Forbes JAPANは、協創/共創のための事業共同体 point 0が発行するアニュアルレポートを2021年より制作。point 0から生まれる企業同士の化学反応や新たなソリューションに注目している。
以下で、point 0 annual report 2022-2023から抜粋したSpecial Talkを紹介する。
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「point 0 marunouchi」が誕生して4年。果敢に新たな試みにチャレンジし続けてきたpoint 0の活動がさらに広がりを見せている。なかでも、特に注目したいのが、「terminal.0 HANEDA」だ。羽田空港の国内線旅客ターミナルの管理・運営をしている日本空港ビルデングが、HANEDA INNOVATION CITYに2024年1月にオープン予定の企業参画型コワーキングスペースである。
「terminal.0 HANEDA」の運営は日本空港ビルデングが行うことになるが、運営のあり方をはじめ、設備面、協働するパートナーの募集など、さまざまな面でpoint 0がサポートする。同プロジェクトにかける思い、果たすべき役割、そして今後の展開などを、日本空港ビルデングの池田篤氏(以下、池田)、中島悠太氏(以下、中島)、point0の石原隆広氏(以下、石原)、菅波紀宏氏(以下、菅波)が語り合った。
未来の空港をつくる
——まずは「terminal.0 HANEDA」プロジェクトが生まれた背景からお教えいただけますか?池田 HANEDA INNOVATION CITYの計画が2018年から本格的に進み、当社も、構成員(出資社)として計画から参画していました。計画が進行するなか、Hicityでの当社の役割や、当社の自らの事業展開などを検討していました。羽田空港の将来を見据えたときに、どのような事業が必要なのかも考えながら事業を検討していくなか、ちょうど同じ時期に、中島などの若手社員を中心にして「羽田空港の未来」というテーマで勉強会がスタートし、ひとつの資料をまとめました。その勉強会で誕生したのが、「人のこころを動かすために、空港が出来ることのすべて。」というコンセプトです。人の心を満たすということは、どんな時代になろうとも絶対に必要なことで変わらない部分だという考えから生まれる、未来の羽田空港を描きました。
中島 空港は旅行やビジネスで出かける際の始まりの場であるとともに、帰ってくる場でもあります。つまり、ワクワクしたりする楽しい場であり、安堵する場でもなければなりません。そんなエモーショナルな施設、空間、そしてサービスが不可欠だという考えに至りました。また、利用するお客様だけではなく、働く人にも優しい空港を目指そうということになりました。
池田 このように「羽田空港の未来」を具現化、実現していくためのイノベーションを起こす場として、思いついたのがコワーキング機能でした。人の心を動かす空港をつくっていくためには、当社だけでは限界があり、これまでの空港関連事業者様をはじめ、メーカーさんなどと一緒に、羽田空港の未来を実現するための実証実験ができる場をつくろうということになりました。
point 0さんとの出会いは、すでにHicityの飲食店舗などで設計を担っていただいた丹青社からご紹介していただいたのがきっかけでした。point 0 marunouchiを視察させていただいたとき、企業の垣根を超えて実際に「共創」に取り組んでいることを目の当たりにして、「こういう取り組みが当社にも必要!」という思いを強くしました。また、石原社長にお会いしてpoint 0 marunouchiを設立した背景や目指していく内容を伺い、ものすごく共感しました。当初、感じられた課題を解決するために、point 0 marunouchiを立ち上げ、共創の取り組みを実現し、いまも推進していることに感銘を受け、当社もコワーキングスペース事業をやっていこうという決意につながりました。
菅波 それからmarunouchiには何度も足を運んでいただきましたね。池田さんや中島さんなど現場サイドの方だけでなく、上司や経営層の方にも見ていただきました。やはり実際に見ていただいたことが、理解を得ることにつながったと思います。
池田 やはり百聞は一見にしかずで、私の上司もmarunouchiを実際に自分の目で見てpoint 0さんのファンになり、コワーキングの可能性に魅せられました。経営陣も、現地視察を通してコワーキングによるさまざまな共創のあり方を知ったことで、私たちの社内提案したコワーキングスペース事業や実証実験や研究開発の必要性も理解してもらえるようになりました。
point 0が企画・運営をアドバイス
——では、具体的に「terminal.0 HANEDA」のプロジェクトは、どのように進んでいったのでしょうか?中島 本件をコワーキングスペース事業という角度から考える際、業界を勉強するために、point 0さんをはじめいくつかのコワーキング事業者の方にお会いしました。そこで口を揃えて指摘されたのが、コワーキング事業は、都心・オフィス街や繁華街などのエリアで成立するということでした。HANEDA INNOVATION CITYのある天空橋は現在開発の途上であり、一方で羽田空港の隣接地であることは、本件を進めるうえで、まず留意したポイントです。
池田 事業スキームも課題だと思っていました。テナントとして誘致をおこなっていくのか、もしくは、業務委託などの可能性もあるのか。どちらにしてもアクセス面や事業性の課題があり、悩んでいました。point 0さんとも相談し、何度も説明を聞いていくうちに、今回のプロジェクトは当社が自らやっていくべきであり、当社が主導で挑戦すべきプロジェクトであると決意しました。「未来の空港づくりを掲げている当社が中心になって、仕組みや運営を構築していくことがベストだろう」という決断に至りました。
石原 point 0としては企画・運営などのアドバイザーという形でパートナーシップを組むというスキームになりました。「terminal.0 HANEDA」のアドバンテージは、出口戦略が明確であること。空港のすぐ近くのコワーキングスペースで検証したものを、実際に空港の運営を担う日本空港ビルデングを通じて社会実装できる可能性があり、その可能性が非常に高い。これは参画する企業にとっては大きな魅力です。これまで私たちは実証実験の後、事業化という出口を見出すことに苦労してきたので、その点を最大限に活かせるコワーキングスペースとして、企業にアピールしていくことが重要です。
成功の鍵を握る参画企業選び
——「terminal.0 HANEDA」におけるpoint 0はアドバイザーという役割を担うということですが、具体的にはどのような業務を行うことになるのでしょうか?石原 まず事業計画書作成のアドバイスから始まり、参画企業の募集方法、コワーキングスペースの空間づくり、そしてオープン後には運営に関するさまざまなアドバイスをしていくことになります。私たちは4年間の活動
のなかでトライアンドエラーを繰り返しながら多くのことを学んできました。そのことを日本空港ビルデングさんに伝授することで効率的な運営ができるようにサポートしたいと考えています。
菅波 現時点で最も重要なことは参画企業選びです。同じ目的を共有できる仲間を集めるために、7月6日に第1回目の説明会が開催されましたが、参画企業の構成で、今後の共創のあり方や熱量が決まるといっても大げさではないと思います。
石原 参画メンバーがいかに重要なのかは、これまでのpoint 0の活動で体験してきました。例えば、リスク面ばかりを考えてネガティブな発言が多い人や、指示をもらえば的確に動けるが自発的には動かない人などがいると、プロジェクト自体がうまくいかなくなることが起こります。つまり、お互いの知見や強みを持ち寄り、アイデアの種を育み成長させていくという「共創の意識」が共有された、全メンバーのエンゲージメントが高い状態をつくることが成功の必須要素なのです。
池田 共創を進めることの難しさや課題、そして何より参画いただく参画メンバーの思いや意思がいちばん重要だということは、石原さんや菅波さんから何度も助言いただきました。また、参画企業の募集では、私たちの「思い」を伝える大切さもご指摘していただきました。つまり未来の羽田空港をつくるという私たちの熱量を伝え、それに共感してくださる企業が、“仲間”として集うことにつながるということも教えていただきました。
中島 説明会では多くの企業の方に参加していただきましたが、「共創」に対する姿勢を知るために、僭越ながら「terminal.0 HANEDA」で挑戦したいことをレポートしていただくという宿題も出させていただきました。
石原 共創を目的としたコワーキングは、単にテナントに入っていただく事業とは異なり、同じ目線や熱量をもつことが大切ですから、レポートはいい試みだと思います。
全国に仲間を増やすきっかけにしたい
——では、「terminal.0 HANEDA」では、具体的にどのように活動していく予定なのかを教えていただけますか?中島 羽田空港が目指す「人のこころを動かすために、空港が出来ることのすべて。」を実現するために、4つのアプローチを考えています。それが「快適性」「利便性」「機能・効率向上」「感性」です。そのために多様なモビリティシステムの活用や、ロボット技術を用いた手荷物預かり所の運営、また、時間がかからないノンストップ型の保安検査などを開発したいと考えています。なかでも注力したいと考えているのが、ストレスフリーの保安検査のあり方です。混雑する保安検査は、利用する方にとっても、働く従業員にとっても負担になっているので、大きく改善できる技術やシステムを開発したいですね。同様に、保安検査から搭乗口まで動く歩道で移動できるようになっていますが、このシステムは膨大なコストがかかるので、荷物ごと簡単に運べる自動運転車椅子の開発なども視野に入れています。そのために今回は、情報システムから宇宙関連まで多彩な業種の企業に声をかけさせていただきました。
池田 中島が説明したような複数のテーマについて実証実験をしていくことを想定しています。当社が主体になって開発テーマごとのワーキングチームを形成し、参画企業同士の情報交換や交流を促す役割を果たします。当然、その活動のなかで空港の課題やニーズを共有したり、「terminal.0 HANEDA」の運営に関する会議を開催したり、共創を促すイベントなどを開催していきます。こうした運営をスムーズにするために、運営のみならず管理から運営、将来計画まで、さまざまな視点でアドバイスをいただく予定です。
石原 例えば、コワーキングの運営で一番難しいのは参画メンバーのモチベーション維持、向上です。参加しているメンバーは各企業に在籍しながらコワーキングで働いている人たちですが、共創プロジェクトに懸ける意欲や熱量には温度差があります。当然のことですが、共創プロジェクトでは主体的に取り組まないと成果も得られません。そのために頻繁にコミュニケーションの機会を設ける、一体感を醸成するイベントを定期的に行うなどの取り組みは不可欠です。このような、私たちが4年間の経験で得たノウハウや知見を提供したいと考えています。
菅波 「terminal.0 HANEDA」の場合、未来の空港づくりのためのオープンイノベーションという明確な目的があります。そのためコワーキングに興味のある参画企業にとっては目的が明確なので参画しやすいと思います。しかも実証実験の場や事業出口として空港がすぐそこにある。実際に利用者が使う空港でも実証実験が行える可能性もあり、その実験の効果や成果を正確に知ることができる。そんないくつも優れた要素がある「terminal.0 HANEDA」には大きな可能性を感じています。
石原 point 0としても「terminal.0 HANEDA」は大きな転機になるはずです。これまで私たちは試行錯誤しながら共創のあり方を築いてきましたし、「point 0 satellite」などの新しい事業も生み出しました。そしていま、当社と同じように運営主体となって日本空港ビルデングさんが新たにコワーキングを始めようとしている。こうした取り組みが全国にどんどん広がり、仲間が増えることでオープンイノベーションの輪がさらに広がり、ひいてはよりよい社会の実現に寄与できると信じています。そのためにも当社も全力で「terminal.0 HANEDA」をサポートしていきたいと考えています。
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なかじま ゆうた◎日本空港ビルデング 事業開発課。2012年日本空港ビル入社。14年から事業企画課として、技術開発・活用/ラウンジ改装/デジタルマップ制作/環境演出などに従事。23年8月現在、terminal.0の構築を担当。
いけだ あつし◎日本空港ビルデング 事業開発課副課長。2004年日本空港ビルデング入社。13年から事業企画課として、羽田空港跡地案件などを担当し、羽田イノベーションシティの計画に参画。羽田空港では、オリンピックに合わせて開業した第2ターミナルビルの国際線増築、改修工事にも従事。23年8月現在、terminal.0の構築を担当。
すがなみ のりひろ◎point0 取締役副社長。2005年丹青社入社。営業、経営企画統括を経験し、企画開発センター企画部部長として、マーケティング活動全般および、オープンイノベーションによる商品開発等に従事。21年6月より現職。
いしはら たかひろ◎point0 代表取締役社長。国内大手ERPベンチャーを経て、2013年にFintechベンチャーを起業。17年にダイキン工業に入社し、「CRESNECT」プロジェクトに従事。19年2月、point0を設立し、同代表取締役に就任。
人のこころを動かすために、空港が出来ることのすべて。
空港の課題解決に異業種連携で取り組むterminal.0 HANEDA(ターミナル・ゼロ・ハネダ)は、HANEDA INNOVATION CITY(羽田イノベーションシティ)内に誕生する(2024年1月30日予定)。
価値観、テクノロジーが変化するなかでも、「人間の心・感情・感性:刺激や情報を受け取り感じ取る能力は変わらずに存在し続ける」 「心が豊かになることは永続的に価値のあること」という考えのもと、周囲への配慮と共生、共感や感動、想像力、表現力、固定概念からの解放、愛情表現を通じて、来訪者が羽田空港で感じる気持ちや、心に響くような“ワクワク感”、“暖かさ”、“笑顔”、“やさしさ”といった、もっとも大切な部分を追求し、研究・開発に取り組んでいく。
既存機能の向上と、未来の可能性を追求
既存機能の向上については、保安検査場のストレス軽減、先端ロボットの活用等に取り組む。また、未来の可能性を追求し、空飛ぶ車の利活用や、我が国の宇宙産業等がより進展し移動の概念が変化した時代のターミナル機能の可能性等を研究し開発する。
研究にあたっては、企業間連携の活性化を促すため、参画企業が日常的に利用できるコワーキング機能を整備し、各企業のノウハウや技術を活かして、共に研究し開発していく場としていく。また、研究開発する場所として、「検証(テストフィールド)」と、「発表(プレゼンテーション)」の場を備え、世界中の空港への導入を目指し取り組んでいく。
HANEDA INNOVATION CITYについて
羽田みらい開発と大田区が官民連携で開発する、「先端」と「文化」の2つをコア産業とするまち。羽田空港に隣接し、国内外への情報発信に優位な立地を最大限に活かし、新たな体験や価値を創造・発信する未来志向のまちづくりを推進する。
事業主体:羽田みらい開発
所在地 :東京都大田区羽田空港一丁目1番4号
交 通 :京浜急行電鉄・東京モノレール「天空橋駅」 直結