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マーケティングの視点で、ヘルスケア領域を変革する
医療・ヘルスケア業界は大きな変革期の最中にある。従来方式の構図・常識では通用しなくなってきた現状と業界に起こりつつある変化を、得丸は以下のように解説してくれた。
「かつては一強のブロックバスター薬(年間売上高10億ドルを超える大型医薬品)を、大人数のMRが営業活動を行うことで製薬会社の収益を支えるという仕組みがありました。近年はそうした大型薬よりも、生活習慣病のように複数薬を組み合わせた総合的なアプローチが市場を支える形に変化しています。そのために医師にMRが与える情報は増え、数多い薬から選ばれるための製品ブランディングが、より重要な役割を担うようになっているのです。
さらに希少疾患用薬にも画期的な新薬が続々登場しているのですが、ニッチな領域だけに必要なところに必要な情報が伝わりにくいという問題を抱えています。
そうした状況では、忙しい医師にMRがプッシュして情報を理解してもらうよりも、必要なときに必要な情報を簡単に取り出せるプル型(引き出し型)の情報形態のほうが望ましい。そのためのテクノロジーの力が必要になってきています」
日本のヘルスケア領域は法規制などのさまざまな制約や制限があり、まだまだテクノロジーの力を十分に活用できていないのが現状だ。
しかし、得丸は、この医療・ヘルスケア業界の現状は打破できるという。デジタルマーケティングという異業種からの視点を融合すれば、製薬業界の規制や慣習を逆手にとったアプローチや座組みが創出できると考えているのだ。
「電通アイソバーがヘルスケア領域に着目したのは、製薬会社向けに患者のソーシャルメディアの分析を行う機会があり、ペイシェントジャーニー(一連の患者体験)の可視化・分析を試みたことが発端です。マーケティングではカスタマージャーニー(一連の顧客体験)を最初につくるのが通例になっていますが、ヘルスケア業界においては、製薬会社が患者の実情を把握しづらいという現状を知りました。ユーザーを知らずにプロダクトをつくるというのは、マーケティング視点ではあり得ないことです。しかし、通常、製薬会社は間接的に、医師を通じて薬を提供するまでしかフォローできない。医師が患者に処方した先の、患者の体験を直接フィードバックしてもらう手立てがないという状況でした。
大切なのは、よりよい患者の治療体験です。患者の情報をもっと知ることで得られるものがたくさんあるはずです。もちろん開発時の臨床試験でもデータを取得しているとは思いますが、それに加え、患者が実際の生活においてどのようなペインポイントがあるのか、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)はどこまで向上したかというデータを入手できれば、これまで患者が仕方ないと諦めてしまっていた慣習的な治療生活もよりよい体験として提供できる可能性があると思います。
そのためには患者のデータを集めなくてはならないし、活用しやすいシステムも構築しなければならない。デジタルマーケティングの領域から患者の治癒に向けた可能性を高めることができるかもしれない。そうした想いが私たちのヘルスケア領域への進出につながったのです」
その得丸の想いを実現する手段となるのが、電通アイソバーが強みとする顧客視点を起点とするCXデザインだ。
よく似た言葉にウェブサイトやアプリなどのプロダクトに対する直接的な使用感を対象としたUXデザインがあるが、CXデザインはさらに包括的に、顧客の一連のタッチポイントをまとめてコントロールする。プロダクトだけでなく、人同士の接点やリアル店舗までも含めてオーガナイズすることで新しい体験を構築するものである。
そのベースは、顧客体験をデータにより総合的に把握するところから始まる。ヘルスケア領域ならば、それは患者体験の把握ということになる。それでは、ヘルスケア領域におけるCXデザインとはどういったものなのか。以下に例を挙げよう。
02/03
ペイシェントジャーニーを把握することで、よりよい創薬が可能に
ヘルスケア領域を見渡してまず、得丸が気づいた問題は、製薬会社がカバーしている治療体験が非常に限定されているということだった。グローバルでは製薬会社も“薬を売る”から“患者を健康にする”へと、視点を大きく変えているにもかかわらず、日本ではまだまだ薬の提供に限定されているように思えたのだ。
「患者は治療のあいだ、薬を飲んでいるだけではありません。さまざまな生活習慣とともに日常生活を過ごしているのです。長期にわたる治療が必要な糖尿病などの生活習慣病や禁煙治療は普段の摂生も重要です。薬は必要ですが、それだけで治すことは非常に困難ですから。
すぐに治るものでもないので、長期にわたるフォローも必要です。普段どのように摂生しなくてはならないのか、どうすればモチベーションを下げずに毎日を過ごせるのか、そうした情報提供とともに適切なアドバイスが患者には必要なのです」
そのために薬と併用するモバイルアプリやWebサービスなどを開発し、長期にわたって患者の治療に伴走し、患者の快復状況やその時々の状態のデータに応じて適宜コミュニケーションを行う。“治す”ための複合的なCXデザインベースのアプローチを行うことで、治療の精度を高めていく。それらすべては、患者データの収集・管理によるペイシェントジャーニーの把握があって初めて、可能になることである。
「患者一人ひとりに寄り添う医療を目指すのであれば、従来のように、薬の開発や医療現場のニーズを起点とするだけでは不十分です。顧客視点、つまり患者視点ですべてを組み直すことで治療は大きく進化するはずなのです。
私たち電通アイソバーは、最先端デジタルマーケティングのノウハウにより、企業へソリューションを提供するのが専門です。かつて私たちが行った航空会社のサービスの組み替えの例を挙げてみましょう。従来は旅行のために航空会社に電話して予約、空港のチケットカウンターに出向いてチケットを受け取り搭乗するというバラバラの工程をユーザーが行っていました。
しかし顧客体験を分析すれば、ユーザーは本来旅行が目的で、そうした一連の面倒はなるべく避けたいと思っていることがわかります。だったらLINE上でワンストップに実行できるようにすればいい。これが、CXデザインの視点からの改革です」
03/03
マーケティング・エキスパートによる支援で、医療の未来を共創する
得丸は、製薬のプロである製薬会社とマーケティングのプロである電通アイソバーがチームとなることで、それぞれ単独ではかなわない、まったく新しいソリューションをデザインできると考えている。
それを得丸は「HACS(Healthcare And Customer Solution)」と名付けた。メディカル専業ではない電通アイソバーだからこそ、CXデザインのフレームワークの下に、慣例にとらわれない生活者視点のソリューションを提供できるのだという。
ではHACSとはどのようなものなのか。それは以下の3つの約束に集約される。
データによるUnknown Needsの可視化
各患者のペイシェントジャーニーを、データから紐解くことで、Unknown Needsを探り当てます。改善の余地があるがまだ見えていない患者の欲求を見える化し、患者本人さえまだ気づいていないニーズまで掘り起こしていきます。
FrictionlessなUX設計
患者が治癒というゴールに向けて進む道を可能な限り邪魔しないことも大切です。
そのためのFrictionlessな(障害のない)インターフェイスをテクノロジーの力で構築していきます。ペイシェントファーストのCreative
私たちが企業活動を支援するうえで重要視しているのは、クリエイティブの力を活用して、治療体験に楽しさや親しみやすさを付加する作業です。どんなに正しいことでも、楽しくないことを人はやりたがらないものです。医療においても、モチベーション高く治療に臨んでもらうために、患者のエモーショナルに訴えかける必要はあるはずです。モチベーション高く治療に臨んでもらうために、クリエイティブの力を使う。メディカル分野以外で効果を上げてきた手法を応用することで、患者体験を感情部分から刷新するのです。
ヘルスケアにデジタルマーケティングの視点を加えれば、医療の未来が書き換わる。得丸のビジョンは明快だ。
「とはいえHACSはまだ生まれたばかりです。その全貌は、まだ未知数。ただペイシェントファースト(患者第一)/ペイシェントセントリック(患者優先)を念頭に置いた改革を試行錯誤することで、無限のソリューションが生まれてくると確信しています」
さらに得丸は、医療の理想の未来を描くためには、ヘルスケア領域内での連携だけに止まってはいけないと指摘する。
「課題解決のためには、領域外も含めた協業が鍵になるでしょう。例えばウェアラブルデバイス(着用するタイプのデジタルデバイス)、先進のセンシングテクノロジー(感知器技術)をもつメーカーなど、さまざまな分野の企業をスカウトすることも分野外からやってきた私たちだからこそ容易い。
そうして領域を越えたスーパーチームでしっかりと患者に向き合うプロダクトサービスを生み出せたとしたら、日本の医療現場に革命が起こるはずです」
プロフィール
得丸英俊(とくまる・ひでとし)◎電通入社後、営業局勤務を経て、1990年代後半よりデジタル領域にフォーカスしたマーケティングプランナーに。2009年に電通レイザーフィッシュ(現・電通アイソバー)代表取締役社長に就任、現在に至る。
2021年2月19日(金)開催 「ペイシェント・セントリックな視点がビジネスを変革させる。CX時代の”ヘルスケア×デジタルマーケティング”」
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Promoted by 電通アイソバー │ 清水りょういち 文 | 後藤秀二 写真 | 高城昭夫 編集