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が語るこれからの経営課題

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「感動」を生み出すヤマハ発動機の経営戦略 〜 PwCコンサルティングと語る、逆境でも成長を続ける経営術と新DX戦略とは

時代を見極め、コロナ禍で最高益を更新

下山:はじめに、僭越ながら設楽さんに対する第一印象の話からさせてください。設楽さんとの出会いはいまから1年とちょっと前。赴任されていたインドからお戻りになった際に日髙祥博社長を交えた3人の場でご挨拶させていただきました。非常に冷静に物事をお考えになられたり判断されたりする反面、人や組織のあり方、インドでのバイク事業や北米におけるマリン事業の話になると、ものすごい熱量でお話をされる。「イノベーションへの情熱を胸に、お客様の人生を豊かにする、期待を超える価値と感動体験を提供します」という強い思いが込められたブランドスローガン“Revs your Heart”のイメージそのものであるという印象を抱いた記憶があります。

さて、新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大した際、製造ラインの停止や物流の寸断など、製造業にも大きな影響がありました。そんななか、ヤマハ発動機は最高益を更新し続けています。その要因は何だと思われますか。

設楽:まず前提として、コロナ禍で多くの人が「人生の何に価値を置くか」を考え直したと感じています。そして、そのような状況のなかで、私たちの製品やサービスが心や生活を豊かにしてくれるのではないかという、お客様の心に触れる部分があったのではないでしょうか。

ヤマハ発動機が、ブランドスローガン“Revs your Heart”を打ち立てたのは2013年にさかのぼりますが、「Rev」はエンジン回転を上げる、わくわくさせるという意味で、「イノベーションへの情熱を胸にお客様の人生を豊かにし、期待を超える価値と体験を提供する」という決意を示しています。それから約10年、このスローガンを体現することで、世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する「感動創造企業」を目指し続けているのですが、その考えに基づいた経営・事業を、コロナ禍において一層加速させた、というのが功を奏したのではと考えています。

設楽 元文 ヤマハ発動機取締役上席執行役員

設楽 元文

ヤマハ発動機取締役上席執行役員

1986年にヤマハ発動機入社。経営企画ブランド戦略担当、マリン船外機の事業部長、企画財務本部副本部長などを経て2018よりインドグループ社長。22年より現職、全社共通の基盤改革をリード。

下山:「人生を豊かにし、期待を超える価値と体験を提供する」と本気で考え、そして行動する企業が生み出す製品やサービスは、一消費者として非常に魅力を感じます。“Revs your Heart”の精神が、ヤマハ発動機の製品やサービスに明確に反映され、それがお客様を惹きつけていると理解しました。その一環と理解していますが、近年、モーターサイクル(二輪車)から船外機、そしてボートや水上バイクに至るまで、より嗜好性が高い製品セグメントへ注力されてきたと認識しています。それも功を奏したのではないでしょうか。

設楽:そのとおりです。一例として私がインドに赴任していたころの話をさせていただきます。インド事業は、長い間赤字が続いていました。かつて、日本製品が無条件で受け入れられていた時代においては、二輪車は、高品質とお求めやすい価格、サービスによってお客様と信頼関係を築いていくことで、世界中でマーケットシェアを獲得することができました。当初はその成功体験をインドにも持ち込み、工場を建てて大量生産に乗り出したのです。ところが、すでに地場のメーカーが大量に競合品を販売し、市場を押さえていた……。

価格だけでは勝負できず、新たな戦略の立案を強いられたとき、私たちの製品が進出初期段階から、「非常にエキサイティングである」という評価を現地のお客様から頂いていたことを思い出しました。そこに立ち戻り、安全性や耐久性に加え、性能とデザイン性を追求した高価格帯・高付加価値型のビジネスに資源をシフトしたのです。それによって、相当数のお客様から熱烈な支持を得られるようになり、インドでのビジネスは一気に好転しました。

ビジネスの転換点は、時代を見極めるタイミングにあると思います。インドにおいて可処分所得の高い人の統計を取ると、欧州でのスポーツモデルの売り上げを凌駕できるボリュームがあることに気づきます。つまりバックデータに基づいた計算をすれば、そこに投資するリターンは必然的に算出できたのです。そういう経営判断に“Revs your Heart”の精神・行動が相まって、コロナ禍においてかえってお客様からの支持を集めることができた。そして、こうしたことをインドだけでなく各方面で実践できたことが、好業績の要因と言えるでしょう。

下山:インドのお話になると、いつも設楽さんの瞳の中に炎が宿りますね。二輪だけでなく、マリン事業やロボティクス事業も好調ですよね。

設楽:はい、例えばマリン製品には2つの分野があります。1つは欧米を中心とした、余暇を楽しんだり心の豊かさを求めたりする高付加価値の趣味材。もう1つは、ASEANやアフリカの漁村の人たちに使っていただくような、生活の手段としての商材です。そして後者は現地の人々のライフスタイルそのものを変えるほどのインパクトをもたらしています。

以前は、漁村の人たちは手漕ぎの木造船で漁場まで通っていました。ご想像の通り、そのような船ではあまり遠くまで行けませんし、漁場に出た後に海や大きな湖が荒れると多くの方が命を落とすような状況だったわけです。そこに、私たちが船外機を持ち込み、漁の仕方そのものを変えたのです。すると、漁場が広がって漁獲高が一気に増え、漁村の人たちの生活は飛躍的に豊かになり、嵐で帰れずに死亡するような事故も激減しました。一部の漁民の方々の間ではエンジンは家宝になっているほどで、漁から戻ると船から取り外して、家の祭壇に飾っていただいているケースもあります。

このエピソードも、「人生を豊かにし、期待を超える価値と体験を提供する」という価値提供の1つだと思っています。ロボティクスビジネスはB to Bですし、商材もやり方も違うのですが、同じ考え方に則って進めています。

迅速に正しい判断を下し、実行するための新戦略「Y-DX」「YNS」

下山:さて、事業の話から目線を少し変えて、マネジメントやコーポレートの話を少しさせてください。あくまで一般論ですが、ヤマハ発動機のような巨大でグローバルな企業グループは、事業や業務機能を高度に細分化・専門化する必要に迫られることが多いですよね。そういう細分化・専門化は、必要だからやっている一方で、それが行き過ぎると、組織や情報がサイロ化されてしまいがちです。そして、そのサイロ化の結果、マネジメントやコーポレートとして必要な情報が必要なタイミングで手に入らなくなることがままあると感じています。設楽さんはこの点、どのようにお考えでしょうか。

設楽:当然ながら、必要な情報を必要なタイミングで入手できることは極めて重要です。モノづくりにおける意思決定を例に挙げると、製品にもよりますが、製品企画から開発、生産・マーケット展開まで約3年のリードタイムが必要なケースもあります。つまり、お客様に私たちの製品・サービスを使っていただく3年以上前に、投資判断をしなければなりません。

さらに、言うまでもないことですが、過去と現在の情報だけでなく、今後のマーケットの見通しや、私たち自身がモビリティやロボティクスのマーケットをどのように創造していくのかという戦略も、意思決定の重要なパラメータです。そう考えると、ミニマムでも過去と現在の情報が必要なタイミングで入手できないという状況は、何が何でも避けるべきだと考えています。

下山:私はコンサルタントとして多くの日本企業とお仕事をさせていただいていますが、必要な情報が必要なタイミングで入手できない要因として、業務制度や業務プロセス、そしてITシステムに「精度を求め過ぎる」という国民性の影響もあると思います。一例を挙げると、DX推進プロジェクトで日本企業の業績管理システムを刷新する際に現状調査をすると、ほとんどの場合、報告資料を作成するために膨大な数の社員が多大な時間を使い、数字の精度を上げようと努力されていることが分かります。それ自体は否定すべきことではないのですが、結果的に業務が多くなってしまい、仕組みも重厚長大になってしまう。さらに皮肉なことに、経営判断・事業判断をするための情報をタイムリーにあげるという本来のあるべき姿から、どんどん遠ざかってしまっている印象を受けます。

下山 真太郎 PwCコンサルティング上席執行役員 パートナー

下山 真太郎

PwCコンサルティング上席執行役員 パートナー

大手コンサルティングファームを経て、2015年にPwCコンサルティングに入社。20年超にわたり、幅広い業種の業務プロセス・システム改革プロジェクトを経験。海外ロールアウトやオフショア開発管理の経験も延べ15年以上。現在、Finance Transformation部門を統括。

設楽:私たちのビジネスにはたくさんのパラメータが存在します。精度の高い情報を収集し、正しい情報に基づいた正しい判断をする力は非常に重要ですが、過去と現在の情報に軸足を置いて判断する癖がつき過ぎていると、どうしても従来のやり方に固執する結果にもつながります。そうすると、イノベーションに対する抵抗感が生じてしまう。

それに加えて、いろいろな商材をさまざまな国・地域で展開していく過程で、それぞれの国・地域・事業ごとに仕組みの最適化および分散化が進んでいると、グローバルで最適な判断をするための情報が集まりにくくなる、という逆説的な現象も起きてきます。

10年先、20年先を見据え、グローバルのあらゆる情報を統合した迅速な意思決定が必要な時代、そのような状態ではヤマハ発動機として「人生を豊かにし、期待を超える価値と体験を提供する」ためのタイムリーな判断が困難になると考えています。

下山:ヤマハ発動機では、そのような迅速な判断をするために、22年に「ヤマハモータービジネスダッシュボード(YBD)」をローンチしましたね。日本や北米、欧州、アジア、中南米にあるヤマハ発動機の全拠点の経営情報を一元化し、可視化する仕組みです。私たちPwCコンサルティングがグローバルで支援しているプロジェクトが「YNS (Yamaha Motor to the Next Stage)」ですが、YBDはその先駆けとなる仕組みでした。

設楽:YNSは、私たちの新中期DX戦略の柱の1つです。DXは「Y-DX1」「Y-DX2」「Y-DX3」と3つのレイヤーにカテゴライズして取り組んでおり、そのなかで「Y-DX1」(グローバルレベルで最適な意思決定をするための基幹系業務・システムの刷新)は、下山さんを筆頭にPwCコンサルティング中心で支援していただいている領域です。会計業務の標準化に留まらず、販売物流や生産調達を含む会社全体の基礎体力を上げるための標準化・スリム化を目指しており、現在、日本のみならず北米・欧州でもPwCと一緒に改革を推し進めています。

そして、「Y-DX1」の成果を「情報資源化」するなど、具体化するための攻めの施策が「Y-DX2」です。これは現業を強くするためのデジタライゼーションで、工場のさらなるIoT化やコネクテッド製品の開発、お客様とよりつながるためのeコマースやデジタルマーケティングが該当します。

最後に、「Y-DX3」は将来をつくるための取り組みで、データ取得に関する外部との連携を進めることで、お客様の体験価値を最大化するための仕組みを構築します。つまり、基盤だけではなく、その上に2層、3層というレイヤーを積み上げながらデジタル変革を進めています。

DX戦略

下山:現在、私たちPwCコンサルティングが集中しているのは「Y-DX1」です。決して平たんな道のりではなく、文字どおり毎日の創意工夫が必要な難しいプロジェクトですが、私も、ヤマハ発動機側のプロジェクト最高責任者の小藤智志フェローと一心同体になって、必ず成功させるという決意で取り組んでいます。

設楽:ありがとうございます。その心意気は心強いです。ただ、一点だけ注意していただきたいことがあります。私たちがコンサルタントと一緒にプロジェクトを進める際、当社にシンパシーをもって接していただくようになると、あまりに近づきすぎて発想や行動が同質化してしまいがちです。なので、あえてある程度の距離を保ちながら厳しいことを指摘していただくほうが、私たちにとってはありがたい。下山さんをはじめPwCコンサルティングの皆様には、今後も身になるご意見をいただければと思います。

下山:心得ました。“Cool head, but warm heart.”で進みます。そのうえで、攻めの施策である「Y-DX2」「Y-DX3」でも皆さんに貢献できるのが、私の目標です。

改革を進める際に、人・組織・サステナビリティとどう向き合うのか

下山:さて、ここまでDXの話をしてきました。ただ、詰まるところ、DXは目的ではなく手段ですから、デジタルを通じて自社をどのように変革し、社会にどのような価値を提供していくか、つまり「デジタルを活用して何を実現したいのか」という指針をトップが常に持ち続け、それを関わるステークホルダー全員にトランスペアレントに知らしめ続けることこそが肝心だと考えます。

設楽:おっしゃるとおりです。冒頭で申し上げた通り、私たちは「感動創造企業」ですから、DXの最終的な目的は、感動というサクセスをお客様がきちんと得られることです。そのためにお客様から必要な情報をいただき、提供価値とお客様の満足を最大化するためのエクスペリエンスをお客様に還元していくのです。さらに、それを短期間で効果的に実現するためには、自らの業務効率や生産性を格段に向上させる必要があると考えています。話が戻りますが、PwCコンサルティングに支援いただいている「Y-DX1」は、その意味で極めて重要なのです。

下山:ありがとうございます。強く意識します。

さて、最後に「経営改革やDX変革を成し遂げるために、経営は人と組織にどう向き合うべきか」と「ヤマハ発動機としてのサステナビリティへの取り組み」についてお聞かせください。

まず、「経営は人と組織にどう向き合うべきか」ですが、あらゆる変革を推進するにあたって、結局それを担うのは人と組織ですし、逆に変化を阻もうとするのもまた人と組織です。設楽さんが変化を起こすために意識されていることは何ですか。

設楽:非常によい問いですね。ヤマハ発動機が感動を創造することを目指し続けていても、日々の業務の積み重ねで知恵や習慣が身につくと、逆に「これをやってはいけない」というルールや制約が増えてきて、ついついチャレンジしなくなって、変革に後ろ向きになってしまいがちです。逆に言うと、変革を促すためには、社員のチャレンジを引き出すことが重要だと考えています。

具体的には、デジタルリテラシーの向上をはじめとする教育や、チャレンジの内容や成果を見える化するためのシステム刷新などに今後さらに力を入れていく予定です。一人ひとりのチャレンジをきちんと見極め、貢献にフェアに報いていくことが経営層には求められていると思います。

下山:なるほど。ただ、私がヤマハ発動機の多くの方々と数年間、毎日会話をさせていただいていると、職制や個々の責任範囲を超えて「ヤマハ発動機全体のために、必要だから誰かが動かなくてはならない」「だから自分がチャレンジするのだ」とおっしゃって、実際に行動されている方々をしばしば目にしています。その点は、僭越ながら非常に大きな可能性を感じますし、ヤマハ発動機の底力の1つなのだろうと感じています。

さて、チャレンジと言えば、ヤマハ発動機はサステナビリティに対しても挑戦を続けていますね。

設楽:当社は、1980年代から地球環境課題の解決に向けた取り組みを始めています。93年には世界初の電動アシスト自転車「PAS」を発売し、2002年には都市型電動コミューター「Passol」を提案しています。その後もゴルフカー、車いす、船外機など、さまざまなカテゴリーに電動化を拡大してきました。

現在、日本の都市部では原付や軽自動車に代わるモビリティとしてe-Bike(電動アシストユニットを取り付けしたスポーツ自転車)が成長を続け、欧州や米国ではそれがスポーツレジャーにもなって、新たな市場が拡大しています。2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向け、二輪車に加えてヤマハらしい新たなモビリティを提案し、「新たな価値」を提供し続けます。

下山:情熱を持ったモノづくり、DX推進、人財育成、サステナビリティへの取り組み……。今日お話を伺って、私自身があらためて感動しました。皆様の熱い思いと行動、そしてそれらをデジタルと組み合わせること、さらにヤマハ発動機の組織・社員そのものの可能性を解き放つこと。私たちも、さらに大きな貢献をさせていただき、ともに感動を実現したいとの思いを新たにしました。よろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

改革を進める際に、人・組織・サステナビリティとどう向き合うのか

promoted by PwCコンサルティング合同会社text by Roichi Shimizuphotographs by Shuji Gotoedit by Akio Takashiro

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PwC コンサルティングはプロフェッショナルサービスファームとして、日本の未来を担いグローバルに活躍する企業と強固な信頼関係のもとで併走し、そのビジョンを共に描いている。本連載では、同社のプロフェッショナルが、未来創造に向けたイノベーションを進める企業のキーマンと対談し、それぞれの使命と存在意義について、そして望むべき未来とビジョンついて語り合う。