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2022.03.18 11:00

日本ならではの循環型社会の実現とは サステナビリティ対話シリーズVol.3

左:小松 みのり 中央:株式会社fog 代表取締役 大山 貴子 右:菅野 暁

左:小松 みのり 中央:株式会社fog 代表取締役 大山 貴子 右:菅野 暁

アジア有数の資産運用会社、アセットマネジメントOneが、社外の有識者と対話を通じて学びを重ねる「サステナビリティ対話シリーズ」。多様なステークホルダーとのサステナビリティに関する対話を通し、そこから学び、得られた示唆を同社の取組や資産運用に活かすことを目的に2020年7月よりスタートした。

毎回のホストを務めるのは、菅野暁社長。今回は株式会社fog代表取締役の大山貴子をゲストに迎えた。循環型社会の実装に向け、地域や企業と連携しながらコンサルティングやワークショップ開発などを行う立場から、持続可能なビジネスのあり方について話を聞いた。

司会進行は、サステナビリティ推進室の小松みのり室長が務めた。

(本記事はアセットマネジメントOneのホームページに掲載された記事の転載です。)


転機はブルックリンの生活風景


小松:大山さんは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)に向けた活動を進める実践者です。まず、このテーマに関心を持つに至ったきっかけについて教えていただけますか。

大山:もともと宮城の山奥で育って自然と共生する環境が身近にあったということも原点なのですが、一番のターニングポイントはアメリカに留学した後に日本経済新聞ニューヨーク支局で働いていたときに暮らした街、ブルックリンの生活風景だったと思います。ブルックリンは地産地消を大切にする街で、地元で育てたオーガニック野菜をコットンバックで買うのが当たり前の環境でした。

店頭に並ぶ生鮮品には「ここから○km圏内で採れました」と明記されていて、アパートの2ブロック先には都市農園があって。そこでは毎週末、生ゴミを回収してくれるんです。「自分たちが食べたものが肥料となってまた野菜に循環される」というサステナビリティの実践を、とても心地よく感じていました。10年前の話です。

菅野:ブルックリンは非常に先進的な取り組みで知られていますが、大山さんはそこで実際に暮らしていたんですね。

大山:ところが2015年に帰国してショックを受けました。何にショックを受けたかというと“選択肢の乏しさ”にです。例えば、食肉を買う際にも、アメリカでは「ホルモン剤不使用」「牧草飼育」といった選択肢があるのに、日本の場合は明確に分かるのは産地の違いくらい。選択肢が可視化されていないことが怖くなって、一時は肉を食べられなくなったほどでした。

以後、ビーガンカフェを始めてみたり、フードロスなど「食の課題」の解消への取り組みから始めました。そして行き着いたのが、未来に向けた安心安全な選択肢を増やす「サーキュラーエコノミー」や「循環型社会」という概念です。代表を務めるfogでは「循環型社会の実現に向けた“ほにゃらら”をつくる会社です」と説明しています。



菅野:つまり、一つの手法に限定せず、さまざまなアプローチを提案するという意味ですね。

大山:はい。「サーミュラーエコノミーを実装するためのコンサルティングをします」というと、「事例を紹介してください」と聞かれることが多いのですが、海外の先進事例がそのまま日本に当てはまるとは限りません。

例えば、国土の大半が埋立地でゴミ処理場も少ないオランダと、国土の70%を森林が占める日本とでは、取るべき手法も違うはずなので。その国や地域にあったサーキュラーエコノミーを探すには、まずは人の意識から変えていく土台づくりが重要になると感じてきました。今は特に組織開発に力を入れています。

菅野:どのくらいの規模の企業の組織開発を支援していらっしゃるんですか?

大山:あまり大きな組織をいきなり変えるのは難しいので、まずはプロジェクトベースから関わることが多いですね。感覚的には、すぐに目に見えた変化を起こしやすいのは300人くらいの規模でしょうか。

まずはその企業がサステナブルや循環を軸に経営を行いたい場合、企業が持つ既存の価値を紐解きながら新しい視点や変化のタネを発掘していただき、未来に向けたビジョンを描き、行動を促します。最近は、地方自治体の組織や市民に向けたコミュニティ開発にも携わっていまして、10万人程度の人口規模の地域でうまく回り始めています。

自律分散型の組織開発を


菅野:当社の従業員数は約1000人。昨年春からサステナビリティ推進室を設置し、「投資の力で未来をはぐくむ」というコーポレート・メッセージを新たに掲げて社内の意識改革を進めていますが、やはり足並みを揃えていくには相当の努力が必要だなと感じているところです。どのようなアプローチが有効なのでしょうか?

大山:自律分散型の仕組みをつくっていくことが効果的だと思います。昨年の事例として、島根県の雲南市で、持続可能な未来に向けた行動指針をつくるお手伝いをしたのですが、10人くらいの地域の有力者の方々にヒアリングをして行動指針の土台をつくりました。本年度は、この行動指針を普及させるために各地域でコミュニケーターを育成し、市民同士の相互理解を深める担い手になってもらう予定です。

雲南市には概ね小学校区単位で構成さえている30の地域自主組織と呼ばれる住民で組成された組織があり、それぞれの地域で異なる特性があるからこそ、他地域との対話や課題感を共有するきっかけになるようなツールが必要でした。コミュニケーターには行動指針を使ったワークショップなどを通じて、地域の隅々にまで「自分は雲南市の一員である」という当事者意識を広げる活動をしてもらっています。

菅野:上から伝えるだけでは足りない。スローガンを解釈して趣旨を伝えていく人を増やしていくという発想ですね。

大山:企業の取り組みとして参考になるのはメルカリさんの例です。同社では、海外のメンバーが増えてきたタイミングで、社内のサステナビリティの意識差が課題になったそうです。海外メンバーが「どうやったら日本人の社員の意識を変えられるか」と考え、実際に始めたのが「マイマグカップをデザインするワークショップ」。ペットボトル飲料を1年間買い続けることで積算されるCO2排出量など情報を伝えながら、好きなマグカップを作るというイベントの力でそれまで無関心だった人も巻き込んでいったのだと聞きました。

小松:ワクワクするような楽しみの演出をするのがポイントなのですね。



菅野:「ペットボトル禁止」と社長が言うより、ずっと効果がありそうです。

大山:マイマグカップを使う人が増えるほど、ペットボトル派の行動も変わっていき、やがて組織全体の意識が転換されていく。そんなきっかけを、日常の随所に作ることが大切ですよね。やはり内側からの意識改革がないと、組織は変わりません。私たちが組織開発をする際にも、まずは社内で意識の高いリーダーを数名ほど育成し、その人たちがどんな行動をしたらいいのかを提案・推奨していく形で伴走していきます。時間はかかりますが、効果は持続します。

菅野:表面的な変化を急いだところで、すぐに元に戻ってしまいますよね。じっくりと、でも着実に変わっていく方法を選ぶことが大事なのだと再認識できました。



ヒントは日本のものづくりに


小松:先ほど、海外事例をそのまま取り入れても必ずしも成功しないのだというお話も興味深く伺いました。「日本ならではの循環型社会の実現」とはどのようなものだと思いますか。

大山:日本の伝統的なものづくりに、そのヒントがあります。日本で昔から受け継がれてきたものづくりを見直してみると、そのほとんどが木や土といった天然素材から作られ、いずれ自然に帰る環境保全型のシステムで成り立っています。

「サーキュラーエコノミー」という用語がここ数年で急速に注目され、その発信源は海外にあると思われがちですが、実は私たち日本人がもともと持っていた生活文化から学べることはたくさんあるんですよね。自然と深くつながる日本のものづくりを深く見直し、アップデートする視点に日本独自の循環型社会のあり方があるのではないでしょうか。とはいえ、「前近代の世の中に戻す」というのは現実的ではありません。現代の生活様式や経済の仕組みにあった新しい形を模索する必要があると思います。

菅野:まさにそのバランスが重要であり、難しい点だなと日々思索しているところです。実は今、持続的な社会実現のための重要度、経済的なインパクトという意味での重要度という2つの軸で課題を整理した「マテリアリティ・マップ」を独自に制作しているんです。すると、両軸の視点で重要なテーマが気候変動や生物多様性といったテーマであることが見えてくるんですね。

しかしながら、いざ課題解消に向けた実行を進めようとすると、今度はトレードオフの問題が出てきてしまう。例えば、「温暖化を抑制するために太陽光発電事業を推進したら、開発する場所の生物多様性が損なわれるのではないか」という問題です。これをどう調整していくかというステージにまで、日本も早く追い付かないといけませんね。

大山:つい「AかBか」という二元論的に考えてしまいがちですが、少しずつ変えていく意識でやっていくしかないのだと思います。大きなビジョンを描きながら、足元でできることを一つずつ進めていくロードマップを作るという意識で。

菅野:課題があまりにも大き過ぎて難しいからと諦めてしまうのか、ちょっとずつでも歩みを進めていくのか。どちらを選ぶかによって、きっと10年後の世界は随分違ってくるのでしょうね。しかしながら、正直、知れば知るほどに途方に暮れるときはありませんか。大山さんはどうモチベーションを保っているのか知りたいです。

大山:私もよく途方に暮れそうになりますよ(笑)。そんなときは、「身近な生活の中で循環型社会を実践して、小さな喜びを得る」というアクションを心がけます。今年の春から移り住んだ東長崎という町では、昭和の頃の温かい地域交流がまだ息づいているんです。肉や魚、野菜は地元で愛される個人商店で、持参した容器を差し出して「これに入れてください」と買える。お豆腐屋さんもいつもおまけしてくれて、大丈夫かな?と心配になるくらい(笑)。



菅野:昔ながらの風景がまだ残っているのですね。

まずは身近で小さな循環から


大山:マンション前の家庭菜園での栽培にも参加しているのですが、道を通りかかる地域の人たちとの交流も自然と生まれます。これは私にとっては「半径200メートルくらいの圏内で、暮らしを完結させてみよう」という挑戦。循環型社会の先進国の一つ、スウェーデンのイノベーション庁が実験的に始めている「ワンミニッツシティ」(1分以内の距離で、地域のサステナブルな暮らしが実現できる街づくり)という発想にも近いですね。大きなビジョンの達成度を考えて「まだまだ足りない」と絶望的な気持ちになりかけても、“身近な地域の小さな循環”の中にある自分を確認して幸せを感じるように意識しています。

菅野:「まずは自分ができることを」と行動することが大事なんですね。私たちも、自ら実践するコーポレートサステナビリティを重視しています。例えば、入居しているオフィスビルのオーナーに交渉して、ここで使う電力を再生エネルギー由来に切り替えていただいたり。決して大きな成果ではないかもしれませんが、自分たちが実践して初めてESGの当事者になれますし、投資先企業にエンゲージメントをする場面でも実感のこもった言葉を発せられると思うんです。

大山:素晴らしい取り組みだと思います。私も常に実践者でありたいという気持ちでいますし、「机上で理想ばかり連ねるコンサルタントにはなりたくない」と考えてきました。御社の社員の方々が「自分たちのオフィスをサステナブルな環境に変えようとしている」と誇りを持つことで、お客様やステイクホルダーとのコミュニケーションにも変化が起きるはずですよね。さらにその人たちが家族に伝えたりと、影響が伝播していく。自分を中心に円状に波が立ち、徐々に広がっていくように。それが個人や企業ができる最も確実な行動ではないかと私は思います。

小松:無理なく続けられる行動であることも大切なのでしょうね。



大山:仲間と一緒に「野趣」というチームを立ち上げて、周りに責任を委ねながら活動を広げていくチャレンジも始めています。メンバーはもともと仲の良い友人たちで、不動産開発のプロやランドスケープデザイナー、シェフ、PRなど。それぞれの力を持ち寄って共同体として拠点開発をする取り組みです。秋田県の五城目町でツリーハウスを中心にした循環型町づくりをお手伝いしたり、再生マテリアルを活かしたラボ兼オフィスを開発したりと、複数のプロジェクトが動いています。試行錯誤しつつではありますが、同じ思いで未来を描ける人を増やしていく挑戦です。

菅野:外に対して開いてつながることで、新たな連携もどんどん生まれていくのでしょうね。

大山:そうですね。大学と連携する計画も現在進めています。誰と、どの地域で、どこに対して波及効果を生み出していくのかを意識していきたいと思っています。

菅野:大きなインパクトをいきなり目指すのではなく、各地に点在する小さなインパクトがつながっていく。そんなイメージを目指すといいのかもしれませんね。



大企業の果たすべき役割とは?


菅野:もう一つ、大山さんに伺いたい質問があります。大企業が環境に配慮した行動を打ち出すケースも以前より増えてきたと思うのですが、どういう印象を持たれていますか。

大山:正直、難しい面が多いと感じています。「大量生産大量消費」を前提としたビジネスモデルと循環型社会は、決して相性がいいと言えないので。もちろん素晴らしい事例もあると思いますが、矛盾が生じるケースも少なくないと感じています。例えば、リサイクル衣料を推進するアパレル企業の取り組みを視察に行ったときには、回収する素材に制約条件があったり、再生後の衣服の仕上がりが不十分であったりと、細かな問題点が気になってしまいました。

菅野:我々投資家が備えるべきは、企業のサステナビリティを見極める目なのでしょうね。資本主義社会を発展させながら、持続可能な地球環境をつくるにはどんな投資行動であるべきか。厳しく問われる時代になっていくのだと感じています。

大山:経済成長もしていかないといけないときに、何を選択していくのか、企業の行動が注目される時代になっていくのだと思います。御社を含め、ESG投資を行なっている運用会社の目論見書を拝見すると、いわゆるGAFA系のグローバル企業の名前が挙がっているのが少し意外でした。

食料問題を解決するベンチャー企業などに投資がされているものだと想像していたのですが、そうではないのだと。世界の流通を網羅する大企業が環境負荷を低減する取り組みをしているのは知っていますが、大量生産に加担している時点でネガティブな側面も内包しているのではないか?と疑問を感じてしまいました。



菅野
:ESG投資にもいくつか種類がありますが、現在の日本で先行しているのはESGインテグレーションというものです。投資の意思決定プロセスにおいて、ビジネスモデルや財務諸表の分析だけでなく、ESG分析も体型的に組み込むというもの。

一方で、社会課題解決を明確な目的として掲げて特定の企業や事業に投資するのがインパクト投資と呼ばれるものです。大山さんがイメージしているのは後者が近いと思うのですが、残念ながら日本ではまだ進んでおらず、欧州で先行しています。日欧の違いは何かというと、企業のディスクロージャーが非常に明確だという点です。欧州には環境への貢献に対する情報の開示に熱心な企業が多いんです。

大山:その違いはなぜ生まれるのでしょうか?

菅野:やはり政策が一貫しているかどうかでしょう。欧州では、サステナビリティを目指す政策をもとに、教育をはじめとする公共投資が積極的になされ、社会全体が足並みを揃えて動いています。すると企業もその方針に沿った事業計画を立てられるし、思い切った投資ができる。その先に企業価値が向上する未来図が描けるから、投資家も躊躇なく投資を決められるわけです。結果、循環型社会がスムーズに実装されていく。

つまり、日本の課題は政治にあるという結論になるわけですが、その政治とは何かと突き詰めると、我々国民の一人ひとりの意思ですよね。やはり、個人ができる小さなアクションが重要だということになるのだと思います。



大山:おっしゃるとおりですね。私や私の会社ができることは本当にささやかですが、諦めずに小さな変化を起こし続けたいと思います。小さくても確かな変化を。影響を与えられる人や地域を少しずつ広げながら、波を生む。その波がいつか対岸にある大きな岩にも届くはずだと信じているんです。

菅野:私たちもアジア最大級の資産運用会社として果たすべき役割を考え、波を生み出していきたいと思います。お客様からお預かりした大きな資金の力を未来につなげられるように努力を続けていきます。

大山:変革を推進するのは、やはり人。人の意識を変えることでしか、社会は変わらないと実感しています。希望は感じています。「2015年にアメリカから帰国したときにショックを受けた」とお話ししましたが、この6年の間に日本の風景はずいぶん変わりました。ショッピングバッグを持参する消費者がこれだけ増えるとは、当時は想像できませんでしたから。私たちには、社会を変える力があるのだと希望を持って進んでいきたいと思います。

菅野:視野が広がる対話をありがとうございました。大きな波を起こせる存在になれるよう、私たちもチャレンジを続けていきます。


左から山内麻衣子(サステナビリティ推進室)、宮本恵理子(担当ライター)、fog徳田加奈子さん、fog代表取締役大山貴子、小松みのり(サステナビリティ推進室長)、菅野暁(社長)、安齋雄輝(サステナビリティ推進室)


大山 貴子(おおやま たかこ)◎株式会社fog 代表取締役。米ボストンサフォーク大にて中南米でのゲリラ農村留学やウガンダの人道支援&平和構築に従事、卒業。ニューヨークにて新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2014年に帰国。100BANCH入居プロジェクトとしてフードウェイストを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、株式会社fogを創設。循環型社会の実現をテーマにしたプロセス設計を食や行動分析、コレクティブインパクトを起こすコミュニティ形成などから行う。

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Promoted by アセットマネジメントOne サステナビリティ推進室 / 構成:宮本恵理子 / 写真:INTENSE.INC 金城匡宗