次のフェーズとして、国内におけるISAの一般化、さらにはアジア諸国を中心とした海外展開へ動きだすという。そのビジョンに迫る。
“出世払い”で教育の機会を平等化
学費ローンの返済が深刻な社会問題になっているアメリカで、新しい契約モデル「ISA」が急速に拡大している。直訳すれば「所得分配契約」。受講開始から卒業までにかかる学費(教材費など一部除く)を必要とせず、初期費用なしで授業を受けることができる。学生は卒業後、就職または転職で一定の収入を得られるようになったとき、給与所得に応じて一定の割合で受講料を支払う。つまり、学生を就職させることがゴールではなく、業界で活躍する人材を育てて初めて収益化するため、スクール側の本気度も質も違う。一方、受講する側からすれば、費用面で諦めていた学びの機会を、質の高い教育機関で得られるというメリットがある。
このISAを日本で初めて導入したプログラミングスクール「CODEGYM」を運営しているのが「LABOT」だ。代表取締役の鶴田浩之は言う。
「ISAはコンセプトが美しく、スクールと学生が金銭面でとてもフェアな関係を築くことができます。『ローン』というより『投資』の発想で、誰もが平等に学べる機会を提供することを目的としています。テクノロジー領域の人材育成は急務であり、ISAとプログラミングスクールの相性のよさや、質の高いスクール設計ができた自負から『CODEGYM』が生まれました」
ISAの普及を加速させる
「人の可能性に投資する」をミッションに開校したCODEGYMは、着実に実績をのばしている。卒業生のなかには、SODA(アプリ「スニーカーダンク」の運営会社)に内定が決まった者、高校在学中にサイバーエージェントに決まった者、自衛官からエンジニアにキャリアチェンジした者など、受講前と後で人生が大きく変わった者は少なくない。学齢職歴不問を謳い、就職や転職の道を開き、高度なIT人材を輩出し続けている。だが、CODEGYMはあくまでISAを広めるためのファーストステップにすぎない。
昨年10月にCFOとして門前太作が加わったことで、LABOTは次なるフェーズに入ったという。門前は、約20年のファイナンス、会計面での幅広いキャリアをもち、海外でのM&AやESGをテーマとした環境ビジネス、上場企業でのCFOの実績もある。
「ESGの観点からLABOTの事業は意義深く、中長期的に社会にインパクトを与えられると感じてジョインしました」(門前)。
動きだしたのは、自社で培ったISAの仕組みを提供するプロバイダー事業だ。ISAの普及に向け、一部の教育機関とビジネススキームの構築を進めるなど実証実験を水面化で進めてきたが、それを本格的に始動させる段階に入ったのだ。
ソリューションビジネスへ転換
「インサイドセールスやWebマーケターなど時代とともに新たな職種が増え、細分化しています。加えてコロナ禍によって働き方も多様化しているいま、もっと幅広い職種のスクールや既存の教育機関でISAが使えるようになるべきだと考えています。実際、世界的にもISAは拡大傾向にあってまさに黎れい明めい期。格差社会が深刻な国や人口増加傾向の国で、教育へのアクセスを容易にする手段としてISAは有効です。その規模は国内の比ではなく、ISAの可能性が広がっています」(鶴田)
「日本においては、まずは金融リテラシーの面からISAが根付くかどうかの実証実験の継続は必要です。というのもISAを採用した教育機関の課題が資金繰り。膨大な資本金がないと実装はできず、卒業した学生のCRM(顧客管理)などオペレーションも複雑です。今後設立する社会的投資ファンドを通じた調達資金で、教育機関向けにISAの金融サービスを提供しながら、複雑なISAのオペレーション支援もSaaSで展開することで、教育投資のエコシステム実現を目指していきます」(門前)
ISAの仕組み
学生は、初期費用や受講費用を用意することなく、教育を受けることができる。その後、就職や転職によって収入を得られるようになったときに、給与収入から教育機関に支払う、いわば出世払いのような仕組みだ。
事業の鍵を握る
教育投資のエコシステム
LABOTは、投資家や教育機関、事業者での知見共有を目的とした業界団体を設立し、「ISA Education FUND」を中心とした、教育への社会的投資のエコノミクス構想を描いている。すでに100%出資の子会社「EduWork」を通じて、ISAを採用したテックセールス養成スクール運営会社へ出資した実績があり、この規模をファンドで一気に拡大して市場を生み出そうというのだ。
「海外展開では、自前でやるかM&Aで連携するかを含めた事業戦略を立てているところですが、国内から海外へ事業をスケールするためにも、ファンドを軸に各国のプロバイダーとなる業者との連携も必要です」と門前は語る。そのためにも鶴田が「LABOTの最終目的」とするのが教育とフィンテックをかけ合わせた教育投資のエコシステムの構築だ。
「ISAEducationFUNDは、テクノロジー人材を育てる里親的な貢献ができ、サステナブルなファイナンスとしてとらえることができます。寄付ではなく人材投資、教育投資のエコシステムを実現させるためには、法的規定や情報開示など確たるガイドラインの策定も必須です。ひとつの産業を生み出そうとしているわけですから、ステークホルダーを含めて、理解者をひとりずつ増やしていくことから始めていきます」(鶴田)
国内で初めてISAを導入し、それを産業として拡大するべく国内外でプロバイダー事業を展開する。日本での新たな市場創出も期待できるLABOTの挑戦はいま、始まったばかりだ。
ISAを社会インフラにする、教育ファンド構想
教育機関がISAを採用するには、資本金、資金繰り、顧客管理、複雑なオペレーションといった難しい課題がある。その部分をLABOTが支援することで、教育機関は教育面に注力できる。また、LP投資家は人材を育てる里親的な貢献ができる。
LABOT
https://labot.inc
鶴田 浩之◎LABOT代表取締役CEO。慶應義塾大学在学中に20歳で創業し、大学生向けアプリ「すごい時間割」を開発、2014年に事業売却。その後、ゲームエイトを設立し月間1億PVに成長させる。渋谷・道玄坂での書店プロデュースや、IPO前のメルカリに参画しグループ会社執行役員に就任してCtoCサービスを企画、開発、PMとしてプロデュースするなど、その活躍は多岐にわたる。10年後・20年後を見据えた教育事業を手がけるため、LABOTを設立。
門前 太作◎LABOT取締役CFO。CFA、CPA。慶應義塾大学卒業後、ArthurAndersen入社。英Cambridge大学でMBA取得後、米系投資銀行にてクロスボーダーM&Aや資本調達のアドバイザリー業務に従事。その後、メーカーの経営企画で海外事業開発を主導、オイシックス・ラ・大地ではCFOとしてキャッシュマネジメントシステム導入や自社株買い等を実施。20年にわたり国内外で培ったコーポレートファイナンスと会計の知見をベースに財務戦略の策定・実行を手がける。