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2021.01.18 11:00

金沢発、先端技術とデザインで伝統を進化させるseccaとは

職人、アーティスト、デザイナー。それぞれの視点から導き出す多角的な発想のもとに、食と工芸の街、金沢を拠点にものづくりに取り組むクリエイター集団がいる。secca(雪花)──彼らが洗練された感性を切り口に提案するビジネスソリューションの秘密に迫る。


江戸時代、加賀百万石とたたえられて栄えた金沢には、煌びやかな武家文化によって培われた金沢箔や金沢漆器、加賀友禅、九谷焼など、さまざまな洗練された伝統工芸がいまも息づく。

さらに加賀藩主、前田家に庇護され発展を遂げた加賀料理は、山海に囲まれ、かつ肥沃な加賀平野の広がるこの地ならではの豊かな食材を用い、食を芸術の域にまで高めたものとして、かの北大路魯山人をはじめ名だたる食通の間でも覚えがめでたい。

そんな金沢を拠点とし、2013年の創業以来、既成概念にとらわれない新しいものづくりの可能性を探求するクリエイター集団がいる。上町達也代表取締役社長が率いるsecca(雪花)だ。彼らは自分たちからの発信で、アートからプロダクトまでさまざまなものづくりを手掛ける。

洗練された感性を具象化するのは、時に伝統工芸の手法であり、時に最先端のテクノロジーや素材であり、完成した形には他に例を見ないような美しさがある。





またそうした感性や手腕、経験をもとに、他企業からものづくりのパートナーとして迎えられるコラボレーションプロジェクトにも目覚ましい実績をもつ。その代表格が、同じ石川県で食器雑貨をはじめ工業製品や仏具など、多彩なプラスチック製品を製造する石川樹脂工業(以下、石川樹脂)だ。

「祖父が創設した会社で自分も働くことになった時に、seccaの上町さんと出会いました。ちょうどその頃、自社ブランドをテコ入れしようということで、現取締役会長の父が手を組んでくれるプロダクトデザイナーを探していて、選ばれたのがseccaさんだったんです」



そう語るのは石川樹脂の専務取締役を務める石川 勤。同社の若き3代目でもある。seccaの代表を務める上町達也と会って、彼の提示する「新しい価値観」に触れ、目からウロコの思いをしたという。

「そもそもプラスチックのイメージが、俗に『プラスチッキー』と言われるように安物だったり、フェイクだったりといったネガティブなものだったのですが、それを打破するような、プラスチックでしかできない物づくりとは何なのか? というところを根本から考えてくれたんです。知らないうちに、自分たちもかけていた色眼鏡を外して、プラスチックの真のポテンシャルを再発見するような、そんな体験がありました。

また多くの日本の工業製品は、デザインを足し算のような形でどんどん足していくようなイメージがあったのですが、seccaの考え方は違いました。彼らが形にしてきたものは、どれもシンプルで普遍的なデザインばかり。そしてデザインを通じて、プラスチックだからこそ具現化できる新しい価値観があるはずだと言ってくれたんです。

対話を重ねた結果、一般的なイメージにあるような安っぽくて短命なものではなくて、長く愛し使えるプラスチック製品をつくるため、時代を超えて通じるデザインをつくろうという方向性になりました。そうして最初にできた製品がPlakira(プラキラ)ブランドの『ゆらぎタンブラー』だったのですが、まさにシンプルかつ普遍的なデザインで、それも職人による手仕上げだから工芸品のように美しく、しかもなめらかで薄い飲み口に仕上がりました。新素材樹脂トライタンを使用しているので、1000回落としても割れない強度があり、10年経っても20年経っても色褪せしません。食洗機も使えるし、耐熱性も100度あります。環境ホルモン非含有で安心、安全というところにもこだわりました。新しいプラスチックの形を見出してくれたことに、本当に感謝しています」

石川の話を黙して聞いてきた上町だったが、ここで嬉しそうに口を開いた。



「実を言うとプラスチックに対しては、はじめはすごくネガティブなイメージを持っていたんです。浅はかな情報だけで、樹脂=ケミカル素材で、すぐに捨てられゴミになり、自然分解されなくて、海洋汚染にも繋がっている──という風に思い込んでいたんです。だからこそ、これまではその逆の特性をもつ素材として、陶磁器やガラスなどに目を向けて使ってきました。

ところが石川樹脂さんと出会ったことで、プラスチックにも再生可能な素材があることや、焼き物よりも低い温度で生成できるから、結果としてCO2排出量がより少なく抑えられること、逆に焼き物は地球上に1万年ぐらい残ってしまう材料なので、壊れた後は埋めるしかないことなどを知りました。すると、総合的に判断して、シーンによっては、我々が身の回りのものに使うべきは、むしろプラスチックが適当なのでははないかと、180度まるっきり見方が変わったんです。そこで手を取り合って開発したのが、食を豊かにしてくれる『美しく、割れない食器』でした。我々の方こそ目を開くことができたわけで、今回の出会いには本当に感謝しています」

それを聞いて、石川はこう応えた。

「難しかったのは、プラスチックが本当は色々なプラス面をもち、多様な価値観を叶える素材であるにもかかわらず、そのことを商品化する際にどう見える化するかということでした。我々にとって、例えばガラスそっくりなフェイクをつくることはいともたやすいのですが、それを飛び越えた新しい価値観を提案するには、どうしてもseccaさんのようなデザインからソリューションを導き出してくれるような存在が必要でした。それは間違いなく言えることです」

デザインというソリューション。それがあると、ものづくりはどう変わるのか?石川に、社内でデザインするものとseccaがデザインするものの違いを尋ねてみた。

「seccaさんが試作品を出してくれた時の僕の評価軸というのが、プロダクトのコンセプトに沿っているかどうかというところだったのですが、Plakiraのゆらぎタンブラーはこれまでなかった丈夫なトライタン樹脂の素材を生かし、美しい透明で、飲みやすくて──というコンセプトにきちんと沿っていて、しかも普遍的なデザインに仕上がっています。





今年発表した新しいブランドARAS(エイラス)も、こだわりある人の普段使い食器というコンセプトなので、本当にそれが表現できているかをできるだけ客観視して、自分で納得するまでチェックしているという感じです。デザインの美しさに関しては、ただただ信用してお任せしています。むろん社内では、残念ながらこんなに美しいデザインは出てきません。もともと強靭なトライタン樹脂にガラス繊維を織り交ぜることで、比重を高めるとともにさらに強度を増し、表情としても造形としても自然なムラとゆらぎのあるARASのプレートは、従来の製品と違ってハイエンドレストランでも採用していただけるような、工芸品のような美しさに仕上がりました」





まずコンセプトを理解し、伝えたい価値観を見定めたのちに、機能性や耐久性といった要件をクリアしていく。seccaのデザインは見た目の形を扱うのではなく、むしろデザインによる課題解決に近いのではないだろうか。

「デザイナーの役割はまさにそこにあると思っていて、色や形をつくるという作業は、実際には全体の半分程度なんです。大事なのは、まずいかに世の中のためになるかを追求することです。使う人が潜在的にしか感じ取れていない欲求があると思うのですが、それと目の前に向き合っている素材、そしてそれを使いやすく美しい形に造形しビジョンを描くデザイナー、さらに加工する職人の力がうまくマッチングした時に、良いものができると信じています。

僕たちにとってデザインとは、イメージしている良い未来に繋がっていく道筋を見つけていく作業のこと。今回も、石川さんとの会話であったり、素材への理解であったり、世の中の理解であったりといったものを深めていった先に、ある意味、必然的に形ができてきました。デザイナーという職業は、課題解決というところが主たる役割だと思っています。自分の視点と技能を使って、世の中を少しでも良くする仕事だと」

上町はそう語る。

大量生産品の代名詞として語られてきたプラスチック製品。だが、seccaと石川樹脂のコラボレーションから生まれたPlakiraとARASのプロダクトには、ここ金沢の地に受け継がれてきた伝統工芸品のような手仕事の気配が、自然のなす業を思わせる「ゆらぎ」感を感じさせるデザインがある。



「『ゆらぎタンブラー』の底はちょっと肉厚になっているのですが、単に樹脂を金型に流し込むだけでできるわけではありません。素材の特性を最大限に引き出しながら、ひとつのものを成立させる陰には、想像を絶する努力の蓄積があるんです。我々のデザインを具現化するには、テクノロジーだけでは到底無理で、石川樹脂さんのもつ優れた人材の技能と経験がなければ成立しませんでした。それがなければ、我々のデザインは単なる絵に描いた餅だったんです」

そう話す上町に、石川が言葉を重ねる。

「底を肉厚にするのは、非常に難しいところでした。そもそもseccaさんが提案するデザインは、困ったことに技術的にはいつも難易度が高いんです。しかも、できるかもしれないギリギリを突いてくるところが、また小憎らしい。技術的にハードルが高いということは、いままで誰も見たことがなかった商品ができるということ。かつそれが、ただ目新しいものになるというだけでなく、普遍的なものになるという理解でやっているので、意味のあることだと納得して、毎回腰を据えて取り組んでいます。嫌ではないのですが、何で毎回ぎりぎりのところを突いてくるんだろうと思いますね。社の技術力が、お陰で実に鍛えられます」



皮肉も交え、笑いあう二人。その様子からは、互いに全幅の信頼を寄せ合っていることが容易に見て取れる。

「ゆらぎの肉厚の部分は、もちろん見た目の美しさだけが理由ではありません。トライタンという素材はガラスではありませんから、手にした時の軽さは安っぽさの印象に繋がってしまいます。それに、軽いがゆえに不安定ですから、なるべく重心を下げたかった。結果的に、それが見た目には自然な底の厚みとなって、高級感にもつながっていたりします。できるかできないかの瀬戸際を見極めながらの提案は、毎回スリリングです。我々は決して作品をつくりたいがだけの一発屋ではなくて、石川樹脂さんとは、もうかれこれ70アイテムぐらい商品化していますから。こうした蓄積はとても大事で、回を重ねるごとに完成の精度が上がってきています。そこも含めて、この取り組みは単なる受注仕事ではなくて、我々seccaにとっても、非常に有意義だと思っています」

頷きながら、そう語ってくれた上町に対し、石川はこう返す。

「seccaと製品づくりを始めてから、社内のものづくりに対する考え方や見方が変わってきた気がしています。新しくデザインしたものが最初に金型から出てくる時などは、『なんだかすごいのが出てきたぞ!』と、seccaの方たちと一緒になって大いに盛り上がります。これまでと違って、我々は何か美しいもの、新しい価値観のものを生み出しているんだという自信になっているんですね。

実際、そんな手応えを得てから、客層もガラッと変わってきました。『安価な漆器風プラスチック器』のようなフェイク商品ではないので、ちゃんと理解して買いたいという人が増え、問い合わせも増えました。しっかりしたお客さんと、しっかりした打合せをするようになりました。これまでだと、安いものを買い叩くといった雰囲気もあったのですが、そういう感じがなくなりました。そのかわり、こちらもしっかりとした説明をしないといけないので、準備をしなければなりません。社員一人ひとりがちゃんと自分の言葉で製品を説明できないと、納得してもらえないようになりました。ハードルが上がり、自分達も技術的にもより深いこだわりをもてるようになりました」

まさに切磋琢磨の関係にあるseccaと石川樹脂。次はどんな挑戦をするのだろうか? まずは石川がこう答えてくれた。



「プラスチックは、生分解性のものだったり、セルロースファイバーを織り交ぜたものだったり、いまも進歩が著しい素材なんです。そうした新しい素材とseccaさんのデザインの力を掛け合わせ、さらに我々の成型技術の力をもってすれば、生活をより豊かでサステナブルにしてくれるようなプロダクトを、どんどん提案していける思っています。やはりいまの時代は、サステナブルやESG、SDGsを叶えるということが大前提なので、闇雲に多くのものをつくるというより、どういう未来に我々は貢献したいのかというビジョンであり思想の部分に注視しています」

「さすが、普段から会話しているだけあって、何の不一致もなく言ってくれましたね」と笑いながら、上町はさらにこう話す。

「最初に石川樹脂さんに持っていった企画に、世の中の潜在的な欲求と、技術と素材をコネクトしていくような、樹脂のコンシェルジュあるいはコーディネーターのような立場に、石川樹脂さんがなれるようにしましょうという話をしていたんですよ。いまはトライタンという素材に注力していますが、樹脂と言っても多様な種類がありますので、社会的あるいは環境的な負荷を意識しながら、お客様に最適な素材と、その素材の力を最大化する技術とデザインで新しい価値をもった製品をお届けする取り組みを僕もやりたいですし、トライタン以外にそれを実現する素材と事例がどんどんできてくると、石川樹脂さんのポートフォリオもより充実してくると思うので、そこに我々としても貢献したいですね。

洗練された感性を切り口に、事業者と手を携えて世に問う、より豊かな未来のための多様なソリューション。彼らの今後の取り組みにも注目したい。


seccaが伊藤園の依頼で「理想の急須」を開発




「もっとおいしく、簡単に、楽しくお茶を飲んでほしい」──いまや日本を飛び出し、世界のティーカンパニーとしてその名を知られる伊藤園。海外での日本茶人気にもかかわらず、国内での急須の保有率が年々減少している中、彼らがもっとお茶を身近に楽しんでもらいたいという願いのもとにseccaに依頼したのが、「理想の急須」の開発だった。

「伊藤園にはお茶の啓蒙活動を行うため、『ティーテイスター制度』という社内資格があります。お客様との接点を持つセミナーで急須の使い勝手を見ているうちに、お客様にとっての『理想の急須』を開発したいと思いました。既存の急須にある不満要素を素材や形から見直し、理想の急須として形にしようと考えたのです」

そう語るのは、同社のマーケティング本部リーフブランドグループの渕上宜子。上町達也率いるseccaチームとやりとりを重ねる中で、機能美を兼ね備えたデザインと、モノに意味と息を吹き込む才能に驚かされたという。

「平面で見ていた急須が立体となって手に触れた時、これがお客様の不満を解消した理想の急須であると感動しました」

2018年に始まり、毎年キャンペーンのノベルティとして展開されるトライタン製の「理想の急須」は、ガラスのような透明感がありながら、割れにくい強靭性、環境ホルモンを含まない安全性、漂白剤も使用できる耐薬性、耐熱性をもつ樹脂製ゆえ食洗機にも対応するという利便性を兼ね備え、文字どおり「理想の急須」と呼べる逸品に仕上がっている。消費者からは毎年「買いたい」の声が殺到、社内の営業からは「売りたい」の声もあがっているという。

「そうした声は嬉しい限りですが、こちらはキャンペーンを介してお楽しみいただくツールとなっていますので。私達が求める急須ではなく、お客様が求める急須の実現に向けて、seccaさんと手を携え、お客様の声を反映させながら毎年進化させていっています」

「理想の急須」がもらえるキャンペーンは2月15日まで。その素晴らしさをぜひ体験してほしい。詳しくは以下のキャンペーンサイトリンクより。

茶器が選べるおいしいお茶時間キャンペーンサイト
https://www.itoen.jp/campaign/teatime2020-2/

secca
http://secca.co.jp

Promoted by secca / text by Shigekazu Ohno(lefthands)/ photo by Toshimitu Takahashi