1992兆円ある個人金融資産のうち、純金融資産で1億円以上を保有する富裕層の資産規模が333兆円(野村総合研究所調べ)。この限られたマーケットに対して、国内外の金融機関がプライベートバンキングサービスを提供している。その中でもLGTは資産10億円以上を主な顧客対象としている。
世界的に見ても「金持ち国」と言われる日本だが、ことプライベートバンキングサービスにおいては、多くの外資系金融機関が苦戦している。古くはシティバンクの日本撤退があり、HSBCは日本のプライベートバンキング事業をクレディ・スイスに売却。三菱UFJメリルリンチPB証券(後の三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券、2020年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券と合併)は、メリルリンチが三菱UFJフィナンシャル・グループに株式を売却して、日本市場から撤退した。
LGTウェルスマネジメント信託は、外資系金融機関としては、10年の空白期間の後日本におけるプライベートバンキングサービスへの新規参入となる。この長い10年は外資系金融機関のプライベートバンキングビジネスにとって、試練の時期だったとも言えるだろう。
世界的に見ても富裕層の人口が多いと言われる日本なのに、なぜプライベートバンキングサービスが苦戦を強いられたのか。その理由について、永倉氏は次のように説明する。
「日本の場合、プライベートバンカーがお客様に付き添いながら資産管理を行うというカルチャーがありませんでした。そのため、海外の富裕層向けに行われているプライベートバンキングサービスをそのまま日本に持ち込んでも馴染まない部分がありましたし、そもそも本当の意味でのプライベートバンカーが少なかったので、人材採用面でも苦戦しました。さらに申し上げると、日本特有の規制による参入障壁があり、伝統的な日本の金融機関による市場独占力が強かったことも、特に外資系のプライベートバンキングサービスが苦戦した背景と考えられます」
日本でも求められているLGTの長期投資術
こうした環境の中で、なぜ今、LGTウェルスマネジメント信託は、日本に拠点を開設したのだろう。永倉氏は続ける。
「まず、グローバルな流れの中でアジアに対する関心が高まっている、という点が挙げられるでしょう。世界第3位の経済力を持ち、富裕層人口も多い日本に注目するのは当然の流れと言ってもいい。また国際金融都市・東京構想のもと、外資系金融機関を日本に参入しやすくするための規制緩和が進んだのと同時に、経済情勢・金融環境の変化によって、日本の富裕層のマインドセットも変わりつつあります。そのため、日本におけるプライベートバンキングビジネスの可能性が広がりつつあると判断したのです」
応接室にはリヒテンシュタイン公爵家ゆかりの絵画が飾られているほか、社内には美術品コレクションが並ぶ
2008年のリーマンショック以降、中央銀行は積極的な金融緩和政策を続け、今やゼロ金利どころかマイナス金利さえもが常態化している。資産管理・運用の環境は厳しい。
「スタグフレーションのリスクが浮上し、中国のクレジットリスクも高まってきました。もはや過去の投資ロジックだけでは、長期的に資産を保全するのが困難であることに、保守的な日本の富裕層も気付き始めています。これからは資産を守るうえで、ポートフォリオにプライベートエクイティ(未公開株式)やデジタル資産、不動産、絵画をはじめとする美術品など、さまざまな資産に分散させるだけでなく、ESGの基準を用いて投資先を選別していく必要があります」
ここ数年、投資の世界ではESGがブームになっているが、リヒテンシュタイン公爵家がファミリーオフィスとして蓄積してきた資産管理や運用のノウハウには、実は昔からESGの観点が取り入れられてきたのは知られざる事実だ。900年という長きにわたり、一族の資産継承を実現してきた根底には、ESGの哲学が脈々と流れていたのである。
顧客サイドに立ったプライベートバンク
LGTウェルスマネジメント信託の母体となるLGTは、国立銀行として1921年に営業を開始した。1929年の世界的な経済危機で財政難に陥ったところを、リヒテンシュタイン公爵家が大株主となって救済。以降、リヒテンシュタイン公爵家の銀行として、リヒテンシュタイン公爵家の資産管理・運用を行うのと同時に、そこで得られた超長期的な資産運用のノウハウを、プライベートバンクとして世界中の富裕層に提供している。
「厳密に言うと、プライベートバンキングとプライベートバンクは別物です。前者は巨大銀行の一部門でプライベートバンク的な業務を行うものですが、我々は文字通りのプライベートバンク、つまり純粋なオーナー会社であり、オーナーの資産管理・運用が主業務になっています。この違いは非常に大きいものです。前者の場合、収益を上げなければ株主からプレッシャーがかかるので、顧客のためにならないと分かっていても、銀行の収益を優先させなければならず、顧客との間で利益相反が生じてしまう恐れがあります。対して我々はリヒテンシュタイン公爵家がオーナーであり、一族の資産管理・運用に用いられているメソッドをお客様に提供しているので、プロダクトプッシュ型の営業をしなくてもビジネスが成り立ちます。結果、お客様との間で利益相反が生じにくいのです」
しかもLGTでは、トップマネジメントでさえもが、プライベートバンカーとして顧客を担当しているため、必然的に顧客本位の経営が行われるようになる。昨今、日本の金融機関には「顧客本位の業務運営」が求められているが、LGTでは古くからそれを具現化してきたのだ。
78歳になっても必要とされるバンカーがいるわけ
そして顧客本位であるがゆえに、いたずらに規模を追求しないのも、LGTウェルスマネジメント信託のこだわりだ。
「私たちは、リヒテンシュタイン公爵家の名を汚してはならないという、インターナルな価値観に基づいてビジネスを行っています。なぜなら、リヒテンシュタインという国家を運営している一族のファミリービジネスだからです。一般的な金融機関の場合、何か不祥事が生じた時は、その責任者を更迭してすべてを終わりにできますが、我々は一国の元首の名のもとに行っているビジネスですから、どこにも逃げる場所がありません。そのため、いたずらにビジネスの規模を追求するよりも、自分たちの目の行き届く範囲でビジネスを行うことを優先しています」
永倉氏はプライベートバンカーとして長いキャリアを持っており、「この日本の中にあるべきプライベートバンクのサービスを実現したいと思って仕事を続けてきた」と言う。その答えが、LGTウェルスマネジメント信託にあるのだろうか。
「入社する前に言われていたことが、いざ入社してみたら全然違っていたというケースは往々にしてありがちです。しかしこの会社に関しては、すべてが聞いていた通りでした。そのくらい、裏表のない組織と言えると思います。
また、グローバルのシニアマネージメントも自分の顧客を持っており、本社には78歳で現役のプライベートバンカーが第一線で働いています。役職が上がったから現場を離れるというのではなく、生涯いちプライベートバンカーとして、長年にわたって顧客の資産管理に関わっているのです。これは、プライベートバンカーとして理想形のひとつと言えますし、お客様にとっても安心してファミリーの資産管理をお任せいただける要素のひとつとなるのではないでしょうか」
プライベートバンクは、顧客との長期的な関係性を何よりも大事にする。顧客であるファミリーの資産を守ることが、プライベートバンクにとって唯一無二の存在意義だからだ。そしてLGTウェルスマネジメント信託は、この日本という国に強いコミットメントで参入してきた。今後ファミリーアセットの守護神として、強い味方になるはずだ。
LGTウェルスマネジメント信託株式会社
https://www.lgt.com/asia/jp/
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