この「BRANZ」を手掛ける東急不動産 執行役員 住宅事業ユニット 首都圏住宅事業本部長の野間秀一と、首都圏住宅事業本部 計画第二部 事業企画グループ グループリーダー 来住野浩亮が、国内外で高い評価を得る建築家の藤本壮介とともにウェルビーイングな住まいについて語り合った。土地の風土に対して「耳を澄ませる」ことを根幹とする藤本の建築は、そこに暮らす人の日常や、その先の未来を想像しながら作り上げられている。藤本が手掛ける建築と「BRANZ」の共通点を探りながら、「今も、未来も、よりよい社会を作る住宅」とはいったいどのようなものかを考えていく。
グリーンとの共存がもたらす心の快適さ
野間 秀一(以下、野間):住宅というものは、人が暮らしの中の多くの時間を費やす場所です。持続的な社会づくりを考えるうえで、住宅を提供する企業が環境や社会課題に向き合うことは不可欠です。当社のマンションブランド「BRANZ」は、2021年のリブランディングによって「環境先進を、住まいから。」というタグラインを掲げるようになりました。環境先進とはいっても、脱炭素化などの環境への技術的な貢献だけを指すのではなく、現在から長い将来にわたって持続的に快適な「ウェルビーイング」な住まいを提供していくのが目標です。社会課題の解決に向き合いつつも、これまで以上に、誰もが生き生きと暮らすことができる快適さも同時に追求していくという姿勢ですね。
藤本 壮介(以下、藤本):集合住宅という建築は、規模的にも大きなものですから、それを作るうえでサステナビリティを意識するのは大前提です。しかし厳しく守る姿勢だけでなく、同時に「自然を心地よく楽しむ」「生き生きと暮らす」という面がなければやはり長続きしませんよね。
来住野 浩亮(以下、来住野):そうですね。2024年に竣工予定の「ブランズ自由が丘」を見ていただくと分かるとおり、エントランスにも、壁面にも、グリーンを非常に多く配置しています。集合住宅でここまで緑を多くすると、管理するうえで手間がかかってしまうのですが、やはり緑があることで、性能面での環境配慮だけではない「心の快適さ」につながると考えています。
藤本:日本の住宅地においては、土地いっぱいに建て込まざるを得ないものが多い。その中で、集合住宅でありながらこれだけ豊かにグリーンを配しているのは珍しいですよね
来住野:壁面のグリーン、エントランスのグリーンがあり、さらにラウンジにもグリーンを引き継ぐ形にしています。実はこの着想を得るきっかけとなったのが、藤本先生が手がけられた「白井屋ホテル」(群馬県前橋市)なんです。ヨーロッパや北米なら大胆にグリーンを使ったホテル建築がありますが、日本ではなかなか実現していません。外壁や吹き抜けに印象的なグリーンが配置されているあのホテルは、「緑と共存する快適な居住空間」を考える上で非常に参考になりました。
藤本:やはり外だけではなく、室内にもグリーンがあると気持ちいいですよね。手入れがより大変ではあるのですが(笑)。でも、手はかかるということはその分、環境やクオリティが保てるという考え方もあると思います。帰ってきた時や、人を招いた時にほっとする。そんな心の豊かさを実現できる場を作り、継続するというのは、結果的にお金に代え難いものになると思います。
野間:しっかりと手間をかけて管理された物件は、中古マンションとして流通する際にもリセールバリューが非常に高くなります。「BRANZ」が「環境先進マンション」として展開したのは2021年のリブランディングからですが、実はその前から、環境面での心地よさを大切にする気風を持ち続けてきました。1980年代に建てられたマンションでも、豊かな緑が魅力となっているものが多く、これらは適切な管理と手入れをし続けてきたからこそ、築40年が経った今でも価値のあるものとして認められています。逆に手をかけられていない建物であれば、築30年でも「古いもの」として壊され、新しいものに代わられてしまいます。
藤本:手入れをされている緑っていいものですよね。住んでいる人にとってはもちろん、周囲の人にとっても半ば公共の自然として認識されます。緑が多い建物が多いとこの街は大事にされているなと感じます。
来住野:まさにそれが「BRANZ」が目指しているひとつでもあります。「BRANZ」では「住む人はもちろん、そこに住まない人からも愛される、グリーンな住まい」」というテーマを掲げています。集合住宅の中に閉じるのではなく、周辺環境にもいい影響を還元できるマンション。それこそが持続的に「ウェルビーイング」な住まいになり得るのではないかと。
環境や地域と「接点」を生む建築を
藤本:住む人にも、地域の人にも愛される建築という考えは非常に大事ですよね。僕たちが手がけた建築に、2019年に竣工した南フランス・モンペリエ市の高層集合住宅(ラルブル・ブラン)があります。この設計においてはふたつのことを大切にしました。ひとつは、自然との接点を多く取り入れるということ、そしてもうひとつはコミュニティが生まれる場にするということです。モンペリエは地中海に面した温暖な気候で、一年中外のテラスでワイワイと過ごせるような場所。ライフスタイルも非常にオープンです。その素晴らしい環境と暮らし方を尊重するため、バルコニーを非常に広く設計しました。備え付けのグリーンポットも置きましたが、広い屋外空間があると、自然とそこにもグリーンを置くようになるんですね。屋外空間だけなく、屋内からも自然が身近に感じられる環境ができていったのです。
またバルコニー同士は適度な距離を保ちつつも、会話ができるほどの近さです。そのためコロナ禍でも自然とコミュニティが生まれていきました。そして一緒にコラボレーションしたフランスの若い建築家による「屋上はパブリックな空間にするべきだ」という提案をもとに、近隣住民や観光客も入ることができるルーフトップバーを設けました。
この建物の西の方に旧市街があるのですが、夕方になるとここからサンセットと旧市街の風景をセットで見ることができるんです。採算面や設計の難易度などの課題はあったものの、結果として、多くの人が楽しめる、とても素敵な場所になったと考えています。
集合住宅は住んでいる方のことを考えるのはもちろん大事ですが、地域とのコミュニティも作り上げていくもの。ひとつの建築を通して地域に貢献することの大事さを実感しました。
野間:周囲の環境を尊重した、いい建築ができて、そこにコミュニティができて、やがて周囲にもいい住環境の輪ができる。そういうエリアマネジメントにも通じる好循環の一端を担えることが、やはり住宅を作る上での理想ではありますね。
住宅に対する人々のニーズは時代によって変化してはいますが、根本の部分ではそれほど変わっていないのではないでしょうか。空気のいいところ、景色のいいところ、気持ちのいいところに住みたいというのは、普遍的だと思います。都市でも、郊外でも、その土地に合った心地よい住まいを提供する。それがいい循環を生み出す住宅の基本だと思いますし、我々はそういう考え方を先輩方から脈々と受け継いでいます。
来住野:コミュニティや人とのつながりというキーワードが出ましたが、マンションを企画するうえで、地域とのつながり、人とのつながりを作ることは大切であると同時に、非常に難しいことでもあります。戸建ての住宅が多い中にマンションが建つことを必ずしも歓迎する人ばかりではありませんから。
では地域の人々に貢献し、つながりを作ることができるマンションに必要なものとは何か。やはりひとつは緑の豊かな環境であり、景観であると考えました。「ブランズ自由が丘」でいえば、エントランス前にある緑道の並木との調和を考えて全体を設計しています。今の景観を壊さずに、そして将来的には景観をより良くする場所になり得るような住宅になってくれれば、と。
成長するグリーンをそのままに。人や地域の記憶に残る住まいを。
藤本:先ほど「ブランズ自由が丘」は白井屋ホテルを参考にしたと仰っていましたが、あのホテルを完全な建て直しではなく既存躯体を生かしたリノベーションにしたのには理由があります。それは文化財として価値があるからというだけではなく、白井屋旅館の建物は街の中にもう何十年間も存在していて、この地域の方の記憶にしっかりと刻まれているものだと感じたからです。「これがなくなると寂しいよね」と愛着を持てるかどうか。長く存続できる建築は、部品を交換しやすい、修理しやすいなど、技術面での条件も非常に大事ですが、その建築が未来に引き継がれていく最終的な理由は、そういう「記憶に残る」部分にあるのではないかと考えています。
来住野:長く愛される住宅を作る難しさは、やはり50年、60年先の暮らしやニーズを予測していかなければいけないというところにもあると実感しています。だからこそ「BRANZ」は環境やサステナビリティに配慮したZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス化)を牽引する存在になるべく計画を立てています。
ただ、今考える先進ではなく、もう一歩進んだ考え方をしていかなければ未来のニーズには応えられないのではないかとも思うんです。そのため「ブランズ自由が丘」では「GREEN AGENDA(グリーン・アジェンダ)」という新しい仕組みを取り入れました。
これまでは、マンションの外構植栽計画の中でグリーンを植えたら、高さや緑量を竣工時から大きく変えない「維持抑制」を目的とした管理方法でした。でも「ブランズ自由が丘」では、抑制しすぎずに、ある程度は自然の成長に任せようということにしました。これはデベロッパーの立場ではメリット・デメリットがあり、社内でも賛否両論がありました。例えば、入居当時は小さかった木が、育つにつれて眺望が阻害されるという事態も予想できます。
ただ、別の見方をすれば、木が成長し緑陰・緑量が向上することで地域イメージ向上につながり、さらには生物多様性に貢献、生長分のCO2を固定することでカーボンニュートラルにもつながります。マイナス面ではなく、プラス面に目を向ける試みをしようというのが「ブランズ自由が丘」の新しい試みのひとつです。
藤本:確かに日本の街路樹を見ていると、すべて同じ高さに揃えてしまってもったいないなと感じることがあります。適切に手を入れつつも、木々が自然のままに育っていくというのが、価値でもあるし、楽しみでもあるはず。そういうことを受け入れられる社会になっていってほしいですよね。せっかく日本は高い造園や剪定の技術を持っているのだから、自然に育っていくのを楽しみながら手入れをしていくという共存の仕方もあると思います。
野間:そうですね。自然と共存することで本質的な幸福感を感じ、緑に関心を持つことで知的好奇心が刺激される。個々の快適さと同時に、地域や、社会や、未来に向けてもいい取り組みというものを提案し、いかにより良い仕組みとして昇華していけるか、その仕組みで世の中をどう変えていくのかということを伝えていくことが、企業としても今後問われてくると思います。
藤本:マンションだけではなく、都市計画全般にいえることですが、何よりもヒューマンスケールに合った、人間の生活空間として心地よいものであるという前提は必要だと思います。新しく作ったり、土地を開発したりするにしても、その土地が培ってきた歴史や良さをどうリスペクトして引き継いでいくか、未来のヒューマンスケールはどんなものなのだろうか、こういうことを想像しながらこれからの住居やコミュニティのあり方を探っていけると、未来はきっと楽しくなると思います。
東急不動産のように歴史のある会社が、未来のことを見据えた姿勢を打ち出していくのは、非常に大事なことだと感じました。今後も楽しみにしています。
BRANZ
https://sumai.tokyu-land.co.jp/concept
ブランズ自由が丘
https://sumai.tokyu-land.co.jp/branz/jiyugaoka/
ふじもと そうすけ◎1971年北海道生まれ。94年東京大学工学部建築学科卒業、2000年藤本壮介建築設計事務所設立。主な作品に「Serpentine Gallery Pavilion 2013」「House NA」「武蔵野美術大学 美術館・図書館」など。2014年にフランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞(ラルブル・ブラン)ほか、ヨーロッパ各国の国際設計競技にて最優秀賞を多数受賞。「大阪・関西万博」会場デザインプロデューサー。国内外で幅広い建築の設計を手がける。アプローチとしてその土地や文化、人々など「世界に耳を澄ませる」ことを大事にしている。
http://www.sou-fujimoto.net/
のま しゅういち◎東急不動産 執行役員 住宅事業ユニット 首都圏住宅事業本部長。1968年鹿児島県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。1991年に東急不動産入社。入社後は住宅事業にて主に用地取得を手掛ける。2021年に現職である首都圏住宅事業本部長の担当役員に就任。BRANZシリーズを中心にマンション事業全体を俯瞰している。
きしの こうすけ◎東急不動産 住宅事業ユニット 首都圏住宅事業本部 計画第二部 事業企画グループ グループリーダー。1980年東京都生まれ。東京工業大学工学部土木工学科卒業。2005年に東急不動産入社。入社後は資産活用事業本部、東急不動産キャピタル・マネジメントにてファンド業務に従事。2012年から住宅事業ユニットに異動し、用地取得、商品計画、計数管理などを行う。