂涎の高級ワインが揃う。昨年10月に話題をさらったのが、創業50周年を記念した50万円の特別ワインペアリングだ。「DREAM COMES TRUE」と名付けられたペアリングでは、どんな夢のようなワインが供されたのだろうか。今グランメゾンで飲めるもっとも高いワインとは……。
グランメゾンで最も高価なワインは?
100ページはあろうかという分厚いメニュー。「ズバリ、このなかで、泡・白・赤それぞれ一番高いワインは?」と下世話な質問をぶつけると、ちょっと考え込んだ井黒氏。「僕たち、リーズナブルなワインは覚えているんですが、高いワインはお客さんがご自分で選ばれるので、値段すらも覚えてないんですよ」と笑う。シェフソムリエの井黒卓氏は、2020年の「全日本最優秀ソムリエコンクール」で優勝
メニューを確認すると、泡で一番高価なボトルは、クリュッグ「クロ・ダンボネ」1996年で80万円。白はルフレーブ「モンラッシェ」2010年と2014年が290万円。そして全メニューの中で最も高価だったのは2つ──DRC「ロマネコンティ」2005と、アンリ・ジャイエ「ヴォーヌ・ロマネ・クロ・パラントゥー1er Cru」1999年で500万円だった※。
※2024年1月31日時点。ワインのアイテム・価格は常に変動。
高価なワインは自らおすすめしないというが、「なぜ高いのか説明できないと、ソムリエとして失格」と井黒氏。例えば、ブルゴーニュの1級畑であるアンリ・ジャイエのクロ・パラントゥーが、なぜ世界一有名なワインである特級畑ロマネコンティと同じ価格なのか。
井黒氏は次のように説明する。
アンリ・ジャイエは、“ブルゴーニュの神様”と慕われた伝説の醸造家だ。当時最高のブルゴーニュワインを造るために、低温浸漬など様々な醸造方法を確立し、ブルゴーニュの歴史を変えた人物である。
なかでもヴォーヌ・ロマネにある畑クロ・パラントゥーは、特級畑リシュブールの隣にありながら元はただの村名畑だったが、アンリ・ジャイエの功績で名声を築き、今ではブルゴーニュで最も有名な一級畑のひとつになった。ワインは天候によっても味わいが変わるし、ましてや生産者は生きた人間であるため、時代とともに移り変わる。アンリ・ジャイエも2006年に亡くなったため、彼のワインは二度と生産されず世の中から減り続ける幻のワインなのだ。
現在の畑は後継者であるエマニュエル・ルジェとメオ・カミュゼが引き継いでいるが、両者合わせても3000~4000本しか生産できないため、希少価値(=価格)が非常に高い。
一方、ボルドー五大シャトーなども世界最高峰のワインであることは間違いないが、ワインリストを見てみると、一番高価なものでも100万円と、妙にリーズナブルに感じる。これは、例えばシャトー・ムートン・ロートシルトで年間約30万本、シャトー・マルゴーで約20万本など生産規模が大きいため、ブルゴーニュと比べると手に入りやすく価格もべらぼうに高くなりにくいのだ。ただしボルドー右岸の“シンデレラワイン”として人気が高いシャトー・ル・パンなどの場合、生産量が少ない(約7000本)ため、価格はぐっと高くなる。
50万円、100万円。「すべて当たり年のDRC7種」──!
こうした高価格帯のワインを含むボトルメニューのほか、ロオジエで圧倒的に人気なのが、フルコースに合わせたペアリングメニューだ。通常のワインペアリングは、3万円、75000円、15万円、そして30万円まで価格帯も幅広い。一番人気だという3万円のペアリングでは、クラシックなフランスワインを楽しめる「<<THE>> CLASSICS」、そして世界中のワインを学んだロオジエのソムリエチームが厳選した「SOMM'S FAVORITES」が選べる。30万円の「L'OSIER」は、ジャック・セロスやDRC、アルマン・ルソーといった一般には入手困難な高級ワインをグラスで楽しめる、三つ星の威信をかけたペアリングだ。幻のシャンパーニュ・サロンの「ル・メニル」やジャック・セロスの単一畑シリーズ6種類飲み比べ、ルフレーヴのモンラッシェに、DRC7種類(しかもすべて当たり年)……総額500万円以上のワインを1/10の価格で体験できる夢のような内容で、18セットが売り切れたという。さらにクリスマスの際には、100万円のペアリング「D.O.M PAIRING」―アンリ・ジャイエのクロ・パラントゥーを目玉に、その弟子達のワインやアンリ・ジャイエの兄ジョルジュ・ジャイエのワインもセットで飲める垂涎のペアリングも販売した。
このような特別ペアリングのほかにも、グラスで常時シャンパーニュ&白赤各10種類以上が揃うため、客の要望に合わせてペアリングを組むこともできる。「ミュジニーがグラスで楽しめるお店は他にないと思います」というように、グラス一杯から高級ワインが楽しめるのは、ワインに強い三つ星ならではの醍醐味だろう。
水上彩(みずかみ・あや)◎ワイン愛が高じて通信業界からワイン業界に転身。『日本ワイン紀行』ライターとして日本全国のワイナリーを取材するなど、ワイン専門誌や諸メディア等へ執筆。WOSA Japan(南アフリカワイン協会)のメディアマーケティング担当として、南アフリカワインのPRにも力を注ぐ。J.S.A認定ワインエキスパート。ワインの国際資格WSET最上位のLevel 4 Diploma取得。