一般的に、ディベロッパーは街を開発し、その街の床をテナントに貸し、賃料を得ることが事業の基本です。森ビルは、街の魅力を高めるために床を貸すだけでなく、自らコンテンツを生み出していくことも非常に重要だと考えています。「teamLab Borderless」は、文化施設単体のプロジェクトで、規模も非常に大きかったため、事業化にあたり多々ハードルはありましたが、成功を信じプロジェクトを進めてきました。
『呼吸するランプの森−ワンストローク, Metropolis』──「teamLab Borderless」の魅力を、広く世界に発信することにつながった作品。夢の中にいるような感覚になります。好きな作品なので閉館後にひとりで佇むこともありました(杉山)
黒澤:森ビルの六本木ヒルズや森美術館のケースとは少し違うのでしょうか。
杉山:大規模な開発事業においては、文化事業など公共的な役割をもつ施設は、街のなかに組み込むことで経済的なメリットの恩恵もあります。六本木ヒルズと森美術館はそういう関係ですが、「teamLab Borderless」は文化施設単体の開発であり、コンテンツ事業に乗り出すという側面でも、森ビルにとっては初めてのケースでした。他社でも事例はないのではないかと思います。
当初、社内でも安定収益を得られる賃貸事業ではなく、リスクのあるコンテンツ事業を展開することについて賛否はありましたが、そこを突破できたのは大きかったですね。WEBの世界ではプラットフォーマーであれば、ビジネスのスキームを多様化することで、新たなコンテンツを生み出し、ほかのところでマネタイズするみたいな仕組みがありますよね。リアルの世界でも同じです。森ビルは街のプラットフォーマーとして、リアルな社会でそれができる立場じゃないかなと思います。
黒澤:「teamLab Borderless」は常設のミュージアムとして、初年度から来場者数だけでもすごい数字を叩き出して。もう見事に杉山さんの狙いが的中して、ビジネスとしても大きな成果が出たことと思います。
杉山:チームラボと森ビルとで共同事業体をつくり、展示作品の企画や施設運営まで、すべてを2社で相談しながらやってきました。ミュージアムをつくるには大きな投資が必要です。いま振り返ってみると、映像機材など含めると大きな投資になりましたが、それによって圧倒的なクオリティの作品世界をつくることで、たくさんの人の心を動かすることができ、結果、初年度230万人の来館者を記録することに繋がりました。
黒澤:文化施設としては驚異的な成績ですね。
杉山:いやもう、本当にありがたいことです。これらの実績が後押しとなり、23年に、森ビルが手がける虎ノ門・麻布台プロジェクトに「teamLab Borderless」が移転することになりました。このプロジェクトは六本木ヒルズに匹敵する規模の大型の都市開発なんです。