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2022.03.08 11:00

企業におけるパーパスの役割とは サステナビリティ対話シリーズVol.1

左:小松 みのり 中央:「エシカルペイフォワード」プロデューサー 稲葉 哲治 右:菅野 暁

左:小松 みのり 中央:「エシカルペイフォワード」プロデューサー 稲葉 哲治 右:菅野 暁

アジア有数の資産運用会社、アセットマネジメントOneが、社外の有識者と対話を通じて学びを重ねる「サステナビリティ対話シリーズ」。多様なステークホルダーとのサステナビリティに関する対話を通し、そこから学び、得られた示唆を同社の取組や資産運用に活かすことを目的に2020年7月よりスタートした。

毎回のホストを務めるのは、菅野暁社長。今回は「エシカルペイフォワード」プロデューサーの稲葉哲治をゲストに迎えた。持続可能な社会実現のキーワード、「エシカル」とは何か。「Z世代」「ミレニアル世代」と呼ばれる若い層の価値観にも詳しい視点からも話を聞いた。

司会進行は、サステナビリティ推進室の小松みのり室長が務めた。

(本記事はアセットマネジメントOneのホームページに掲載された記事の転載です。)


エシカルペイフォワードとキャリア


小松:稲葉さんは、「エシカル男子の会」を主宰されるなどSDGsの分野で多方面にご活躍されていて人脈も非常に広くいらっしゃいます。当社でLGBTについての講演を開催した際にも、当事者の方をご紹介いただきました。現在はエシカル商品を取り扱うセレクトショップも運営されていますね。

稲葉:はい。「エシカルペイフォワード」はお店の名前ですが、僕の肩書きはプロデューサーです。社会とのつながりを深められるモノを紹介するだけでなく、持続可能な働き方やお金、セクシャリティのあり方といった様々なキーワードでイベントやブランド開発をしています。高校生や大学生、いわゆるZ世代(1990年代以降生まれのデジタルネイティブ世代)と一緒に、これからの社会をどう作っていくかを考える場づくりをするのが主な仕事です。前職では「日本の人事部」というメディアで、企業人事向けの情報発信をしていました。

菅野:「ペイフォワード」とは印象的な言葉ですね。どのような意味があるのですか?

稲葉:正確な語法は「ペイ・イット・フォワード(pay it forward)」。「恩送り」という意味です。例えば、ここが食堂だとすると、菅野さんが食事をした代金は前に食べた人がすでに支払ってくれている。菅野さんが支払うのは次に来る僕の食事代で、僕はまた次に来る小松さんの食事代として支払う。本当にお金に困っている人はお金を払わなくてもいいし、ゆとりがある人は2倍払ってもいい。

つまり、現在は過去からの恵みによって成り立つもので、その恩は未来に返していく。未来に恩を送る行動が自分にしてくれた人へのお返しになり、その姿を見せることで次世代がさらに未来をつなぐ行動を生んでいく。今この瞬間を生きるのではなく、過去と未来へのつながりを想像しながら行動するという価値観を込めて、「ペイフォワード」という言葉を使っています。

菅野:お店で扱っているのは、特定のブランドではなく、エシカルの考え方に沿ったいろいろな事業者の製品を紹介しているのですね。

稲葉:おっしゃるとおりです。流通経路の透明性が高く、適正価格で取引がされた、いわゆる「トレーサビリティ」の信頼性が高い事業者の製品を扱っています。今日、僕が着てきたYシャツも、インドのオーガニックコットン製のものです。履いているジーンズは、古着を回収して一度溶かして再生したスウェーデン製のもので、スニーカーはペットボトル再生繊維からできたもの。要は腰から下はゴミを着ているということになります(笑)。最近は「脱プラスチック」の流れを受けて、環境配慮型のエシカルファッションが増えていますね。ここ数年で、一気に商品数やブランドが出揃ってきました。

小松:今日は稲葉さんがいらっしゃるということで、私もエシカルファッションにチャレンジしてみました。小安美和さんという女性が運営するショップで購入した、インドの伝統技術「カンタ刺繍」のストールです。

稲葉:小安さんはリクルートで執行役員を務められた方ですね。僕もエシカルのお店をやりながら人事コンサルタント業も続けていまして、「サーキュラーHR」というメディアも立ち上げました。モノの市場だけでなく、労働市場においても「人材という資源もサステナブルに長く活躍できる仕組みをつくりたい」という思いがあります。よく考えてみれば、資源の中で人間だけなんですよね、年を重ねるごとに価値を増していくのは。その非常に特殊な資源をいかに使い捨てにせず、循環型のサイクルを作っていけるか。社会全体が直面している大きなテーマにも取り組んでいきたいと思っています。



社会に対して正直であること


菅野:私自身のキャリアを振り返ると、1982年に銀行に入行し、今日まで38年。うち23年は資産運用ビジネスに携わってきたんです。当社は4つの会社が合併してできた会社ですが、前身、さらにその前身の会社も含めると、私はここで働くのは3回目なんです。一度目は86年から93年までファンドマネジャーとして7年間、二度目はDIAMという会社の企画のヘッドとして、そして社長として戻ってきたのが今回の三度目になります。トータルすると経歴の3分の2を資産運用業務が占めるのですが、その仕事内容はこの30年余りの間に大きく変わったなと実感しますね。

稲葉:興味深いですね。どのように変わったのですか?

菅野:私が最初にファンドマネジャーをやっていた80年台後半〜90年代というのは、バブル絶頂から崩壊までの時期です。当時は投機目的で巨額のお金が動く現象が当たり前にあり、投資の本質的価値を果たせていないことにジレンマを感じていました。特に違和感を抱いたのは、昭和天皇崩御の直後に製紙・印刷関連の株が上がったこと。

元号が変わることで印刷物の流通量が増えるのを見越した株式売買の結果だったわけですが、人の生死に関わることで株式市場が動くという事実にどうしても疑問を感じてしまいました。ですので、バブルが崩壊した時には実は少しホッとしたんです。

「ようやくまともな世界に戻るんじゃないか」と。実際、時を経て企画部長として資産運用の業務に戻ると、ずいぶん変化を感じられましたね。ちょうど銀行系運用会社にも投信の扱いが認可されたタイミングを受け、「個人のお客さまの資産をどう増やしていけるか」という実直な議論ができるようになったことが嬉しかったのを覚えています。

その後、再び銀行に戻り、そして今回、社長として戻ってきた時にはさらに前向きな変化を感じられました。「ESG投資を運用会社として後押ししよう」といった社会的な役割が重視されるようになっていたのです。この方針は前社長が決めたことですが、社長を引き継いだ私も是非伸ばしていきたいと考え、中長期の計画を策定しました。

稲葉:数十年かけての時流の変化の中で、キャリアを積んでこられたのですね。

菅野:そうですね。実際にやってきたこととしては、我々運用会社ができる社会的責任として、投資先企業のESG、つまり、Environment・Social・Governanceの3点をエンゲージメントするアクションを強化してきました。その方針自体は揺るぎないものなのですが、「何かが足りていないな」という不足感が常にあったんです。

投資先企業には「環境への配慮はしていますか」「女性活躍は進んでいますか」と働きかけるものの、さて、振り返ってみて自分たちはどうなのか、と。女性の取締役を増やす、あるいは再生エネルギーの利用率を高めていくのにどんな障壁があるのか、当事者として理解しながら乗り越えていく。その実感がなければ、投資先企業と足並みを揃えていくこともできないだろう。そう考え、社長直轄のサステナビリティ推進室を今年4月から設置しました。



稲葉:素晴らしいご姿勢だと思います。未来に向けて自ら変わろうと行動することそのものが、社会へのメッセージになります。「女性管理職を30%まで増やします」と目標を掲げた後に、それがなかなか進まなかったとしても、それは事実として仕方がない。その事実を隠さず、「どこまでできたのか、できなかったのか」を正直に開示することが求められる時代なのだと思います。隠し通すことは難しい時代になったとも言えますね。

菅野:なるほど。不十分な形であっても、やろうとする姿勢を見せることに意味がある。

稲葉:おっしゃるとおりです。少しでも前進があれば、堂々と自慢していただきたいです。日本企業は謙虚すぎると思います(笑)。特に若い世代は、企業が正直であるかを厳しく見ていますね。最近の事例として、高校生がお菓子メーカーに「過剰包装をやめてほしい」とインターネット上で要請するという出来事があったんです。

その時に、唯一きちんと回答したのがブルボンでした。「食品衛生上のハードルがあるが、自分たちとしても環境問題には最大限取り組みたい。ここまでの努力は実際にしてきた」と正直に表明したことで、社会的評価をかえって上げた。あるいは、バイオメーカーのユーグレナは昨年から公募で10代のCFO(最高未来責任者)を募集し、初代は18歳、2代目は15歳という若さで話題になりました。

若い視点を取り入れることで、「なぜ未来のための商品開発をしている会社なのに、プラスチックストローを使っているんですか?」といった議論が促進されたのですが、1年かけてできたことはストローを選択制にするという着地点だったようです。

菅野:実際にやってみると課題がたくさんあるはずですからね。

稲葉:はい。でも、できないことも含めて全てオープンにコミュニケーションしていくことで、協力してくれる仲間も増えていくはずなんです。



若い世代の志向と彼らへの期待


小松:ミレニアル世代、Z世代と呼ばれる若い層ほど、企業が社会に向いた姿勢であるかを重視しているということは、採用の場面でも感じていました。一方で、理想に到達するまでの難しさをどこまで引き受ける覚悟があるのかなとも。せっかく高い意識を持っていても、いざ企業の中で働き始めて意欲を失ってしまうとしたら残念ですよね。



稲葉:理想を掲げることはもちろん大事です。しかし、実際にやるとしたら亀の歩みですし、高い壁に直面することも多い。現実と理想のギャップを知って挫折感や不信感を抱いてしまう。そんな若者を僕もたくさん見てきました。いわゆる「エシカル就活」の挫折です。非常にもったいないですよね。

菅野:エシカル就活という言葉も興味深いですね。

稲葉:今申し上げたように挫けてしまう学生も多いのですが、先ほどのお話で、運用会社である御社がより社会的な視点を重視するようになったという経緯を伺って、僕は希望を感じました。

エシカル就活に積極的な学生は、マザーハウスやパタゴニアといった「分かりやすくエシカルを表明し、エシカル商品で稼いできた会社」に意識が向きがちなのですが、実は「表面上は見えづらいけれど、エシカルに変わろうとしている会社」のポテンシャルは非常に大きい。つまり、「飯が食える会社をいかにエシカルにしていくか」という視点で見渡してみると、選択肢は一気に広がります。

そこまでのしたたかさと覚悟を備えている若者はなかなかいないかもしれませんが、会社は完成品ではなく、未来に向けて常に変化していくものであると認識できるだけで、自分が何かしら貢献できそうな気持ちになれると思うんです。今は微々たる成果しか挙げられなかったとしても、「いつかきっと」と諦めなくて済むはずですから。

菅野:いつか実現したいという思いを持ち続けるだけでなく、言葉にしていくことも大事ですよね。

稲葉:先ほど菅野さんがおっしゃった「三度目の今が一番、自分の使命感に近い仕事ができている」というお話は、きっとエシカルにつながる仕事を志す若者たちにも響くと思うんです。1年、2年やってみてうまくいかなかったからといって諦めるのではなく、長いスパンで気持ちを持ち続けることが大事。短期的な目標をやり抜いて終わりではなく、時に力を抜きながらも緩急をつけてやり続けるという長期的視点です。

すぐに結果が出なかったとしても、とりあえず目先の仕事に集中しながら“時”が来るのを粘り強く待っていたら、いざという時にアクセルを踏むことができる。そんな予感を示してあげられたら、希望を捨てずに済む人は多いと思うんです。



菅野:確かにそうかもしれないですね。

会社と個人の関係性とパーパス


菅野:経営方針の中にもできるだけ具体的な施策として、サステナビリティやフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を練り込んでいく必要があると私は考えています。そうしなければ、結局は言っていることとやっていることが分離して、絵空事になってしまう。

稲葉:社会貢献を経営計画の中に練り込みやすい時代になってきていることは間違いないと思います。人間だって、頭で考えている構想と実際の行動が矛盾すると、疲れが溜まって長続きしません。同様に企業も、理念と行動を一体化させていく努力が必要ですね。

菅野:そこで私たちがこれまで以上に固く社内で共有したいと思っているのが「パーパス」。私たちは何を成し遂げるための存在なのかという目的意識です。例えば、ミッションの中にある「お客さまのしあわせ」という言葉一つとってみても、「お客さま」とは誰なのか、「しあわせ」とはどういう状態を指すのか、もっと綿密は定義づけは必要です。あるいは、同じくミッションの中にある「社会経済の発展」の「発展」とはどういう発展を意味するのかも考えなければいけません。



稲葉:パーパスは、最近の人事領域で非常に注目されている概念ですね。

菅野:そして、このパーパスは、経営陣が会議室で決めて発表する形では決して機能しないと私は考えていますので、時間をかけて社内でディスカッションする機会をつくっています。皆で考え、皆で共有できたパーパスがあれば、今後新しい事業を始めようとした時にも「これはうちのパーパスに合っているのか」という視点に立って議論ができる。

仮に足元で利益が出にくい事業だったとしても、「将来的には顧客・株主・社会のすべてに還元できる価値を生み出せる」と判断できれば挑戦する。そんな時の目線合わせにパーパスは不可欠だと考えています。特にこの春以降にリモートワークの導入・浸透が進んでからは一層、同じ場所で顔を合わせなくても「自分たちは何のために働いているか」と常に確認できる拠り所の重要性は増しています。

稲葉:同感です。社屋という物理的な場所に皆が集まらなくなった時には、社員一人ひとりの頭の中に会社という概念をつくることが必要になります。そして、それがまさにパーパスなのだと思います。

エシカル活動も同じで、特定の商品を選んで買う行動そのものというより、「私はこういう価値観を大事にして社会と関わっています」といった、その人なりのやエクシス(倫理)を自分の中に持つことに意味があると理解しています。その軸によって、日々の買い物や働き方、人付き合いなどのあり方が影響されていく。企業におけるパーパスも「迷った時にはここに立ち返る」という軸の役割を果たすものですね。



小松:先日、USAの拠点長の話を聞いたのですが、あちらは日本よりも厳しい外出規制が長く続いていることもあって、よりパーパスの必要性を感じたそうです。これまでは「会社」という言葉を聞いてオフィスビルを浮かべる人が多かったかもしれませんが、今回のコロナによる働き方の変化を機に、「会社はビルにあるわけではなく、一人ひとりの中にあるものなのだ」と多くの人が気づいたはずです。会社がどうあるべきかを考えることは、すなわち会社に属す個人がどう生きるかというテーマと直結するような気がします。

稲葉:まさにそうだと思います。今後は会社と個人の関係性もよりフラットに、雇用ではなく契約に近い関係になっていくとも言われています。ではそんな時代における会社とは何かと突き詰めると、「目指したい未来や価値観を共有する人の集まり」ではないでしょうか。単なるプロジェクトではなく、一人では到底達成できないような大きな夢を成し遂げるためのつながり。パーパスは、会社と個人の間の新たな関係性を築く上でも欠かせないものだと思います。

菅野:日本企業が長年培ってきた雇用の関係を抜本的に変えるのはまだまだ時間がかかるでしょうし、課題も山積みですね。ただ、当社としても人材という資源を長く生かせる環境をつくっていけるよう、時代の変化に応じた新しいチャレンジを支援する機会はどんどん提供していきたいと考えているんです。例を挙げると、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関するプロジェクトを新たに立ち上げてメンバーを募ったりしています。

これも、初回はなかなか手が挙がらなかったのですが、2回目の募集では20人くらい立候補してくれました。会社としても本腰を入れる姿勢が伝わったのかもしれませんね。やはりメッセージを継続的に出し続けることの重要性を感じました。


小松:最後に、稲葉さんが当社に期待する社会につながるアクションについて教えてください。

稲葉:社会がエシカル、サステナビリティに向かう過程において、運用会社が果たす役割はとても大きいと感じています。資産運用は、まさにお客さまの未来をつくる道筋をつくる仕事。そして、その「お客さま」の定義をより広く捉え直そうとしているというお話にも希望が持てました。

Z世代もシニアも含め、どんな年齢層であっても、「より良い未来を迎えたい」という思いは皆持っているはず。世界最大級の投資運用会社であるアセットマネジメントOneの皆さんは、投資という重い一票を行使できる当事者です。ぜひ社会を前向きに進めるアクションを続けていただきたいと願っています。

菅野:励みになるエールをありがとうございます。社会的責任を果たせる運用会社として貢献できるよう、これからも皆さんの力を借りながら進んでいきたいと思います。


左から小松みのり(サステナビリティ推進室長)、山内麻衣子(サステナビリティ推進室)、宮本恵理子(担当ライター)、稲葉哲治、菅野暁(社長)


稲葉 哲治(いなば てつじ)◎エシカルペイフォワード プロデューサー/サーキュラーHR編集長/NPO法人GEWEL理事/ 環境省TJラボ インキュベーター 開成中学・高等学校、東京大学進学から一転、中退して社会的ひきこもりを経験。セゾングループにてNPO協働の新規事業等を担当後、日立グループにて新規人材事業、若者キャリア支援会社起業、人材コンサルタントを経て、日本最大のHRメディアにて人事コミュニティ運営に従事。 現在はダイバーシティ&インクルージョンを推進するNPO法人GEWEL理事、サーキュラーエコノミー×人事・働き方で「人材ロスゼロ」を目指すメディア「サーキュラーHR」編集長等として活動。ソーシャルビジネス、社会活動にもパラレルで関わり続け、2012年からはエシカルを中心とする。エシカル商品のセレクトショップ「エシカルペイフォワード」(2016年開店)のプロデューサーとして、世界各地で作られたフェアトレードやアップサイクルのファッションや脱プラスチックの生活用品などをお届けする他、ブランドやZ世代の育成、人事・教育・セクシュアリティ等とかけあわせた新たなエシカル領域の発信等を行う。

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Promoted by アセットマネジメントOne サステナビリティ推進室 / 構成:宮本恵理子 / 写真:INTENSE.INC 金城匡宗