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2024.01.25 16:00

コンシューマーからビジネスユースへと市場を拡大 高性能かつ省電力性に優れたCPUがESG経営を推進

藤井聡太竜王・名人が、「Ryzen」ユーザーであることで日本でも知名度を上げた半導体メーカーのAMD。顧客向けのPC商品が主力である一方、省エネモデルの拡充で法人市場でもその存在感を高めている。半導体業界における同社の優位性を探る。


アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は、PCなどに搭載されるCPU(中央演算処理装置)を強みにシェアを拡大。2023年12月には、生成AI向けにGPU(画像処理半導体)の処理能力を最大限に高めた新製品を発表し、⽶国⼤⼿半導体メーカーNVIDIA(エヌビディア)のコンペティターとして注目を集めている。加えて、高性能かつ省エネを実現するAMDプロセッサーを搭載した製品も、法人市場で高く評価されている。企業のESGを後押しする技術はいかにして生まれたのか。日本AMD 代表取締役副社長 関 路子(以下、関)とコマーシャル営業本部 関根正人(以下、関根)に話を聞いた。

社運を懸けたリサ・スーCEOの大勝負


米国・カリフォルニア州サンタクララに本社を構える世界的半導体企業のAMD。しかしAMDがインテルやNVIDIAと肩を並べるようになったのは、2014年にCEOに就任したリサ・スーの功績が大きい。マサチューセッツ工科大学で電気工学の博士号を取得し、名だたる企業で半導体のエンジニアとして活躍してきたリサ・スーは、12年に上級副社長兼ゼネラルマネージャーとしてAMDに参画した。

「当時は他社製品のほうが⾼性能であったことから、PC部⾨、サーバー部門ともに市場シェアを大きく失っていました。そこでリサはゼロから新しいCPU用のマイクロアーキテクチャーをつくることを決断。『シンプルで高性能、高効率なプロセッサーをつくろう』と、エンジニアが開発に集中できる環境を用意しました」(関)

日本で完成を待ち望んでいた関は、気が気でない日々が続いたと振り返る。

日本AMD 代表取締役副社長 関 路子

日本AMD 代表取締役副社長 関 路子


「本社から、数年で必ず競争力のある製品を世に送り出すと言われていましたが、それまでは売り上げも厳しい状況が続き、苦しい時期を過ごしました。しかし、予定通りの期間で新製品が完成。従来のCPUに比べて1クロックあたり50%以上も高速な演算を実現した製品が生まれたことに興奮したことを覚えています」(関根)

この製品が、17年に登場した新たなアーキテクチャー「Zen(ゼン)」だ。「Zen」を搭載したPC用のCPUは「Ryzen(ライゼン)」、サーバー用のCPUは「EPYC(エピック)」という新たなブランド名が付けられ、以降、AMDの快進撃の原動力となっていく。

ビジネスユースに選ばれる理由


「AMD Ryzen™ プロセッサ」の最大の特徴は、高速処理を可能にしたハイスペックな性能。第3世代の最上位モデル「AMD Ryzen™ 9」と「AMD Ryzen™ Threadripper™(スレッドリッパー)」シリーズが立て続けにリリースされた19~20年には、演算速度において⾃他ともに認めるマーケット・リーダーとなった。また、リサ・スーが追求した「シンプルで効率がよいプロセッサー」には、もうひとつの大きな武器があった。

「従来、サーバー用のプロセッサーはデスクトップPC用とは別のシリコンダイ(チップ)を開発するのが一般的で、開発には時間と工数を要していました。そこで『Ryzen』と同じチップを活用できる設計にしたことで、開発期間の短縮に成功。加えて複数の『Ryzen』を組み合わせることで、大容量化にも対応できる。この大胆な発想はAMD独自のものと言えます」(関根)

シンプルなプロセッサーはさらなる副産物も生んだ。それがエネルギー効率の最大化だ。

「『Ryzen』搭載のモバイルPCは、他社製品に比べて電力消費量を約20~30%抑えることが可能です。例えば2万5,000台のPCを保有している企業が1日8時間稼働させ、4年間で買い替えるサイクルを想定した場合、電力量は約3万8,000キロワット、電気代は約7,300万円も節約することができます」(関)

▼4年間の消費エネルギーとコスト削減の試算(AMD Ryzen™ 7 の電力効率 VS 競合製品)
『Ryzen』搭載のモバイルPCを2万5,000台保有している企業が、4年間で買い替えるサイクルを想定した場合、他社製品と比較して、電力量約3万8,000キロワット、電気代約7,300万円の節約が可能

『Ryzen』搭載のモバイルPCを2万5,000台保有している企業が、4年間で買い替えるサイクルを想定した場合、他社製品と比較して、電力量約3万8,000キロワット、電気代約7,300万円の節約が可能


また、AMDプロセッサー搭載のパソコンには、データの安全性を高める独自のセキュリティ機能が搭載されていることも、企業が導入を進める理由のひとつだ。⾃社の強みについて、関根は次のように語る。

「元エンジニアであるリサが、より良い製品をつくるという強い信念のもと、開発環境を整え、大胆な投資を行う。こうした彼女の姿勢に共感し、優秀な技術者がリサのもとに集まってきたことが、大きな強みであると考えています。リモートワークが定着した今、セキュリティや長時間のバッテリー駆動が可能なノートパソコンが必要不可欠です。このようなニーズにも高いレベルで対応できる製品を提供できるのは、我々がもつ技術力にほかならないと自負しています」

日本AMD コマーシャル営業本部 関根正人

日本AMD コマーシャル営業本部 関根正人

AI半導体市場でのリーディングカンパニーを目指す


23年12月6日(米国時間)、AMDは生成AI(人工知能)向け半導体の新製品「MI300X」を発表。リサ・スーは同製品がNVIDIAの主力製品「H100」に負けない性能であることを断言し、AI半導体を取り込んだデータセンター向けの市場規模が、27年に4,000億ドル(約59兆円)を超えるまでに膨れ上がるという見解を示した。これは巨大マーケットと化すAIデータセンター市場でのシェア獲得に向けた所信表明とも言える。

「『MI300X』に加え、AI戦略におけるもうひとつの武器が『Ryzen』に搭載しているAMD Ryzen AIエンジンです。近い将来AIを搭載していないPCはパソコンではないという時代が来るでしょう。そのときに市場のリーダーとなることが、我々のゴールのひとつでもあります」(関)

「AMDが開発したAI半導体の最大の優位性はメモリーの大容量化です。またオープンプラットフォームで、他社のエンジニアの方々が開発しやすいというのもセールスポイントです。AIのサービスモデルは今後より多様化していくことが予想されますが、我々はすでにあらゆるタイプのAI半導体を準備しています。必要とされるときが来た際には、最適な電力効率を備えたデバイスを適材適所で展開していく。それが使命だと考えています」(関根)

次世代のリーディングカンパニーとなるべく、米国の半導体企業Xilinx(ザイリンクス)の買収など、着々と準備を進めるAMD。同社が生み出す新たな技術は、企業のサステナビリティだけでなく、未来の働き方を支える基盤をつくっていくことだろう。

日本AMD
https://www.amd.com/ja.html

せき・みちこ(写真右)◎ソニーでVAIOの事業開発、音楽配信のデジタル著作権管理、そのほか技術アライアンスなどに従事。2015年⽇本AMDに転職し、カスタムビジネス事業開発を担当。20年代表取締役就任後、23年8月より現職。

せきね・まさと(写真左)◎海外製半導体専⾨商社に入社後、2008年日本AMDに転職。サーバー、クライアント、組込機器など製品の技術サポートに従事。現在はコマーシャル営業本部で、セールスエンジニアリング部門のマネージャーを務める。

Promoted by 日本AMD | text by Tetsujiro Kawai | photograph by Daichi Saito | edited by Aya Ohtou(CRAING)